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コーヒーの香り①

 先程までランチを楽しむ人で溢れていたオシャレなカフェテラスは、すっかり静まり返っていた。

 状況が掴めないシュガーは、歩道に倒れるダリーを見て固まっていた。

 目の前に座る帽子男は、何事もなかったように落ち着いた様子で、コーヒーを一口飲む。


「で、シュガー。そこでじっとしたままでいいのか? 追手はアイツだけか?」

「え……? あ。まだいます!」


 帽子男の言葉でシュガーは、我に返りそう答えた。


「で、あのー。助けて貰ったのに、こんな事を聞くのは、おかしいんですけど、あの人は、もしかして……」


 短い呼吸を繰り返しながらシュガーは、震える指をダリーの方に向けながら、帽子男に尋ねた。

 シュガーのその姿を見た帽子男は、言いたい事を察したようだ。


「大丈夫だ。殺していない。気絶させただけだ。アルテミス国軍の者だろ? 訳も分からない内に殺すのは流石にマズイ」

「え? なんでアルテミス国軍って、分かったんですか?!」


 シュガーは帽子男の指摘に驚きの声をあげた。


「あの制服を見ればすぐに分かる。で、シュガーは訳アリで。軍に追われている……。だな?」

「そうなんですけど……。こんな事を聞くのはおかしいですけど、なんで助けて頂けるんですか?」


 急に鋭い目つきになった帽子男は手の平を素早くシュガーにかざし、言葉を遮った。


「あいつらか……」


 帽子男の視線の先には、銃声を聞きつけ路地から現れた長身の男がいた。


「ダリー!! 大丈夫か!!」


 アルテミス国軍の青いコートを羽織ったイフトは周囲を見渡す。路上に倒れるダリー。カフェテラスに男女の姿。イフトはその女がシュガーだと気付いた。すぐさまポケットから閃光弾を取り出し、上空に向かって放った。


 閃光弾は屋根を超える高さまで真っ直ぐ上がったあと、小さな破裂音と共にチカチカと光った。


「コレで、グラザ大尉はすぐここに来る」


 無事に閃光弾が作動したことを確認したイフトは、ダリーの元に素早く駆け寄り脈を確認する。その間も視界の端にカフェテラスにいる男女を捉え、逃げ出さないように警戒する。


 ダリーの脈を確認したイフトは少し安堵した。

が、次いで、そこにいるシュガーに対して怒りが込み上げてきた。


「シュガー!! これはお前がやったのか?」


 イフトは鋭い視線をジャガーに向けながら怒鳴った。コートをまくり、懐から銃を取りだすと、怒りで震える指を抑えながら、銃口をシュガー向けた。

 

 これ以上イフトを刺激しないように細心の注意を払いながら、シュガーは無言のまま両手を上げた。

 

 怯え切ったシュガーの前で、イフトの方を興味深く観察する帽子男は、コーヒーをひと口飲んだ。そして、満足げな笑みを浮かべる。


 シュガーを下腿を撃ち抜こうとしていたイフトだが、帽子男の場に不釣り合いな態度が癇に障わり、照準を帽子男の方に向け直した。


「なんだ? そこのお前は? シュガーの協力者か? 貴様がダリーをやったのか?!」


 イフトの怒りの矛先は帽子男に変わった。銃口を帽子男の眉間に向けたまま、その距離を詰めていく。

 帽子男はイフトの言葉を清々しいほど無視すると、冷や汗が滲むシュガーに話かけた。


「シュガー。どうだろ? アシスタントとして、しばらく働いてくれるなら、奴を何とかするが……」


 少し驚いた表情を見せたシュガーだが、反射的に小さく頷いた。


 上がる口角を隠す為に、帽子男はコーヒーカップに口をつけた。


「おい! そこの男! 貴様も手をあげろ!!」


 この帽子男は『オカシイ』と、判断したイフトは引き金に力を込めた。

 帽子男は、イラついた視線をイフトに向ける。


「さっきから、うるさいぞ! コーヒー銃!!」


 その言葉に反応して、帽子男が持つコーヒーカップから液体がフワリと浮かび上がった。一度綺麗な球体になった液体は、すぐさま分裂し、大きな塊と、小さな6つの塊に変化する。


 帽子男は右人差し指をイフトに向けた。


 分裂した塊は、それぞれ銃と弾丸に形状を変えると、銃は帽子男の右手に向かって吸い込まれるように移動する。浮遊していた弾丸もそれに装填された。


 帽子男は、右手に収まったばかりのコーヒー銃の引き金をすぐさま引いた。


 あまりにも不思議な光景に、一瞬見惚れてしまったイフトだが、向けられた物が銃である事に気付き、慌てて引き金を引いた。


 が、そこにはもう銃は無かった。帽子男の放った弾丸がイフトの銃を空中に飛ばしていたのだ。弾かれた衝撃だけがイフトの右手に残る。イフトの顔が一気に青ざめた。


「うわー! お前! それは、なんなんだ?!」


 イフトは帽子男の妙な銃とその射撃の腕に、畏怖し後退った。が、背中に圧を感じ、イフトは立ち止まった。


「なんだ? イフト。不測の事態か?」


 低い威圧的な声がイフトの耳に届いた。閃光弾を確認したグラザが路地からやってきたのだ。


 イフトは振り返ると、


「グラザ大尉! ダリーがやられました!! おそらくあの男の仕業です」と、報告した。


 グラザの登場で、落ち着きを取り戻したイフトは、腰に携帯していたナイフを取り出し、勇ましく構えた。


(グラザ大尉が来てしまった……)


 グラザの声を聞いたシュガーは、身体が足先から硬直していくのを感じた。


「ほう。で、イフト、貴様は今逃げようとしていたのか?」

「あ。いえ、あの……」


 イフトは必死に言い訳を考えようとした。


『ブン!!』


 グラザの裏拳がイフトの顔面に直撃し、その長身を吹っ飛ばした。軽々と飛んだイフトの身体は、通り沿いの店舗に頭からめり込んだ。


「この恥さらしが!!」

 

 グラザはもう意識のないイフトの方に向かって、ツバを吐いた。


 シュガーは恐る恐るグラザの方を振り返った。


 そこには、険しい顔をシュガーを見る巨体があった。巨大な両腕は丸太のように太く、特注品の黒い制服ははち切れそうになっている。


 地面にすりそうな拳には革製のグローブと、その上に鉄製のナックルバンドが装備されていた。自分以外の人間を見下したその目に、シュガーは絶望を感じた。

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