準備
カタル達のいる世界から、戻ってきた豆田とシュガーは、コーヒーを飲んで一息つくことにした。
豆田はキッチンに立ち、『こだわり』のコーヒーを淹れ始める。その手つきはいつもに増して丁寧で、日常を取り戻すのに一役買う。
シュガーもまたカウンターに座り、それを眺めることで、自宅に戻ったことを実感しているようだ。
コーヒーを挽く香りが、キッチンに立ち込める。いつも通りのその香りは、先程までの光景が夢の中の出来事のように感じさせた。シュガーは、落ち着きを取り戻し、客観的な質問を豆田に投げかける。
「ねー。豆田まめお。あの世界が異界と言われるところなのかな?」
「んー。どうだろうか。しかし、その可能性は高いな」
「そうよね。見たこともない空の色だったもんね」
「そうだな」
豆田は、淹れたてのコーヒーをシュガーに手渡した。
「ありがとう」
「お好みで、砂糖とミルクを」
「ふふ。ありがとう」
豆田はシュガーお気に入りの砂糖とミルクをトレイに乗せて、カウンターに置いた。
「で、どうやって、あの大きいドラゴンを退治するの? コーヒーソード?」
「いや、コーヒーソードでは無理だな」
「じゃ。どうやって?」
「今から考える」
「え? 案が無いのに、あんなに自信満タンなことを言ったの?」
「大丈夫だ。私は自分に出来ない範囲をよく知っている」
「……どういうこと?」
短い沈黙の後、豆田はコーヒーを一口飲んで、その問いに答える。
「ヒトの力を借りるってことだ」
「え? 誰の? クロスさん?」
「クロスにも協力してもらうが、一番力を貸して貰うのは、シュガーだ」
「え? 私?」
「ああ。ドラゴンを倒すのに『純人』の力が必要だ。とりあえず町に出る!」
「町?」
そう言うと、豆田はコーヒーカップを持ったまま階段を降り、外に向かった。
シュガーもすぐその後を追う。
***
豆田はブツブツと独り言を言いながら、道を進む。
こう言うときは、話しかけても何も返事がない事を知っているシュガーは、無言で豆田の後に付いて行く。
しばらく歩くと、コーヒー豆の販売所『ロブスコーヒー販売所』が見えた。豆田達が『オヤジの豆屋』と呼んでいるその店に早速入った。
「お! 豆田の旦那。今日は何の豆だ?」
「おやじ。実は今日も例の『豆田ブレンド』が必要なんだ」
「ほう。立て続けにヘビーな依頼なんだな......。ちょっと待ってろ」
そう言ったオヤジは、店先に出ると、看板をクローズに変えると、カウンター裏に回り、レジを打ち始めた。
「51足す。117っと!」
側面の壁が床に沈み、その奥からシルバーの棚が現れた。
「で、豆田の旦那。今日は『豆田ブレンド』の何にする?」
「そうだな。では、アレを貰えるか?」
「アレだな? よしすぐに用意する......」
オヤジは、豆田が指さした瓶からコーヒー豆を取り出し、袋に詰め出した。
「豆田まめお。その豆で、ドラゴンと戦うの?」
「ああ。この豆でおそらく退治できるはずだ」
「なんだ? 旦那。今度はドラゴン退治なのか?」
「ああ。異世界に行けることになってな。ドラゴンを退治することになった」
オヤジは、開いた口が塞がらない。
「な。相変わらずの規格外だな。豆田の旦那は......」
「そうか? 普通だが」
「豆田まめお。そんな普通はどこにもいないわ」
「そうかー。ま、そんなことより、オヤジに一つ聞きたいことがあるんだが......」
「ほう。旦那。それはなんだ?」
「実は、職人の『こだわリスト』の作品を探しているんだが、どこか良い店を知らないか?」
「職人の『こだわリスト』の作品かー。そうだな。3軒ほど知っているな。地図を用意する。ちょっと待っててくれ」
「オヤジ。助かる......」
「いいってことよ」
そう言うと、オヤジはカウンターから紙を取り出し、地図を書き始めた。
「豆田まめお。職人の『こだわリスト』の作品を使って、戦うの?」
「ああ。そうだ。ま、作品を見てみないと、どうやって戦うか見当もつかないがな。とりあえずやれる事はやってみよう」
「分かったわ」
豆田はオヤジから地図を受け取ると、『オヤジの豆屋』を後にした。
***
豆田とシュガーは、地図に書かれた店を周り、使えそうな作品を集めてきた。
「この作品達を『純人』の力で使えると仮定すれば、作戦の立てようもあるだろう」
「これで、ドラゴンと戦える?」
「これだけではまだ無理だ。どう利用するかを考える必要がある。それに……」
「他にも用意がいるの?」
「ああ。あとはクロスに用意して貰いたい物があるのと......」
「あるのと?」
「後は、これだ!」
豆田は歩道脇に立つ看板を親指で指した。
「え? コルト動物園?」
「ああ。動物園にトカゲを見に行く」
「あ。大きいトカゲって、本気で言ってたのね」
「ああ。おそらく骨格の基本は同じじゃないか。と思うんだ」
「違うと思うけど……」
豆田は、言う事だけ言うと、スタスタ歩きはじめた。
「豆田まめお! コルト動物園って、ここから遠くない?」
「シュガー。あそこから馬車に乗る。急ぐぞ」
そう言うと、豆田はメイン通りの外れにある馬車停に急ぐ。
馬車停は、焦げ茶色の壁に小さな庇が乗っかっただけの簡単な作り、そこに『馬車停』と書かれた看板が置かれているので、なんとか、ここが馬車停だと分かる。
この馬車停には、4人乗りの馬車が次々と停まり、乗客を乗せて、その希望の目的地に向かう。その目的地に応じて、代金を支払うシステムだ。
豆田とシュガーは、そこで馬車待ちの列に並んだ。早速、馬車がやってきたのが見えた。
「シュガー。馬車が来たようだ」
「あれに乗るのね」
2人の目の前に馬車が停まると御者席の男が、横目で豆田を見ると、
「どこまで行くんだ?」
と、不愛想に話す。
「コルト動物園まで頼めるか?」
「コルト動物園かー。少し距離があるな。銀貨2枚で良いか?」
「ああ。それでいい」
御者席の男は目線で豆田とシュガーに客席に乗るように促す。
「ありがとうございます!」
シュガーの元気な声に、少し驚いた顔をした御者席の男は、2人が座るのを確認すると、無言のまま馬車を走らせた。
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人物紹介
・『豆田まめお』
主人公。探偵。コーヒーの『こだわリスト』
コーヒーから『こだわりエネルギー』を抜き出し、自在に操る能力者。
コーヒー銃。コーヒーソード。コーヒー鍼。などを使う。中折れ帽子にシャツ姿。わがままで癖が強い。
・『シュガー』
ヒロイン。ココア色のロングヘアー。
世界を救うために、アルテミス国軍から脱走する。
『純人』。豆田まめおのアシスタント。純粋。
・『クロス』
豆田の幼馴染。刑事。
箱の『こだわリスト』。金髪ショートボブの好青年。
天然ボケ。
・『ポロッポ』
ハト。王様に使える伝書鳩。
鳴き声の『こだわリスト』で、人の言葉も話せる。
用語説明
・『こだわリスト』
こだわることで不思議な能力を手に入れた人々。
戦闘に特化したタイプや、道具に不思議な能力を付ける職人タイプがいる。
・『純人』
純粋な心で物事をみる人々。
職人タイプの『こだわリスト』が作る道具を何でも扱える。
・『異界の者』
違う世界から現れたと言われる人々。
『こだわリスト』と『純人』にしかその姿は見えない。




