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コーヒーの香り②

「そこの帽子野郎! どうだ? 取引しないか? そこのシュガーを渡せば、お前の事は見逃してやるが、どうだ?」


 グラザは、偉そうな態度のまま柵をまたぐとカフェテラスに入ってきた。


「断る! ようやく手に入れた念願のアシスタントだ。お前に渡すはずがないだろ」


 そう言いながら帽子男は、目の前にあるテーブルを蹴り倒し、その陰に隠れるよう、シュガーに目線を送った。


「アシスタント? 何の事か知らんが、交渉決裂という事だな……。俺様は無駄な労働は好まないんだが仕方ない。お前はここで死ね!」


 カフェテラスのテーブルを片手で軽々と持ち上げたグラザは、それを帽子男に向かって投げつけた。


 テーブルが風を切りながら、帽子男に迫る。


 帽子男は、最小限の動きでそれを躱すと、コーヒー銃の照準をグラザに合わせ引き金を引いた。

 

 弾丸は、寸分の狂いもなくグラザの眉間に向かって真っすぐと飛ぶ。


「反撃だと?!」


 予期せぬ攻撃に、グラザは一瞬ためらうも、鉄製のナックルバンドに力を込めて弾丸を弾く。鋭い金属音が鳴り、弾かれた弾丸は車道の石畳を削った。


「フハハハ。そこから反撃した事は褒めてやるが、この程度の威力でこのグラザ様に牙をむくとは愚かな奴だ」


 そう言いながら、グラザは腰を深く落とすと、カフェテラスの床に向かって、巨大な拳を構えた。 


「フン!!」


 気合いと共にグラザは、正拳突きを地面に向かって放った。


 カフェテラスに敷き詰められたレンガは砕かれ、宙に舞う。グラザはその巨大な手の平を目一杯広がると、その舞い上がるレンガの破片に向かって頭上から打ち下ろした。


 無数のレンガ片が散弾銃の弾のように飛び、帽子男を襲う。


「これは、まずい! コーヒーシールド!」


 コーヒー銃は帽子男の手元を離れ、玉のような液体に戻る。次いで、浮遊する球体は高速に回転し、形状を変化させていく。


 回転の遠心力によって球体は、薄く引きのばさていく。1センチほどの厚みまで伸ばされると、黒いプレート状のシールドが完成した。


 この間、僅か0.1秒。


 帽子男は出来上がったばかりのシールドを襲いくるレンガ片の方に向けた。破片がコーヒーシールドに刺さる。


「ほう。シールドにもなるのか。しかし、そんな薄いシールドなど、グラザ様には無意味だ!!!」


 そう咆えたグラザは、カフェテラスに置かれた鉄製のテーブルの脚をもぎ取る。それを簡易な槍に見立てると、大きく振りかぶる。


 その巨体をムチのようにしならせたグラザは、全身の力を一点に集め、槍を投擲する。


 空を切り裂き、弾丸のように進む槍。


 その威力を察した帽子男は、シールドをすぐに球体に戻し、側転し槍を躱す。


 行き場を失った槍は、地面にめり込むと、爆音と共に粉塵を巻き上げた。視界が霞むほど粉塵は、グラザの視界から帽子男を消した。


「帽子野郎! いくら素早く避けようが、貴様らの勝ちはない! 諦めて、2人とも投降しろ!! 俺は無駄な時間が嫌いだ! 10秒やる。その間に投降しなければ、まずはシュガーを殺す!」


 グラザの言葉にテーブル裏に隠れるシュガーは震えあがった。


「ワイル博士。ゴメンなさい。もうダメ」


 ポタポタとシュガーの頬から涙が落ちる。全てを諦めたシュガーが立ち上がろうとした瞬間、砂煙の中から、帽子男の声が聞こえた。


「だから、シュガーはお前の物ではない! 私のアシスタントだ! コーヒー銃!!」


 砂煙を破った弾丸が、グラザに向かって飛ぶ。


「くそ!!」


 この奪われた視界の中での反撃はないと思い込んでいたグラザは不意を突かれ、一瞬、戸惑った。


「だが、貴様の弾丸など効かん!!」


 前腕に力をこめたグラザは、自身の眉間に向かって飛ぶ弾丸をナックルバンドで弾いた。


「やったぞ! バカの一つ覚え……」


 そう言いかけたグラザの眉間に強烈な衝撃が走り、天を見上げる恰好になった。


「......? 何が起こった?」


 グラザは眉間に遅れてやってきた痛みで、はじめて撃たれた事を認識した。大きく仰反る恰好になったグラザだが、歯を食いしばり、なんとか気を失わずに耐えきった。


「2発の連射か?! たが、この程度の弾丸じゃ無駄だと分からんのか!!」


 首に力を込め、グラザは視界を前方に戻した。帽子男を絞め殺してやる! そう意気込んだ。


 しかし、粉塵が収まったカフェテラスに帽子男の姿が見当たらない。


「どこへ、行った!!」


 グラザは目の球をギョロギョロ動かし、帽子男を探す。


「あー。出来れば動かない方が身のためだ」


 グラザの背後から帽子男の忠告が聞こえた。


『ゾクッ』


 グラザは背筋が凍り付くのを感じた。ボタボタと冷たい汗が地面に落ちた。


(俺が恐怖しているだと? そんなはずはない! 気のせいだ! 俺様はまだやれる!)


 自分を律したグラザは反撃の機会を探る。


「この不意打ちでも私を倒せなかった訳だ。非力とは罪だな」


 そう言ったがグラザだが、全身の細胞がこの場から逃げ出すように忠告している。この帽子男は得体が知れない。しかし、逃げ出す訳には行かない。逃げ帰っても殺されるだけだ。


 グラザは刺し違えてでも、帽子男に最高の一撃をお見舞いしてやると覚悟した。


 帽子男は、そう意気込むグラザを無視して、テーブルの陰に隠れるシュガーに話かけた。


「シュガー。この男は無力化した。あとは先程の2人を念の為に拘束しておく。手伝ってくれ」

「え?」

 

 シュガーは驚きの声をあげながら、テーブル裏から顔を出した。そこには仁王立ちするグラザの横を無防備に通りすぎる帽子男の姿が見えた。


「帽子野郎! どういうつもりだ! まだ戦いは終わっていないぞ!!」


 グラザは、理由は分からないが、明らかに油断している帽子男を背後から握りつぶそうとした。


 が、身体は全く動かない。


「な、何んだ?! おい! 俺様の身体が! 貴様! 何をした?」


 グラザの顔から血の気が引いていく。


「ん? コーヒー鍼を頚椎2番の奥に刺しただけだが……」


 状況が掴めていないグラザに、帽子男は呆れた表情向けた。


「何の事だ?」


 混乱しながらグラザは、震える声で聞き返した。


「説明が必要か……。ま、簡単に言うと、コーヒー鍼を深く刺し、首から下を動けなくしたという事だ」

「嘘だろ? 動けー!! 俺様の身体! うー!! ぐおおおおーー!!」


 グラザは、いう事を効かなくなった体に力を込めようと模索するが、無駄なあがきだった。


 帽子男は、唸るグラザを放置して、歩道で気絶しているダリーの元へ向かった。


「おい! 待ってくれ! 行くな! 元に戻してくれ」


 薄っすら涙を貯めながら、グラザは情けない声を出した。


「うるさいぞ。黙っていろ! 死ぬか? コーヒー銃!」

「嫌だ! ギピーー!!」


 グラザは恐怖のあまり、奇声を上げ、失神してしまった。


「やれやれ。握力の『こだわリスト』だと思って警戒したが、そうではなかったようだな……。ただ手がデカいだけの男か……。さ、拘束拘束っと……」


 帽子男は、ダリーとイフトの2人が失神している事を確認すると、シュガーを手招きで呼んだ。


「シュガー。もうこの場に危険はないようだ。追手は来ないかもしれないが、警戒しつつ1人づつ拘束しよう。店員さんに言って、何か紐のような物を借りてきてくれ」

「え? あ、え?」


 シュガーは全く思考が追いつかない。


「おいおい。シュガー。アシスタントになる契約だろ?」

「あ! そ、そうですね。えーっと、アシスタントの仕事ですか……?」

「そういう事だ」


 帽子男はアシスタントが出来た事が余程嬉しいのか、上機嫌に口角を上げた。

 シュガーは、まだ震える身体を動かし、カフェの入り口に向かった。ちょうどそのタイミングで、カフェの店員が扉をそっと開け、帽子男に話しかけた。


「あのー。豆田さん。戦い……。終わりましたか?」


 その表情は驚いた様子などなく、いたって普通だ。


「ああ。無事に解決出来た。あとは警察を呼んでくれるかな? あと、拘束する紐を借りたい」

「分かりました。すぐに電話をかけて、ヒモを用意しますね」


 急いで店内に戻ろうとする店員を豆田は呼び止めた。


「あー。あと、ここの修理代とコーヒー代だが、ここから貰ってくれるか?」


 帽子男は立ったまま気絶しているグラザの懐から財布を取りだすと、店員に投げ渡した。


「あ、ありがとうございます。オーナーに渡しておきます!」


 財布を受け取った店員は扉の奥に消えていった。帽子男はシュガーの方に視界を向けた。


「あー。自己紹介がまだだったな。私は、豆田まめお。探偵で、コーヒーの『こだわリスト』だ」

「えっと。探偵さんは、コーヒーの『こだわリスト』で、名前は豆田まめおさん?」


 まだ頭の中がまとまらないシュガーは、聞いた事をそのまま口にする。


「え? 豆田まめおさん?」

「ああ。豆田まめおだ」

「こ、個性的な名前なんですね」


 シュガーは、精一杯言葉を選んでそう言った。

 豆田まめおは、その反応を待ってましたと、ばかり喜ぶと、


「だろ? とても気に入っているんだ」と、口角を上げた。


 清々しい快晴の中、パトカーのサイレンが街に鳴り響いた。

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