表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/75

報酬の使い道

 グロアニア地方の5月は一年の中で一番降水量が少ない。ここ首都コルトでも連日晴れの日が続いている。


「流石に暑いな! コレはシーリングファンを回す必要がある」

「そう? まだそこまでじゃない?」

「いや、絶対暑い! コレは依頼主が来た時はかなり不快なはずだ!」

「そう? 予約も入ってないじゃない! 新しいのを回したいだけでしょ?」

「はは。そうとも言う」


 豆田が買ったばかりのシーリングファンのスイッチを入れた。


 吹き抜けの天井に付けられた新しいシーリングファンは、静かに回り、優しい空気の流れを作った。


 爽やかな空間の中、シュガーは朝から事務作業をこなしていた。

 豆田は天井を見ながら、考え事をしていたが、急に、声を張った。


「あー。そうするしかないかー。シュガー! ちょっと出かけてくる」


 何かを思い出したようで豆田は急に出かけて行ったが、1時間ほどで帰ってきた。


「ふふっふふーふー」


 帰ってきてからの豆田は明らかに上機嫌で、昼食後のコーヒーを淹れながら、鼻歌をこぼしていた。


「豆田まめお。今日は、どうしたの? かなりご機嫌ね」


 豆田の淹れる食後のコーヒーを待ちながら、シュガーはキッチンカウンターの上に常時置いてある箱に手を伸ばし、中からチョコを2つ取り出した。


「ああー。シュガー。ちょっとした買い物をしてねー」

「あ。王様から頂いた報酬で?」


 シュガーはチョコを1つ頬張りながら、尋ねた。


「ああ」

「私も早速、服と食べ物と、カバンを買ったわ。豆田まめおは、何を買ったの?」

「ああ。家を買った」

「そう。ふーん」


 シュガーは、2つ目のチョコを食べる手を止めた。


「え? 家?」


 シュガーは再度豆田に尋ねた。


「ああ。この家をオーナーに売って貰った」


 豆田は、出来上がったコーヒーを一口飲み満足気な表情を見せる。


「え? いつ? え?」

「あー。シュガー。さっき出かけただろ?」

「え? さっきって? あの1時間で?」

「ああ。話が早くて助かった」

「はぁ―」


 シュガーは、大きいため息をつく。いつも豆田は予想しない事を平気でやって来る。


 豆田には予想など全く無意味だともいえるが……。


「驚かされるのにも慣れてきたわ」


 シュガーは素早くこの状況に対応する。


「実は……」

「え? まだあるの?」

「昨日の夜、急に改装がしたくなってね」

「まさか。その為に?」

「ああ。いちいち改装するたびに許可を取るのは大変だからなー」

「ある意味、流石だわ」

「はははー」


 豆田は楽しそうに笑う。


「で、どこを改装するの?」

「ああ。シュガーがロフトを使っているだろ?」

「?」

「ロフトはスペースが狭くて、ベッドしか置けないだろ? だから、少し奥行きが欲しくなってね」

「何か置きたいの?」

「シュガー用の棚とデスク。あと、大きな鏡とかもいるだろう?」


 シュガーは、急に前のめりになり、目を輝かせる。


「え? それは嬉しい! かなり嬉しい!」

「それは良かった。あと、一階の隠し部屋も少し拡張したくてね。可能なら、ベッドを置こうかと」

「いいわね! じゃー。今から町に出て、ロフト用の棚とか見に行ってきても良い?」

「ああ。どうぞ」

「やった!」


 シュガーは、嬉しそうな顔を見せながら、脳裏に理想のロフト像を思い描く。


 食後のコーヒーを飲んだ後、シュガーは楽しそうに町に出かけていった。


***


(えーっと。この辺りかしら?)


 シュガーは、地図を見ながら豆田から聞いたオススメの家具屋『トライアングル』を探す。


 エスタ通りから10分ほど歩いたこの場所は、普段はあまり来ない場所だった。


「あ! ここね!」


 豆田探偵事務所の家具の大半をこの『トライアングル』で揃えている事もあって、外から覗く店舗の様子は、どことなく自宅と同じ雰囲気をまとっている。


 店舗前には、小さな看板が置いてあり、そこには2階に併設されているカフェのメニューも記載されていた。おススメは『チーズとトマトのフォカッチャ』。


 その美味しそうな写真を見て、シュガーは昼食を食べてからここに来た事を後悔した。


 今度来た時には豆田とフォカッチャを食べようと、心に決め、店舗に入った。


「木製の家具が多いのねー。どれも素敵ね。あ! あれ!」


 ひと際目に付いたのが、ダイニングテーブルである。オーク材を使用した大きなダイニングテーブルは、大人数で囲むには理想的な大きさである。


 シュガーは、小さなローテーブルとカウンターしかない我が家に欲しいと思ったが、今は棚を買いに来たことを思い出し我慢する。


 棚が並ぶエリアは店舗の割と奥の方にあった。


「良い大きさの棚は、あるかしら?」


 のんびり眺めていると、後ろから店員が話しかけてきた。


「何をお探しですか?」


 オーバーオールを着たショートカットの女性店員は、優しい口調で尋ねてきた。


「あ。棚とデスクと大きな姿見を探しているんです」

「欲しい物の大体のイメージはありますか?」

「あのー。自宅の雰囲気にあった物を買ってくるように言われたんですが……」

「あら。どなたのお家かしら?」

「豆田まめおって言うんですが、ご存じですか?」

「あー! 豆田さんのところ! ってことは、シュガーさん?」


 店員のテンションが明らかに上がった。


「え? 私の事を知ってるんですか?」

「そりゃ。有名よ! 豆田さんのところに来たアシスタントさんよね! あなたのお陰で豆田さんが働き者になったって、もう噂でもちきりよー。私たち『こだわリスト』の間でだけだけどね! ふふっ」

「私は普通にしているだけなんですけど」

「豆田さんの横に居て、普通に出来るって凄い事よ! 誇っていいわよ」

「そうでしょうか?」

「そうよ! ふふっ。」


 にこやかに笑う店員につられてシュガーも微笑む。


「あ。棚だったわね?」

「あ、そうなんです。ベッドサイドに合う棚が欲しくて」

「ベットサイドね。じゃ。こんなのはどうかしら? 特別仕様よ!」


 店員は、深緑色の自身の身長の半分ほどの棚に手を触れながら勧める。


「え、割と普通ですねー」

「そう思うでしょ? でも、あら不思議。上から3段目の棚を半分開けてから、素早く1段目を開けると……」


 シュガーは首を傾げながら、中を覗き見る。


「中から隠し金庫が奥から現れるの! どう? 凄いでしょ!」

(あ。この人も職人の『こだわリスト』?)

「凄いですけど、できれば機能は普通で、見た目が可愛いのが欲しいですけど」

「そう? 変わった機能はいらないの? あれはシャボン玉が出るんだけど」


 少し奥に置いてある黄色い奇抜な棚を指さしながら、店員は残念がる。


「あ。店員さん。この可愛いデザインのピンクの棚は……」

「それは、サンマを焼いたにおいがするの」

「その機能は、ちょっと……」

「そう? 斬新なのにー」


 シュガーは、斬新すぎると突っ込みたかったが、グッと堪える。


「あ。この棚は、どうかしら? 新作なんだけど」

「あのー。店員さん。申し訳ないですけど、機能は何もない方が良いんですが……」


 シュガーが制止するも店員は気にせず話し続ける。


「でね。これは、小さくなって持ち運びができるの! ほら手のひらサイズ」


 店員の手の平の上に、可愛らしい白い棚が乗っている。5cmほどの大きさ。


「それもちょっと……。え?」


 店員の話を聞き流そうとしていたシュガーだが、一気に興味を持つ。


「うそ。凄い!! それは中に入れた服とかは、どうなってるんですか?」

「ええ。もちろん小さくなっているわ」

「どういう原理なんですか?」

「ふふ。それは企業秘密よ」


 シュガーは、その答えに深く考える事をやめた。


「その棚、欲しいです!」

「お買い上げ、ありがとうございます。あとで届けますか? それとも」


 シュガーは、ニコっと微笑みながら、


「もちろん。小さくして持ち帰ります!」


 と、嬉しそうに答える。


「ふふ。どうぞ。シュガーさんも『こだわリスト』だったのね。なんの『こだわリスト』かしら?」

(あ! 『純人』は秘密にした方が良いのよね?)

「あのー。まだ未熟なんですが、雑貨の……」

「あー。なるほど!」


 店員さんは、小さくなった棚をシュガーに手渡す。


「凄い! 軽くもなるんですね!!」

「いいでしょ! シュガーさんだから売りますからね。普通の人には売らないですから、秘密にしてくださいね」

「ありがとうございます」


 シュガーは、代金を支払い満足な笑顔を浮かべた。


「後の姿見とデスクはどうされます?」

「今日は、もう大満足なんで、また後日、改めて見に来て良いですか?」

「ええ。楽しみに待ってますね」

「はーい!!」


 シュガーは、小さくなった棚をカバンに入れ、店を後にした。


 シュガーは、上機嫌に街を歩いていく。


(すごくいい買い物ができたわ! これで、旅行に行く時も服を沢山持っていけるわね。これは、豆田まめおも流石にビックリするわね! 楽しみ!)

 

 シュガーは、豆田が驚く姿を想像して、ニヤニヤしながら自宅の扉をあけた。


 階段を上がり、メインフロアに上がったシュガーは、豆田の姿を探す。


(あれ? いないのかしら?)

「豆田まめおー! ただいま!」


 シュガーは、少し大きな声で、気配を探る。

 返事はないが、ロフトからガサガサと音が聞こえる。

 豆田がロフトで何かをしているようだ。


「豆田まめおー! 何をしているの? ねーねー。私、凄くいいもの手に入れたの! きっとビックリするわよ」


 シュガーは、ロフトに向かって話しかける。


「シュガーか。おおー。いいね。こちらも少しビックリすることになってるんだ」

「え?」


 シュガーは、全く見当が付かず首を傾げる。


「豆田まめお。何があったの?」

「……」


 無言の豆田を心配して、シュガーは速足でロフトに上がった。

 そこには、見たこともない物があり、シュガーは絶句してしまう。


「ああ。シュガー。部屋を拡張しようと壁を壊したら、こんなものが出てきてねー」

「え?」


 壊された壁の向こうには、扉ほどの大きさの渦巻きが宙に浮いている。

 紫と黒で出来た渦巻きは、時計回りにうごめいている。

 今朝までのオシャレなロフトは見る影もなく消えてしまった。


『ゴゴゴゴゴー』


 と、効果音を付けるのがしっくりきそうな渦巻きをシュガーは指さし、


「え?」


 と、再度声にし、豆田に先の展開を預ける。


「ああー。どうも異界に繋がるゲートみたいなんだ」


 シュガーは、目を丸くし、口をパクパク動かす。言葉が口から出ないようだ。


「ははは。この中に、一瞬だけ入ってみたら、見たことない世界に行ってね! 傑作だった!」


 豆田は、心底楽しそうに大笑いした。

 シュガーは、ようやく硬直が解け、思考が回り出す。


(家具屋さんより、驚くことがあるなんて)


 豆田は、渦巻きを親指で指さしながら、


「ひと休憩したら、中を探索してみようか」


 と、大胆な発言をする。


「え。ちょっと待って、豆田まめお。全然脳みそが、ついていけてないわ。今までで一番混乱しているわ」

「はは。では、明日の朝から探索すると事にしようか」

「そうね。少し時間がほしいわ」


 シュガーは、ロフトの光景はとりあえず見なかったことにして、メインフロアに降りた。


***


 その夜。シュガーは、ベッドに横たわり、禍々しい紫と黒の渦巻きを見つめる。


(なんで、こんなにグルグルしてるんだろう)


 そんな事を考えている自分が少し可笑しく思うが、この渦巻きの横で、正常な思考が出来る方が可笑しいと、シュガーは思った。


(って、言うか。こんな物の横じゃ。寝られないわ)


 シュガーの長い夜が始まった。

ご覧いただきありがとうございます!


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新頻度あがります!


どうぞよろしくお願いいたします!


――――――――

人物紹介


・『豆田まめお』 

主人公。探偵。コーヒーの『こだわリスト』

コーヒーから『こだわりエネルギー』を抜き出し、自在に操る能力者。

コーヒー銃。コーヒーソード。コーヒー鍼。などを使う。中折れ帽子にシャツ姿。わがままで癖が強い。


・『シュガー』

ヒロイン。ココア色のロングヘアー。

世界を救うために、アルテミス国軍から脱走する。

『純人』。豆田まめおのアシスタント。純粋。


・『クロス』   

豆田の幼馴染。刑事。

箱の『こだわリスト』。金髪ショートボブの好青年。

天然ボケ。


・『ポロッポ』

ハト。王様に使える伝書鳩。

鳴き声の『こだわリスト』で、人の言葉も話せる。


用語説明


・『こだわリスト』

こだわることで不思議な能力を手に入れた人々。

戦闘に特化したタイプや、道具に不思議な能力を付ける職人タイプがいる。


・『純人』

純粋な心で物事をみる人々。

職人タイプの『こだわリスト』が作る道具を何でも扱える。


・『異界の者』

違う世界から現れたと言われる人々。

『こだわリスト』と『純人』にしかその姿は見えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ