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うまなちゃんはもっと感じたい  作者: 釧路太郎
白ギャル黒ギャル戦争

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先輩と先輩

 お父さんもお母さんもお地蔵さんの事は知っていたみたい。

 過去に何かで関わっていたという事だったけど、詳しいことは何も教えてもらえなかった。私に隠したいというよりは、あえて言う必要も無いような些細な出来事でしかないと感じるような態度だと思った。

 お地蔵さんの事を調べるようになってから稲垣さんの姿を見かける頻度が増えたように感じるのだけど、詩織ちゃんたちはそんなことは気にしなくても大丈夫だと言ってくれた。私たちと稲垣さんの行動範囲が重なっているだけだと思うし、私が見かけた稲垣さんは私の事を気にしている感じでもなく他の誰かと話をしているように見えたので、私が稲垣さんに監視されていると思い込んでいただけなのかもしれない。


 浩二君と勇作さんの他に知らない男との人が一人ベンチに腰かけていた。

 知らない人の隣には二人とも座れるスペースが開いているにもかかわらず、浩二君も勇作さんもそこには座らずに少し前の位置に立って私たちをジッと見ていた。

 詩織ちゃんたちは私をかばうように私と男の人の間に入ってくれていたけれど、男の人は私の事をずっと見てきていた。詩織ちゃんたちが話している間もずっと私の事を見てきていたのだ。

「勇作から聞いたんだが、お前だけ地蔵を見ることが出来なかったそうだな。お前にはそういう才能が無いって事だからこれ以上努力しても無駄だ。俺がそう言ってるんだから間違いない」

「え、久雄さん、話が違いますよ。うまなちゃんが見えるように協力してくれるって言ってたじゃないですか」

「確かにそう言ったぞ。でも、それはこいつを直接見る前にお前たちから話を聞いた時点での話だ。こいつを直接見たところ、俺程度じゃどうすることも出来ないって事がわかったんだよ。だから、俺はお前らに協力なんてしないし、こいつに関わることもしない。俺はお前たちと違ってそういう事はしないんだ。悪いが俺も暇じゃないんで帰らせてもらうぞ」

「ちょっと待ってくださいよ。ここで久雄さんが帰ったら俺たちどうすればいいんですか?」

「どうもこうもあるか。勇作、お前はもう子供じゃないんだ。自分で考えて行動しろ。いつまでも俺のいう事ばかり聞いてたんじゃ成長しないぞ」

 男の人はベンチから立ち上がると私の真横を通り過ぎてそのまま街中へと消えていった。何が起こっていたのかわからなかった私は男の人の後姿を目で追い続けていたのだ。男の人が角を曲がるときに一瞬こちらを見ていたのだが、遠くにいて表情なんてわからないはずなのに目が合ったような気がしていた。

 他のみんなも私と同じように黙って男の人の後姿を見ていたようなのだが、男の人の姿が完全に見えなくなったところで勇作さんが空気を変えるためなのか明るい声でみんなに話しかけてきた。

「ごめんね。久雄さんが乗り気じゃなくなっちゃったみたいで協力してくれなくなっちゃったみたいなんだ。さっきまで力を貸してくれるって言ってたんだけど、なんか急に気でも変わっちゃったのかな。うまなちゃんも気を悪くしちゃってたらごめんね」

「いえ、私は別に何とも思ってないですけど。さっきの人っていったい誰なんですか?」

「俺たちの高校の先輩なんだよ。あのお地蔵さんの話とか教えてくれたのは久雄さんでさ、他にもいろいろな不思議なことを教えてくれてるんだ。俺たちも久雄さんのおかげでそういうものが見えるようになったんでうまなちゃんもそうなるんじゃないかなって思って力を貸してもらおうと思ったんだけど、あんな感じになっちゃってごめんね」

「別に私はそういうの気にしてないんでいいですけど。私も見えるようになりたいとは思ってるんですけど、さっきの人が私に才能が無いって言ったのを聞いてこのままでもいいんじゃないかなって思ったんです。お父さんもお母さんもその方が良いよって言ってくれているし、このまま見えなくてもいいかなって思ってきたんですよ」

 みんな私から目をそらしてうつむいてしまった。私のために力を貸してくれようとしているのはわかるんだけど、私は少しずつ自分が見えない側の人間だという事を受け入れてきている。小さいときは両親が見えているものが私にだけ見えないことに焦りや苛立ちを感じていたんだけど、今になって考えるとそう言った世界は見えない方が幸せなんじゃないかと思えてきたのだ。何もかも見えるよりも、嫌なものは見えない方が幸せなんじゃないかって思えてきたのだ。


「今日はさ、お地蔵さんじゃなくて他のモノを見に行ってみようか」

 詩織ちゃんが浩二君と勇作さんと三人で何かを話しているなと思ったら今日の予定を話し合っていたようだ。私と茉子ちゃんと友紀ちゃんは詩織ちゃんの提案を断るようなことはせず、三人についていく事にした。

 私が変なことを言ってしまったからなのか、歩いているときも会話はなくどこに向かっているのかもわからなかった。

 五分ほど歩いて二階建てのアパート前までやってきた。そのまま勇作さんが駐車場の方へと向かっていったので私たちもそれに続く。

「じゃあ、今日は悪魔の家に行ってみようか。あそこは霊能力がなくても気配を感じたりすることが多いみたいだし、久雄さんの言っている通りうまなちゃんに力がないのか確認できると思うんだ」

 悪魔の家。多分、この町の七不思議の一つなんだろうけど、私はそんな噂話を知らない。

 知らないけれど、私はここで断ってみんなとの関係がこれ以上ギクシャクしたくないと思ってしまい、断ることも出来ずに車に乗り込んでしまった。

 本当は行きたくないけれど、詩織ちゃんたちとの仲が悪くなることは避けたい。

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