コルト動物園
馬車に30分ほど揺られると、コルト動物園の看板が見えてきた。
カラフルな看板の下にはチケット販売があり、従業員のお姉さん2人がガラス越しに座っている。
動物園の周囲は白い柵で囲まれているが、木々の緑色が溢れている為か、圧迫感はなく、優しい雰囲気が漂っている。
園内から子供の嬉しそうな声と、ポップコーンの香りがたちこめ、シュガーの顔をほころばせた。
豆田達は、馬車の代金を払うと、チケット売り場に真っ直ぐ向かう。
「すいません。お嬢さん。ここに大きいトカゲはいるかな?」
「はい! ここにはスコピオオトカゲっていう大きなトカゲがいますよ」
「ほう。そのトカゲは、どこに?」
「スコピオオトカゲは、園内に入って、真っすぐ進んだところにある広場の手前を右に入ってすぐです」
「なるほど。ありがとう」
「お二人様ですか?」
「ああ」
豆田は大人2人分の入場券を購入した。差し出されたチケットにはペンギンとカバのブサ可愛いマスコットが描かれていた。
豆田とシュガーは、入口のゲートをこえ、広場に向かった。
広場には、小さな噴水と小さな屋台が2つ並ぶ。ホットドッグのお店と、テイクアウトのコーヒー屋さん。ホットドッグのお店は、小さな小屋に派手に描かれたホットドッグの絵が映える。
コーヒー屋さんは、その店とは対照的に小洒落た印象で、シルバー色の壁に『Cafe』と書かれただけである。
豆田は当たり前のようにコーヒー屋さんに吸い込まれると、コーヒーカップをもって出てきた。
「豆田まめお。コーヒー屋さんがあって良かったわね」
「ああ。危ないところだった」
「持ってないと落ち着かないのね」
「いざという時に困るだろう」
「動物園でいざという時が来るのかしら……」
「いざを考えて行動するのが探偵だ!」
豆田はそういうとコーヒーを一口飲んだ。
「良いコーヒーだ。コクと酸味のバランスが良い」
「豆田まめお。コーヒーを飲みに来たんじゃないでしょ?」
「そうだった! 確かトカゲはこの辺りだな?」
「あ、あそこのブースが、スコピオオトカゲの飼育スペースじゃない?」
「ん? 確かに、大きなトカゲがいるな!」
「大きいけど、ドラゴンを見た後じゃ小さく見えるわね」
「はは。確かに。しかし、良く似ているな」
柵を挟んだスペースにこちらを直視するスコピオオトカゲがいた。
体長3メートルの巨体は、四肢は短く、大きな顎と鋭い牙をもつ。茶色の皮膚に所どころ斑点模様が浮かぶ。
柵が無ければ、一目散に逃げたくなるほどの巨体だ。
「豆田まめお。確かにドラゴンに似てる気がするわね」
「シュガー。そうだろう? あの前足の角度と言い。背中のカーブもそっくりだ」
「羽は無いけどね」
「そうだな。羽と、あとは首。あとは角か。大まかな作りは同じと考えてよさそうだ……」
豆田は、ベンチに腰掛け、スコピオオトカゲを直視したまま。ブツブツと自分の世界に入っていく。
「豆田まめお。ここにしばらくいる?」
「ああ。シュガー。私は、ここでトカゲを観察しつくす」
「分かったわ! 私は他の動物を見てくるわね!」
「ああ。ゆっくりでいい」
シュガーは、はじめての動物園を心行くまで楽しむ事にした。
***
シュガーは、園内を1時間ほど探索し、豆田の元に戻ってきた。
豆田は、コーヒーカップを握りながら凄まじい眼力でスコピオオトカゲを見ている。
ベンチに座り片手をアゴに当て、かなりの前傾姿勢。脇には空のコーヒーカップが4つ。その気迫溢れる姿は、動物園に全くふさわしくない。
家族連れの来園客一組が、その前を通る事をきらい迂回して、違うブースに向かうのが見えた。
「豆田まめお……」
シュガーは、その姿を見て、呆気に取られた。
豆田はスコピオオトカゲを直視したままコーヒーカップに口を付ける。
その豆田の元に作業服を着た飼育員2名が、駆け寄っていく姿が見えた。
シュガーは、
(豆田まめおが、他のお客さんの迷惑になっているんだわ)
と、思い慌てて豆田の元に駆け寄った。
「お客さん」
飼育員の1人が豆田に声をかける。
「……」
豆田は、スコピオオトカゲに集中するあまり、聞こえていないようである。
「お客さん。そこから移動してもらえます?」
「……」
豆田の耳には届かない。
「あ、すいません……。うちの者が迷惑をおかけして、すぐに移動させますね。」
そう言いながら、シュガーは、豆田の肩をトントンする。
豆田は無反応のままだ。
「豆田まめお。ここにずっといると迷惑だって」
豆田は、瞬きもせずにスコピオオトカゲを観察している。
シュガーは、その集中力に感心しつつ、困る。
(どうやって移動させようかしら?)
「あ、違うんですお客さん。スコピオオトカゲが好きなら、もっと良い場所があるんです!」
「え? 迷惑なんじゃ?」
「え? 迷惑なはずないじゃないですか! うちのカーゴルちゃんをこんなに見てくれるなんて! あ。カーゴルちゃんは、このスコピオオトカゲの名前なんですけど。ふふ。で、移動されます?」
「あ。すぐに聞きますね! 豆田まめお!!」
シュガーは、豆田の顔の前に顔をヒョコっと出す。
「うわ! ビックリした。シュガーか。どうした?」
「彼女さん。この方、凄い集中力ですね」
(彼女さん? そう見えるのかしら?)
「そうなんです……。豆田まめお! この飼育員さんがスコピオオトカゲをもっと見やすい場所を教えてくれるって!」
「何? これ以上見やすい場所だって! すぐに行こう!」
豆田は、スタッ!っと立ち上がる。
「あ。こちらです! 付いてきてくださいね」
豆田は、飼育員さんの後に付いて行く。
「豆田まめお! 私はどうしたら良い?」
シュガーは、長時間になる事を瞬時に悟り、豆田に声をかけた。
飼育員に連れられて、スコピオオトカゲのブースの中に入ってしまった豆田は、
「シュガー! 先に帰ってくれ!」
と、背中を向けたまま答える。
呆れ顔のシュガーは、深いため息を一度つくと、動物園を後にした。
***
日用品の買出しを終えて、自宅に戻ったシュガーは、夕食の用意を始めることにした。
ココア色の髪の毛を後ろで束ね紺色のエプロンを付けたシュガーは、冷蔵庫の野菜室から、人参と玉葱、数種類のキノコを取り出した。
シュガーは、カフェの店員になった気分になれるこの時間が好きだった。
自然と鼻歌がこぼれる。野菜の下処理を終え、鶏肉を取り出した時に、自宅の扉が開く音がした。
「豆田まめお! お帰り! 収穫あった?」
「ああ。トカゲの前腕は記憶した。だが、閉園時間で帰らされた」
(あの飼育員さんもビックリしたでしょうね。スコピオオトカゲの前に一日中なんて)
と、シュガーは思ったが口にしない。
「シュガー。少し異界に行ってくる」
「え? 今から? 晩御飯もうすぐできるけど」
「んー」
「パエリア」
「ほう。では、食べてから向かおう」
豆田は、カウンターに腰掛けると、ノートを取り出し、メモを取り始めた。
「異界で何をするの? もうドラゴン退治の用意が終わったの?」
「いや、トカゲとの違いを見てくる」
シュガーは、納得がいった顔をすると、
「凄い。執念ね」
「シュガー。何でも準備が一番大切だ。準備しきって初めて、スタート台に立つ権利を得られる」
「そうなんだ。じゃ。今回はまだ準備が足りないのね?」
「そうだな。まだまだだ」
豆田は、鶏肉と野菜のパエリアを食べ切ると、熱々のコーヒーを片手に持ち、ロフトの渦巻きに消えていった。
***
ロフトの渦巻きに消えた豆田は、2時間後に帰ってきた。
ソファーに座り、読書をしていたシュガーは、ロフトからドタドタと降りてくる音でそれに気付いた。
「あ! お帰り。収穫はあった?」
「ああ。爺さんは、酸味のあるコーヒーが特にお好きなようだ」
「豆田まめお。流石ぶれないわね」
シュガーは、ニッコリと微笑む。
「あ! ドラゴンの方か。前脚はほぼ同じ構造だった。明日は、動物園で後足を見てくる」
(明日も動物園に行くのね)
「じゃ。私は町に買い物に行くわね。カタル君たちに良さそうな服や食べ物を見てくるわ」
「素晴らしい。よろしく頼む!」
***
豆田によるスコピオオトカゲの観察は連日続いた。
その間、豆田は自宅に戻るとブツブツ言いながら、すぐに隠し部屋に籠る。ようやく出てきたと思えば、すぐに異界へと出かけて行った。
そして、7日目。
「シュガー。トカゲの観察は終わった。明日にでもドラゴンを討伐しよう」
「ついに準備が終わったのね!」
「ああ。やれるだけの事はやった」
豆田の瞳が静かに燃えているようにシュガーには見えた。
***
そして、決戦当日。
「シュガー。持ち物は大丈夫か?」
「ええ。完璧よ。豆田まめお。コレであのドラゴンを退治できるのよね?」
「ああ。予想通りならな。ま、出来るだけの準備はした。後はやるだけだ」
2人はロフトの渦巻きの前に立ち、手をかざした。
渦巻きは、ゆっくりと時計回りに動き始め、空間を歪める。
豆田達は、そこに足を踏み入れ、異界の地へと向かった。
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人物紹介
・『豆田まめお』
主人公。探偵。コーヒーの『こだわリスト』
コーヒーから『こだわりエネルギー』を抜き出し、自在に操る能力者。
コーヒー銃。コーヒーソード。コーヒー鍼。などを使う。中折れ帽子にシャツ姿。わがままで癖が強い。
・『シュガー』
ヒロイン。ココア色のロングヘアー。
世界を救うために、アルテミス国軍から脱走する。
『純人』。豆田まめおのアシスタント。純粋。
・『クロス』
豆田の幼馴染。刑事。
箱の『こだわリスト』。金髪ショートボブの好青年。
天然ボケ。
・『ポロッポ』
ハト。王様に使える伝書鳩。
鳴き声の『こだわリスト』で、人の言葉も話せる。
用語説明
・『こだわリスト』
こだわることで不思議な能力を手に入れた人々。
戦闘に特化したタイプや、道具に不思議な能力を付ける職人タイプがいる。
・『純人』
純粋な心で物事をみる人々。
職人タイプの『こだわリスト』が作る道具を何でも扱える。
・『異界の者』
違う世界から現れたと言われる人々。
『こだわリスト』と『純人』にしかその姿は見えない。




