2日目 チーム戦1
体育祭2日目
今日はチーム戦、個人戦が開催される事になっている
前半でチーム戦を行い、後半で個人戦が開催される予定
「つ、遂にこの日が来たね!」
久遠が両手を前に、気合を入れている
「さすがの俺でも緊張してきたぜ……」
対する火継はらしくなく緊張していた
「大丈夫だよ……!」と久遠が火継を励ますように近付く
そんな2人を尻目に、浅葱はトーナメント表を見ていた
「私たち1年生はシード枠、2,3年生が先にぶつかるわけなんだね」
「なぁ、なんで1年がシード枠なんだ?」
「それは……」
そこまで言いかけると、後ろから四星が声をかけてくる
「それはだな、戦闘歴が浅いからだ!」
四星がドヤ顔で登場した
「戦闘歴……ですか?」
「あぁ、1年は経験が少ないからな。学校側の配慮でもあるんだ」
「へぇー、俺は戦いが少なくなって嫌だけどな」
「ははっ、その自身や良し!だが、昨日より敵は強いぞ?」
そう言い終わると、浅葱は振り返る
「なに、一勝すれば優勝ですよ。簡単じゃないですか」
浅葱はそう言い、不敵に笑う
トーナメント表を指さし、対戦相手の名前を確認する
「私の表では3年の白川木賊、2年の柊右京か。2年は知っているけど、3年のこの人は誰?」
「さぁ?新任の私は知らないからな」
「そ、そうだった……」
浅葱は期待が外れたかのように、落胆する
火継と久遠は自分たちのトーナメント表を確認して指をさす
「あ、見て!2年の枠に高杉さんの名前が」
「相方は……大堂先?」
「どこかで聞いたことがある名前……」
2人はしばらく考えると、思いついたのか顔を見合わせる
「「クラスメイトの大堂先と同じ名前だ!」」
「昨日会ってたじゃないか」
「わ、忘れてた……」
そんなやり取りを見ながら、四星が腕時計を見る
「……そろそろ時間だな。お前たち、しっかり頑張ってこいよ!」
四星はそう言って、3人の背中を押す
「「「任せてください!」」」
3人が元気よく返事をし、各自持ち場へと進んで行った
「って、浅葱はまだだろ」
「そうでした……」
残った2人は、火継達を見送るのであった
*
控え室に座っている2人
部屋には彼らしか居らず、他の選手や先生が見当たらなかった
「もしかして、早すぎたのかな?」
「いや……通してくれたし大丈夫だと思うけどなぁ」
そうこうしていると、後ろのドアが不意に開く
2人が振り返ると、そこには不機嫌そうな2年チームの2人が入室してきた
「……ったく、なんで決勝まで進むのかなぁ。僕としては、さっさと負けたかったんだけどなぁ」
「手加減を知らない馬鹿のせいだな。まぁ、私は負ける訳にはいかないからな」
「ブラコン野郎め」
「何とでも言えばいい。事実だからね」
「張合いのないやつ!」
そう言い合いながら入室2人は、控え室にいた火継達の存在に気付く
すると、さっきまでの険悪なムードから一転
優しい先輩風を吹かす人格に切り替わっていた
「やぁ2人とも!無事にここまでたどり着いたんだね!今日は頑張ろうね!」
「この場に立つ者同士、全力でぶつかり合おうじゃないか」
突然の変化に、2人は動揺してしまった
なされるがままに握手をする
「あの……お2人は仲が悪いんでしょうか?」
勇気をだして、久遠が質問する
「「その通り!」」
その質問に対し、2人がほぼ同時に答える
「……仲は良さそうだな」
火継がボソッと呟く
それを聞いた高杉は「とんでもない!」と食い気味に答える
「こいつってば緒戦で僕一人に戦わせたんだよ!ひどくない!?」
「最強なんだろ?存分に戦わせて上げたじゃないか」
「ね?こいつ、チーム戦を理解していないんだよ」
「ははっ……」
火継は苦笑いするしか無かった
(1vs2で勝つ紫音先輩はどれだけ強いんだよ)
そう考えた火継は、縮み上がってしまう
そんな時、またしても後ろのドアが開く音がする
そこには遅れてやってきた3年生の2人が立っており、4人を眺めていた
「あぁ、俺たちが最後って訳か」
「ふっ、強者は遅れてやってくると言いますしね」
「……なんだこいつら?」
高杉が3年に指差し、振り返る
その行為を見たふたりは激昂する
「なんだその態度は!お前達、どっちが2年だ!」
「私たちでーす」
高杉と大堂先が手を上げる
「ふん、道理で生意気だと思ったぜ!」
「精々、楽しませてくれよ」
そう言い捨てると、2人は部屋を出て行ってしまった
残された4人の空間に沈黙が流れる
しかし、それは高杉の笑い声によって破られる
「あははっ!あいつら……『精々、楽しませてくれよ』だってさ!あはっ、やばい……思い出しただけで笑いが……くふっ」
それに対し、大堂先も顔を背け、肩を震わせていた
火継達が呆気に取られていると、大堂先が火継の肩を叩く
「大丈夫、私が出るからには勝つよ」
「そうそう!僕が出るからね!」
「「……ん?」」
2人は顔を見合わせるも、直ぐに顔を背ける
「またね」と2人に手を振りながら、控え室を後にした
「先輩たち……自信満々に出ていっけど、大丈夫なのか?」
「高杉先輩の強さは前にも見たし……信じるしかないよ!」
2人は控え室にあるテレビを見る
そこには3年と2年、両者が向かい合っていた
「皆さん良くぞお集まりくださいました!只今より、2年生対3年生のチーム戦を始めます!」
景気の良いアナウンスが流れ、遠くから観客達の熱狂的な声が微かに聞こえてくる
「遂に始まる……チーム戦が」
2人は固唾を飲み、見守っていた
次戦で戦うことになる、対戦相手を
*
既に空間に入った4人はお互いに向かい合う
3年チームは敵意を表し、2年チームは挑発していた
「本日初戦におけるステージは……森だ!」
4人が立っている周りには木々が生い茂っており、遠くまで木が不規則に生え揃っている
「森か……お前たち終わったな!」
3年チームリーダー格の男がそう指をさす
「へぇ……森だとそっちに利があるのかい?」
「ふん、今にわかるさ」
メガネをかけた男がそう返答した
そこに天からアナウンスが聞こえてくる
「改めて、ルールをおさらいするぜ!ルールは至ってシンプル、相手を全員帰還させれば勝利だ!」
それを聞いた4人は、臨戦態勢を取る
「それじゃあランダムな開始位置飛ばすぜ!準備は良いか戦士たち!」
4人は同時に、返事をする
「「「「あぁ!」」」」
「オーケー!それじゃあ、第1回戦!チーム戦の開幕だ!」
開始の合図と共に、4人の体は別々の場所へと飛ばされていった
*
控え室で見ていた火継たちはその様子を眺めていた
「遂に始まったな…チーム戦!」
「う、うん!しっかり先輩達の動きを観察しなくちゃ!」
その時、画面では4人が別の場所へと飛ばされる
そして、見ていたモニターの画面は各選手たちを写すように4分割された
「なるほど、こうして4人の動きを観察できるのか」
火継達は各選手達の動きを見逃さないように、モニターを凝視し始めるのであった
「あぁ、ついに始まったか」
外の観客席で見ていた浅葱は3Dマップと各選手を写した画面を眺めていた
「しかし、すごい技術だ。こうして詳しく戦況を映し出せるのか」
「あぁ、すごいだろ。黄昏に誇る技術だ」
振り返ると、柊右京と岡田響子がポップコーンを持って歩いてきていた
「やっほー浅葱さん!隣、座ってもいいかな?」
岡田がそう言うと、浅葱は少しズレて「どうぞ」とジェスチャーをした
「ありがとう!」と言うと、2人は席に腰を下ろした
「浅葱、お前の見立てだとどっちが勝つと思う?」
柊が不意に、そう質問した
「そうだね……私は高杉さんの実力しか知らないし、公平な判断は出来ないけど。あえて決めるなら、2年チームかな」
「なるほどな」
柊はその答えを聞き、納得したかのように返事をする
「確かに、普通だったら2年チームが勝つだろうな。それぐらいにアイツらは強い」
「……この試合が普通じゃないとでも?」
会話の中に混じった言葉に、疑問を投げかける
「今回のステージは森だ。あの3年のメガネ、名前はハイターと言ったか」
「彼がどうかしたのか?」
「見ていればわかる」
そう言って、柊は我慢を見るようにジェスチャーをする
浅葱はそれ以上言及せず、素直にその指示に従った
画面にはハイターと高杉が接敵している所だった
*
今試合のステージである森の中
そこではハイターと高杉が接敵し、お互い膠着状態にあった
「やぁ、僕達は出会ってしまったわけだけど……どうする」
高杉がそう問いかける
「愚問だな。お前を倒す以外に、何があるんだ?」
「同感!」
そう言うと、高杉は武具契約によって呼び出したトマホークをぶん投げる
高速で迫るトマホークを間一髪避けたハイターだったが、目の前には高杉が迫ってきていた
「まずは一撃!」
そう言いながら、手元に武器を戻して振り下ろす
しかし、その攻撃は空を切る
トマホークはハイターの数センチ前を空振っていた
(あれ……私が距離を見誤った?)
混乱している所に、ハイターの右ストレートが浅葱の顔面を捉える
「ぶはっ!」
殴られた衝撃で、高杉の顔が後ろに仰け反る
すかさず、ハイターが左拳で連続攻撃を仕掛けた
「がっ……!」
連続でヒットし、高杉は大きなダメージを受けていた
「ふっ」
ハイターが俯いた高杉の顔面を目掛けてアッパーを仕掛ける
しかし、高杉はそれを受け止める
「3回目は流石に喰らわないぞっ……!」
受け止められたハイターは素早く手を戻し、距離をとる
高杉は自分の足元に違和感があることに気付き、下を見る
足には根っこが絡みついており、動かせないでいた
武器を持ち、根っこを破壊して自由にする
「あんた、そういう能力者なんだね」
「さすがに気付いたか、そうだ。私の能力は植物を操る能力だ」
「へぇー……また良い能力貰ったね」
「羨ましいか?」
「もちろん」
高杉は流れ出た鼻血を吹き出す
「それが、あんたの言った『今にわかる』って事の正体か」
「その通り。たとえ相手との力量差があろうとも、戦場の利によって勝敗は左右する」
そう言いながら、木に生えた蔓を伸ばし高杉を捉えようとする
高杉はそれに気付き、トマホークで切り落とす
「無駄だよ。全てを斬らない限り、その蔓は君を追い続ける」
「そんなの、斬り続ければ尽きるでしょ!」
「えぇ、それが1本の場合ですがね」
そう言うと、高杉の四方八方から蔓が伸び始める
「私が1本しか動かせないようなレベルの低い能力者だと思ったら大間違いですよ」
「こ……これは流石にやばい!」
そう言うと、高杉はハイターに背を向けて全力疾走する
「ふん、学園最強と謳われていても所詮この程度ですか。……はやく彼と合流しなければ」
そう言って、ハイターは逃げる高杉を追わずに別の方向へと走っていった
*
別の場所で、大堂先は気楽に歩いていた
辺りを見渡してはいるが、警戒をしているようには見えていなかった
(相手はいないし、こんな広い森で見つけられる自信ないし、困ったねぇ)
そう思いながら、散歩をしているかのように歩いていた
しかし、そんな彼女を見る怪しげな人物が隠れている
(大堂先鮠!……学園最強の女。俺一人では勝てない、ハイターの合流を待たなければ)
男は自身の戦闘力を把握し、決して驕らず
相方の到着を密かに待っていた
しばらくした後に、男の近くの草木が不規則な動きを始める
(これは……ハイターの合図!俺を見つけたんだな)
予め決めていた作戦を思い出し、実行に移そうと男は行動を始める
その様子に気付かない大堂先は、ついに近くの切り株に腰をかけて座り始めてしまった
(相手チームも高杉も見つからないし……まさかやられた訳じゃないよね?)
そう考え事をしている大堂先の後ろに、男はたっていた
大堂先はまだ気付いておらず、男は一撃必殺の技を楽に打ち込める状況に局面していた
(あの大堂先が無警戒に、俺を背後に立たせている……!こんなチャンスはもう二度とねぇ)
男はナイフを取り出し、ゆっくりと構える
ナイフを両手で持ち、背中に狙いを定める
(さらばだ大堂先!)
振り下ろしたナイフは無音で、大堂先の背中目掛けて勢いよく迫っていた
「そうだ」
その時、不意に大堂先が立ち上がってしまう
ナイフは大堂先の背中を掠め、切り株に突き刺さる
(しまった!)
ナイフは深く突き刺さり、直ぐには引き抜けなかった
「ん?」
違和感に気付いた大堂先が後ろを振り返る
そこには、ナイフを切り株に突き刺した男が大堂先を見上げていた
「あっ……」
男は初めて声を出したかと思うと、大堂先の強烈な蹴りを顔面に受け止めていた
吹き飛ばされた男は地面に仰向けに倒れる
「なんだいるじゃん、3年」
そう言って、大堂先は男を見つめながら間合いを詰める
(やばいやばいやばい……!正面切ってのタイマンじゃ絶対に勝てない!奴はそういう能力なんだ!)
腰が抜けた男は立ち上がれずに、後ろへとゆっくり後ずさっていた
突如、大堂先の動きが止める
「ん?」
足元を見ると、根っこが大堂先の足に絡みつき動きを封じていた
「仲間が来たのか」
再び前を見ると、男を抱き起こすハイターの姿があった
「ハイター……」
「音無、無事か?」
「あぁ、すまねぇしくじった」
2人は逃げるわけでもなく、大堂先に向かい合った
「ハイター、作戦Bに切り替えていこう」
「よし」
「あー……ちょっといいかな?」
大堂先が話しかけ、2人の動きが止まる
「高杉……あー、チームメイトの事だけど。もしかして負けた?」
大堂先が未だ見えない高杉の行方を知ろうと、質問する
その問いにハイターが答える
「帰還してはいないが、無様に逃げ出したよ」
「はぁ……負けたんだアイツ」
そう言うと溜め息を吐き、腕を組む
「……随分余裕だな大堂先。人数有利だ、お前の得意な能力ではさせないぞ」
「能力ねぇ……何か勘違いをしているのかな?」
「何言っているんだ?お前がタイマン専門なのは周知の事実……」
「それが勘違いだって言ってるんだよ」
大堂先は2人を睨む
「別に私がタイマン専門なんて言った覚えはないけどね。むしろ……集団戦は大歓迎!」
そう言うと、大堂先は目の前から姿を消した
それが最後に見た、音無の景色だった
ハイターが気付いた頃には、既に音無は帰還していた
隣には残心を残した大堂先が立っていた
「嘘だ……」
「事実だよ。後、後ろ気をつけた方がいいよ」
その言葉を聞き、ハイターが後ろを振り向く
そこにはトマホークを片手に持った高杉が歩み寄っていた
「ひぃ!」
ハイターは情けない声を上げてしまう
大堂先など気にもせず、近付く高杉に向けて能力で妨害を図る
しかし、全ての攻撃を理解していたかのように
高杉は余裕を持って、全ての攻撃を躱す
「な、なんで当たらないんだよ!」
その問いに答えず、高杉はトマホークを持ち上げる
そして、ハイターの頭めがけて振り下ろされる
致命傷を受けたハイターは帰還する
「おい高杉……お前、また眼が変わってるぞ」
「え?……あぁ、ちょっとキレてた」
「何発貰った?」
悪戯気味にそう聞く大堂先を、高杉は2回軽く小突く
そして、一足先にその場から抜け出してしまった
「2回ね……まぁ、口だけじゃなかったみたいだ」
その瞬間、天からアナウンスが聞こえてくる
「チーム戦1回戦、勝利したのは2年チーム!」
やはりというか、後ろから観客達の声が漏れて聞こえている
大堂先は「当然だ」と言わんばかりに堂々としていた
*
控え室で見ていた火継達は目が離せないでいた
2人とも高杉達が勝つだろうと予想していたが、大堂先の初めて見る戦闘に驚いていた
「久遠……大堂先先輩の動き見えたか?」
「ううん……まったく」
そうこうしていると、控え室の扉が開く
そこには先程試合を終えた高杉達が入ってきていた
「あ、先輩達お疲れ様です!」
「やぁ火継くん。私たちの試合、どうだったかな?」
「凄かったです……特に、大堂先先輩の動き。全く見えませんでした」
「あぁ、あれは能力によるものだからね。今回は運が良かったよ」
そう言って、大堂先は水分補給をする
「この後は私たちとの試合だけど、10分の休憩の後に始まるよ」
「そうなんですね……うぅ、緊張してきました」
「ははっ、そう緊張しなくて大丈夫だよ」
そう言って手を差し伸べる姿は、まるで王子様のように写っていた
「所で……高杉先輩はどこにいるんですか?」
「アイツ?……今はそっとしておいてやってくれないかい?試合には戻るだろうし」
「分かりました……」
火継は気になりつつも、次の試合までの10分間集中力を高めていた
とある一室
そこには1人の少女がロッカーに向かって立っていた
「……」
少女の手にはトマホークが握られていた
少女はそれを思いっきり、ロッカーに叩きつけた
ガンッと大きな音を立ててへこむロッカー
少女は気に求めず、再び振り下ろす
何回も、何回も攻撃を受けたロッカーは既にボロボロになっていた
「はぁ……決勝戦までに鎮めないと」
少女はそう呟き、近くの椅子に座って時間を過ごしていた
*
試合が終わり、10分間のインターバルを挟まれ観客達は慌ただしく動いていた
「やっぱり、2年チームが勝ったようだね」
「運も良かった。そして、大堂先があそこまで強いのは想定外だったな」
「彼女の能力を知っているのかい?」
浅葱がそう聞くと、柊は答えてくれた
「【能力:強奪】は相手の力を奪う能力なんだが、あそこまで強化されるのもんなのか、俺が知らない秘密がまだあるのかだな」
「へぇ、便利なもんだね」
浅葱は時計を確認し、次の試合が始まる時刻を確認していた
「火継達がどこまでやれるのか、楽しみだよ」
「……今度はどっちが勝つと思う?」
「そうだね……」
浅葱は少し考え事をした後に、答える
「火継たちかな」
「……それは友達の私情が入らずにか?」
「入らずにだね。私は火継たちを信じているからね」
「やれやれ」と柊は前に向き直す
浅葱は長く続くインターバルの終わりを待つ
火継たちの成長を見る為に
彼女達の強さをこの目で見る為に