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黄泉坂

作者: 結城 黒子

『――――!!』

 それは一瞬の出来事だった、突然、背後で車の急ブレーキを踏む音が聞こえたと思ったら……目の前が真っ暗になり――事切れていた。




『――――!?』

 気が付くと辺りには靄がかかっていた、死んだら異世界に転生した……なんていう話はあるけれど、ここはどこかしら? 前を見ると……道が緩くうねりながら続いているようだった、道の外れは……靄で見えない、道の端を見ると……細長い丸みを帯びた石が置かれ、『黄泉坂』と掘られていたが、文字は長年風雨にさらされ薄くなっていた。後ろを見ても靄でよく見えなかった……『あっちへ行きなさい』ということかしら? ……仕方がないので少しでも先が見える方の道を進むことにした。


 あぁ、それにしても短すぎる人生だったなぁ〜、何事にも本気になれるものを見つけられずに、適当に流してるような人生だったけれど……今、本気で後悔している。それとも、そんなんだったから……こんなことになってしまったのかしら、……もしも、もしも異世界に転生したら――今度こそ、『本気だす』そう誓った。


 薄靄の中を道らしきものを頼りにトコトコと歩いていると、ぼんやりと人影が見えてきた。


 近づいてみると、私と同い年くらいの女の子だった。私は後ろから声をかけた。

「こんにちは」

 彼女は振り返ると言った。見た目が蒼っちょろい色白で端整な顔立ちの美少女だった。

「こんにちは。……あなたは……?」

「私は、サラ」

「サラ……」彼女は独り言の様に呟くと言った「私はコリン、……ここはどこ?」

『ここはどこ』と訊かれて私は困った。――そもそも私にもわからないのだから……、大体ここは情報量というものが少なすぎる。周りを見渡しても靄で景色も何も見えやしない、見えるものと言えば……白くうねった細い一本道で、ここへ来るまでの記憶を辿れば……車に轢かれたということくらいである――それはわかっている。でも……『ここ、どこなのー?』私が訊きたいわー!! と言うことで――正直に応えることとした。

「さぁ、わからない。……ここへ来る途中に『黄泉坂』と彫られた石碑を見たけれど……、もしかして……死んだの、……コリン?」

「黄泉……坂……? 入院はしていたけれど……どうかしら、病気は安定してたと思うけれど……」と、コリンは話してくれた。


 話を聞くと彼女は慢性の白血病ということだった。それでも最近の医療は進歩しているらしく、薬を飲めば症状を抑えることが出来るそうで、日頃の手洗い、うがいをして、感染症に気をつけていれば日常の生活を送れていたと言うことだった……が、ここ暫くは体調を崩して入院を余儀なくしていたと言うことだった。


 そんな話をして、二人はどこへ続くともわからない一本道をトコトコと共に歩いていた……。異変があったのはそんな時だった。

『…………?!』

 気が付くと辺り一面靄が濃くなり……『マジやばい』と思ったときには時すでに遅しで――ホワイトアウトしていた。




『――――!?』

 気が付くとそこは見知らぬ真っ白な天井だった。


 看護師さんの話によると私は、事故に遭いこの病院へ救急搬送されたそうである。運ばれてきた当初は意識もなく、かなり危険な状態だったそうだが無事手術も終わり一命を取り留めたと言うことだった――『マジ奇跡』。

 その後、六週間入院した後に後遺症らしきものもなく無事退院することとなった。……ただ、なんとなく首筋に違和感があったので話をした所、通院をして様子を見ることになった。



 ある日、私は病院で彼女に出会った。

「――コリン」と呼びかけて返ってきた反応は、私の想像とは違ったものだった。ハッキリ言うと覚えていなかったのである。夢を見て――朝、目覚めたら夢を見ていたこと自体すっかり忘れていたみたいに……。『……私、入院してるので……』と『黄泉坂』の出来事のことは記憶にない様子だった。私もあのことが夢だったのかもと疑ったことがあったので、それ以上その事については訊けなかった。


 ただ一つだけ、気がかりなことがあったので私は彼女に訊いた。

 病気はどうなったのかと……すると彼女は答えてくれた。

 以前から探していたドナーが見つかり、近く骨髄移植をするそうで、治療をすれば完治するとのことだった。

 その事で彼女は不思議に思ったが、訊くべきことは聞いたし、もう思い残すことは何もない――その場を適当にごまかし私は病院を出た。


 外は晴れ渡り、どこまでも蒼い空が高く高く広がっていた。私は決めていた、退院したら――今度こそ本気で人生を生きるんだ。

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