アギト支部。ボス戦
「やー。誰かと思えば、君はクロス君だね」
金髪オールバックの男は、不自然なほどゆっくりとした口調で話す 。
「僕のことを知っているのか!」
クロスはいつでも男を撃ち抜けるよう準備をしている。そこに油断などない。
「ああ。もちろんだとも、散々私たちの組織の邪魔をしてくれたからね。豆田くん。君もだ」
銃口を向けられていることなど気にもせず、ゆっくりとデスクに座る。 まるで自身に迫る脅威など無いかのように。
(広い空間にデスクだけ。なぜだ?)
豆田は明らかに不自然なこの空間の観察を始める。
(大きなライトが8基。天井までの高さは4メートルほどか。 壁には不自然なほど大きな壁掛け時計。大きな振り子が揺れている。高い位置に窓? 嵌め殺しの窓か。嵌め殺し? 睡眠ガスを使うのか? と、言うことは時間稼ぎをするばす……)
『ギイイーー!! ガシン!』
大きい音をたて扉が自動的に閉まった。
扉の方を振り返る一同。豆田だけはボスから視線を外さない。
(やはり時間を稼ぐみたいだな……。おそらくヤツの必勝のパターンだな。コーヒー銃で撃ち抜くのは簡単だが、ここはそれにあえて乗って、情報を引き出すか……)
豆田はさり気なくシュガーの横に移動し、小声で話しかける。
「シュガー。おそらく睡眠ガスを充満させる気だ。杖を使って、この辺りに酸素を」
その言葉を聞いたシュガーは、ショルダーバッグから【酸素濃度を上げる杖】を取り出し、杖先を床に向けた。周辺の酸素濃度を上がっていく。
(コレで、しばらくは催眠ガスは防ぐ事が出来る)
「私はクロス君と、前々からゆっくり話がしたかったんだよ」
「話は署で聞かせて貰おう!!」
クロスは引き金に力を込める。
「ふふふ。何を怯えているんだ? 私は一人。君たちは沢山いるのに、どうした?」
ボスはデスクからフラリと立ち上がる。
「動くな!!」
クロスの言葉に、ボスは大人しく従い両手を上げた。
「これで私は何もできない」
ボスは不敵な笑みで語り続ける。クロスの額には汗がにじむ。
「クロス君。豆田君。君たちには本当に驚かされてばかりだ。あのキャンディーの秘密にたどり着き、まさか、ここにまで来ることになるとは思わなかったぞ」
「キャンディーに睡眠物質を入れて、何をしようとしてた?!」
クロスの声は怒りで震えているようだ。
「ふふふ。私たちの大きな野望には大量の資金が必要でね。そこで思いついたんですよ。子供たちを寝たきりにした後、私たちがその子たちを目覚めさせれば良いと」
「自作自演? なぜそんなことをするの?」
シュガーがクロスの背後から問う。
ボスは呆れたように溜息をついた。
「はー。バカなんですか? 寝たきりの子供を大量に作り、その1人2人を私が目覚めさせてあげれば、あとは簡単。その噂を聞きつけた親や家族が大金を持って、私の元に集まりますよね?」
ボスはシュガーを見下した。
「私は睡眠の力を使い。目覚めない子供を作り、大金を親から得て、その子を目覚めさせる!! これの繰り返しで、莫大な現金を集める予定でした」
(嘘は言っていない。ガスを充満させて攻撃してくるなら、そろそろのはずだ。でも、なんだ? この違和感は?)
豆田は違和感の正体を探る。
「あなたは、なんてひどいことをするの!!」
シュガーが叫んだ。
「何を言う! ひどいのはあなた達です!!!!!!」
ボスは急に大声を張り上げた。
「私が何年も何年もかかった計画を!! あなた達は一瞬で!」
「言いたいことはそれだけか? あとは署で話を聞いてやる!!」
クロスは銃を構えたままポケットから、手錠を取り出した。 しかし、ボスは相変わらず余裕の表情を浮かべている。
『ポサッ』
シュガーの肩に乗っていたポロッポが地面に落下した。
(ポロッポが寝ただと?! 催眠ガスなら防げているはずだ。違う何かか?)
豆田は、予期せぬ事態に思考を加速させる。
「な、なにをした!!」
地面に落ちたポロッポを見たクロスは怒りのままボスに詰め寄り、眉間に銃を当て力を込めた。
「あれ? あの鳩は、どうされたのですかね? 私は何もしてませんよ」
「お前のせいだ......。ろ......」
クロスは手で顔を拭う。極度の眠気がクロスを襲った。
『ドタッ』
クロスはその場に崩れ落ちた。ボスは、鼻で笑うと、大きな壁掛け時計の前に移動した。クロスの部下の顔色が変わる。
「クロスさん!! 大丈夫ですか?! 貴様!!」
部下の1人が銃を握り締め、狙いを定める。
「ふふふ。流石に催眠ガスが効かない事には、少し動揺しましたよ。どうやら、あなた達の周りにだけガスが届いていなかったようですね。豆田君の仕業ですか?」
豆田はその言葉を無視する。
(クロスは、シュガーの杖の効果範囲から出た為に、催眠ガスにやられたのか……。では、ポロッポは別の何か?)
「ふふふ。無視ですか......。まー。無視してくれてもいいんですが......」
『ドサッ』
ボスに銃口を向けていたクロスの部下が崩れ落ち、いびきをかく。
(何が原因だ? まさか!)
「シュガーと、そこのお前! 時計を見るな! その振り子を見ると寝るぞ!」
豆田は、シュガーと残るクロスの部下にそう指示を出す。2人は視線を床に落とした。
「ほぅ。なるほど、流石の洞察力ですね。しかし、無駄ですね。私の睡眠の力は五感に働きかけるんですよ。キャンディーは味覚。ガスは嗅覚。そして、振り子時計は視覚」
「な! まさか、聴覚もか! しまった! ヤツの声に耳を傾けかけるな!」
「フハハ。もう遅い! 羊が1匹……」
シュガーは慌てて耳を塞いだ。クロスの部下は、間に合わずその言葉を聞いてしまった。急激な眠気が襲う。
「羊が2匹……。羊が3匹……」
『ドサッ』
クロスの部下は、朗らかな顔で眠ってしまった。
「で、どうします? そんな無防備で」
その声に、顔を上げたシュガーの目前にボスは立っていた。
「スリーピーハンド!!」
ボスの手がシュガーに触れた。シュガーは膝から崩れ落ちた。杖が手元から転がる。
「この杖で、催眠ガスを回避するしていましたか。と、言うことは、豆田くん。チェックメイトだ」
「くそ……」
豆田に睡魔が襲いくる。
(眠る訳にはいか……ない……。最後に、こ…ひ……)
豆田の視界は見る見るうちに狭くなっていく。膝に力が入らなくなり、右手に収まっていたコーヒー銃はコーヒーカップの上に浮遊する『こだわりエネルギー』の塊に戻ってしまった。
「ふはははははは。全滅だ!! 気持ちいい!!」
勝ちを確信したボスは倒れているクロスの元にいき、その身体を蹴り上げる。が、クロスは全く反応しない。
「まったく手こずらせやがって! またイチからだ!! くそ! このくそが!!」
ボスは全く反応しないクロスを何度も蹴る。クロスの身体がその度に浮き上がる。
「モズーラ様に何と言えばよいのか。くそ! こいつだけは! 殺してやる」
ボスは懐から銃を取り出し、クロスに銃口を向け引き金を引いた。
『パーーーン!!!』
発砲音が室内に反響する。
『カシャカシャ』
ボスの握っていた銃は何者かに打ち抜かれ、地面に転がった。
「そこまでだ!!」
ボスは驚愕する。
そこには眠っていたはずの男。豆田が立ち上がり、ボスに睨みをきかせている。
「な、なぜ。動いている!!」
ボスはあたりを見渡す。
「まだこの空間は密閉されたままだぞ!! 催眠ガスでお前は眠ったはずだろ! くそ! 羊が一匹……。羊が……」
豆田はコーヒー銃を構えたままボスとの距離を詰めていく。
「何だと! 嗅覚、聴覚がおかしいのか? コレならどうだ! スリーピーハンド!!」
ボスは高速で移動し、豆田の背後に回る。そして、背中に触れた。
「フハハ。コレで終わった! 確実だ!」
『バコン!』
豆田はコーヒー銃のグリップでボスの顔面を殴った。ボスの身体は、デスクまでぶっ飛ばされた。
「ひぇぇーー! なぜ睡眠が効かない! なぜ催眠ガスも羊も、ハンドも効かないだ?!」
ボスは、自身の能力が全く通じない豆田に恐怖する。
豆田は鼻で笑うと、
「あ―。それか……。倒れた瞬間、コーヒーの『こだわりエネルギー』を飲んだ。身体中の細胞隅々までカフェインが回った。よって、全く眠くない!」
「カフェインだと?! こちらは像でも寝る。睡眠の能力だぞ!」
ボスは髪の毛をかきむしる。
「MAX集中したお陰か、はたまた『こだわりエネルギー』を飲んだお陰か分からんが、カフェインを全身の細胞に効率よく運びきる事に成功したようだ」
「な、なんなんだ。お前は。普通じゃない!!」
「はは。褒めて頂きありがとう」
ボスはギリリと歯をかみしめ、叫ぶ。
「睡眠の力よ! 私の元に!!」
するとボスに向かって風が吹く。
ボスの右手に部屋中に拡散された睡眠の『こだわりエネルギー』が集まっていっているようだ。
「拡散してちた睡眠の力を集めた。この濃度なら、流石に寝るだろう。くらえ!!」
(右のつま先に重心。右三角筋前部繊維、深指屈筋の硬直。眼球の向き。銃か。来る!!)
豆田の観察眼が冴えわたる。ボスの狙いを読み切り、迫りくる青い弾道を軽々と躱した。
「ま、まさか、私が睡眠銃を撃つのを知っていたのか?」
「何のことだ?」
「知っていようとも!!!」
ボスは一際険しい表情。
(右の踵に重心。右三角筋と大胸筋の硬直。深指屈筋の硬直。先ほどより右)
豆田の横を青い弾丸が通り過ぎる。
「あ、当たらないだと!! 俺の能力を誰に聞いた!!」
ボスは睡眠銃を乱射する。
「いや、お前の体がそういっている」
その攻撃をことごとく躱す豆田。
「はははー。分かったぞ。心を読んでいるのか?」
「身体だが?」
豆田の指摘をボスは完全に無視する。
「これだけは使いたくなかったが!!」
そういうと自分に銃口を向け放つ。
『バスン!!』
睡眠銃に撃たれたボスの身体は、青い光に包まれた。
「これは、心を読む敵には効果的なんだが、勝利の瞬間を味わえないのが残念でね。ま、やられるよりは……ましか……」
ボスは直立したまま深い眠りにつく。
『ぐーぐー』
寝息を立てるボス。次の瞬間。豆田の視界からボスが消えた。
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していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新頻度あがります!
どうぞよろしくお願いいたします!
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人物紹介
・『豆田まめお』
主人公。探偵。コーヒーの『こだわリスト』
コーヒーから『こだわりエネルギー』を抜き出し、自在に操る能力者。
コーヒー銃。コーヒーソード。コーヒー鍼。などを使う。中折れ帽子にシャツ姿。わがままで癖が強い。
・『シュガー』
ヒロイン。ココア色のロングヘアー。
世界を救うために、アルテミス国軍から脱走する。
『純人』。豆田まめおのアシスタント。純粋。
・『クロス』
豆田の幼馴染。刑事。
箱の『こだわリスト』。金髪ショートボブの好青年。
天然ボケ。
・『ポロッポ』
ハト。王様に使える伝書鳩。
鳴き声の『こだわリスト』で、人の言葉も話せる。
用語説明
・『こだわリスト』
こだわることで不思議な能力を手に入れた人々。
戦闘に特化したタイプや、道具に不思議な能力を付ける職人タイプがいる。
・『純人』
純粋な心で物事をみる人々。
職人タイプの『こだわリスト』が作る道具を何でも扱える。
・『異界の者』
違う世界から現れたと言われる人々。
『こだわリスト』と『純人』にしかその姿は見えない。




