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黄昏学園物語  作者: 柊谷
12/15

四星vsグーテン

黄昏学園が開催する体育祭

そこに組み込まれた特別な種目、教師による個人戦

現在、その舞台には四星とグーテンの2人が向かい合っていた

一方は浅葱達に教鞭を取る新任教師、もう一方は黄昏学園教師側最強格のグーテン

どちらがより強いのか、その真実が今明かされようとしていた


「さっきの試合でアンタの能力は見切っている。攻撃に対してすり抜ける能力って所か?」


四星は得意げに、そう説明する

グーテンは呆れたようにため息を吐く


「能力が割れたところで、貴女が私に勝てる見込みはあるの?」

「あるね!能力には必ずどこか穴がある。そこをついて、アンタをぶっ飛ばす!」


拳を前に突き出し、四星はそう答えた


(呆れた人だ。自分の実力を過信しすぎている)


相変わらずテンションの低いグーテンは、その冷たい眼差しを向け続けていた


「そろそろ試合を始めますよ。準備はいいですね?」

「いつでも来い!」

「構わない」


両者の合図により今、試合開始のゴングが鳴り響く

開始と同時に四星は勢い良く前に飛び込み、マリスン戦で見せたように素早い攻撃を仕掛ける

しかし、四星の攻撃はグーテンの体をすり抜てしまう

勢い余った四星はそのまま体全体が通り抜け、グーテンの後ろへと回ってしまった


「……どうした?得意の速攻では終わらなかったようね」

「私は自分が体験したことしか信じたくなくてね……いまその能力を実感させてもらったぜ!」


四星はそう言い返し、グーテンに対して構え直す

グーテンはポケットに手を突っ込み、つまらなさそうにしている


「アンタ……反撃しないのか?」


四星は軽く、グーテンを挑発することにした

一方的にこちらから攻撃を仕掛けてもダメージは与えられず、逃げられてばかりでは埒が明かないと考えていた


「貴女を倒すのは容易ですからね。新任教師のようなので、手加減しているんですよ」


グーテンはそう冷たく、言い返す

それを聞いた四星はニヤリと笑う


「つまり、私を倒す自信がないってことだな?」

「……はぁ?」


四星の突拍子もない返しに、グーテンは呆れた声を出す


「私が貴女を、倒す自信がないって?」

「その通りだろ?現に、私をカウンターで倒せなかったのが証拠だ」

「それは手加減をして……」

「言い訳だな!圧倒的な実力差の前に怖気付いたのは仕方ないけど……な!」


外から見ても、グーテンの怒りが強くなって来ていることが目に見てわかった

いつの間にかポケットから手を抜き、右手にはナイフを握っている

柄を握りつぶすのでは無いのか?と思わせるほど力強く、握っていた


外から観戦していた浅葱たちはその様子を眺めていた


「なぁ、あれだけ挑発しても大丈夫なのか?俺は次の攻撃で倒されるんじゃないかってヒヤヒヤしてるぜ」

「いや、アレでいい!これで相手の攻撃を誘うことができた。先生の事だ、カウンターに対するカウンターを用意しているはず。下手をすれば、次の一撃でどちらかが負けるかもしれない」


浅葱は冷静に、四星の取った行動を褒めていた


「火継、お前に教えといてやるよ。相手を怒らせるってのはいい作戦だ。冷静さを失えば視野が狭くなり、そして考える力も弱くなる。俺がアイツの相手をしてもそうした」


朱鷺がそう、火継にアドバイスをした


「しかし、あの能力に四星の言う穴ってのはあるのか?板風、お前はわかるか?」


不意に振られた板風はキョトンとし、首を傾げる


「僕が分かるわけないでしょ?」

「……聞くだけ無駄だったか」


板風が柊に対して怒りを表すが、彼はそれを無視していた


「よく見ておこう、次の一撃を」


浅葱の言葉に、全員が再び視線を戻す


グーテンは右手に持ったナイフを四星に向ける

顔には影が落ちていたが、その影の奥に怒りを表すグーテンの顔がうっすらと見えていた


「……後悔させてやる」

「御託はいい!私に足掻いてみろ!」


その言葉を皮切りに、グーテンは初めて自ら攻撃を行った

大振りにナイフを使い、四星目掛けて力強く振りかぶる

それにカウンターを合わせようと、四星も右拳をグーテンの顔面目掛けて攻撃する


(無意味だと理解出来ていないようだな!お前の攻撃が空振るのと同時に、私のナイフがお前を刺して終わりだ!)


拳とナイフが対象目掛けて勢い良く近付く

四星の拳がナイフより早くグーテンの顔面へと叩きつけられようとした時、その拳がピタリと止まった


(攻撃が……来ない!?)


攻撃が来なかったことに対してグーテンは驚く

彼女の攻撃は勢いを落とさずに、対象へ向けて刃が進む

ナイフが四星の首を捉え、今狩り取ろうとする

そして、四星はそれを軽やかに避けて見せた


(避け……)


その直後、グッと握り直された四星の拳が彼女の顔面へと再び進み始める

拳は対象を捉え素早く、そして力強く

肉体にその拳を刻み込む

グーテンの顔に、四星の拳が当たっていた

彼女の凄まじい威力を持つ拳を受けたグーテンは後ろへと吹っ飛ばされる

顔の原型は留めていたものの、鼻血を流す怪我を負っていた


「……流石にあの距離じゃ倒せないか。それに、亜人の耐久性だ。起きなよ、倒れている相手に追撃するほど落ちぶれちゃいないよ」

「ふん……今、貴女は最初にして最後のチャンスを逃したわけだけど」


グーテンはふらふらと立ち上がる

鼻を押え、四星を睨みつける

そんな様子を見た四星は喜び、グーテンに向かって手招きをする



一連の流れを観戦していた浅葱達は感心していた


「流石は先生だ。透明化した状態では攻撃出来ないと考えた訳だな」

「その通り、グーテンは攻撃の際に必ず能力を解く。その一瞬の隙を攻撃出来ない限り、倒すことは出来ないな」

「そして、一撃で仕留めないと後々厄介になる。次は当たらないだろうな」


浅葱、柊、朱鷺の3人が冷静に解析し、話し合っていた

戦闘に関して、彼女たちは非常に馬が合うのだろうと板風は1人思う


グーテンがゆっくりと歩き始め、四星の目の前までやってくる

四星は構えたままグーテンを見続け、遂に目の鼻の先にまで到達する

お互いに至近距離で睨み合う

先に動いたのは四星だった

ゆっくりと拳を振り、あまりにも遅い攻撃を繰り出す

グーテンはその拳をじっと睨みつけ、微動だにしない

そして、ついにはグーテンの顔の前に到達する



その様子を見ていた浅葱たちは困惑していた

彼女がどんな戦略をもってあの行動を行ったのか、検討が付かなかったからである


「あの攻撃に一体なんの意味があるんだ?先手に回った所で攻撃出来るわけではないんだが……」


浅葱はこの攻撃の意味について考えていた


(あのゆっくりな攻撃。確かにカウンターに派生する事も容易だが、同じ手に引っかかる程相手が弱いとは思えない)


現に、グーテンはその攻撃に一切乗らずに静観していた



「何の真似?」


グーテンが四星の攻撃に対し、疑問を口にする

四星はニヤリと笑い、答える


「必殺技」

「……馬鹿にしてるの?」


四星の発言を挑発と受け取ったグーテンは怒りを顕にする


「宣言するよ、次の一撃が本当に必殺技。耐えられたら……まぁ、その時考える」

「今度は宣言?芸達者ね」


グーテンはそう言いながら、ナイフを四星の首元に添える


「それじゃあ、私も宣言するわ。次の一撃で、貴女の負けが確定する」

「ふーん?」



お互いが一撃必殺の間合いで睨み合う

そんな状況で互いに動かず、相手の隙を伺っていた


「よくやるぜ2人とも。あんな距離で互いに隙をさぐってやがる。すげぇ精神力だ」

「ふん、3流ならこうなった時点で負けが確定するな。……果たして負けるのはどっちだ?」


朱鷺はニヤニヤと笑いながら観戦する



「……攻撃しないのかしら?」


グーテンが四星に話しかける

それを聞いた四星はクスッと笑う


「先に攻撃しても意味無いだろ?能力発動中は私の攻撃当たらないし」

「どうかしら?いま能力を解除しているかもしれないわよ?」

「……それは興味深いねぇ」


会話を続けるも、互いに隙を一切見せない

観客たちも、その光景に固唾を飲んで見守る


不意に、グーテンが四星の後ろの空を見つめる

その行動に、四星は呆気に取られる

そして、グーテンは空に指さしてこう言った


「あ、空にUFOがいるわ」


「「「……は?」」」


突然の行動に、観客を含め四星は困惑する

なんとも古典的な引っ掛けを行うグーテン

浅葱たちも同様に困惑し、呆れていた



「……まさかあんな引っ掛けに応じるとでも思っているのか?」


柊は驚きのあまり、開いた口が塞がらない



四星はため息を吐き、憐れむような目でグーテンを見る


「なぁ……流石にそんな事でひっかかr」


直後、激しい打撃音と共にグーテンが後ろへと勢いよく吹き飛んだいった

四星は同じ構えでその場に立っており、冷や汗をかいていた


「野郎……姑息な手を使ってくるなぁ!」


そう言いながらも、四星は嬉しそうにしていた



「四星の野郎……やりやがった!まさに武の極地!」


柊が立ち上がり、興奮気味に喋り始める


「ど、どうかしたのか?一体、どうなったんだ?」

「そうだよ!一体何が起こったの?」


火継と板風は何が起こったのか理解出来ずにいた

一連の流れを理解出来たのか、浅葱と朱鷺も驚いていた


「いいか?グーテンはさっきの引っ掛けで四星の気を逸らそうとしたんだ。実際、引っかかりもしなかったがな」


柊は1度話を止め、興奮を鎮めるように深呼吸をする

一息ついた柊は、再び説明を始める


「四星が話している間に、グーテンは攻撃を仕掛けた。それに反応した四星がドンッ!一撃必殺の攻撃をお見舞した」


柊は拳を使い、説明を行った


「……実際は寸勁と呼ばれる技による攻撃だ。かなり難しい技術だけあって習得も難しい。それ以外にも、先生は相手より先に動いたことがすごい」


浅葱も補足するように、説明を行う


「相手が力を入れた一瞬、その僅かな一瞬で奴は反応した。一生を武に捧げたかのような、極地だ」


いつもは不遜な態度の朱鷺も、四星の攻撃に気圧される



立ち上がらないグーテンに、審判が駆け寄っていく

四星は構えを解き、スっと背を伸ばす


「無駄だ、今度は10で攻撃した。流石のグーテン先生でも起き上がれないだろうよ。クリーンヒットしたしな」


四星はグーテンに背を向け、スタジアムを後にする


「しょ、勝者。四星先生!」


審判がそう高らかに宣言すると、観客席からまたしても大きな歓声が響く

新任教師が個人戦で優勝する快挙を成し遂げ、会場も大いに盛り上がっていた



「ほぉー、流石は四星先生だ。まさかの大番狂わせだな!あはは!」


とある教室から観戦していたイスカは笑いながらそう呟いていた


「……俺としては早々に終わらせてくれて助かりましたよ」


イスカの後ろから、そう答える男性が立っていた

黒いコートを羽織り、帽子と刀を携える

左目にある縦に付いた切り傷が特徴的な男性がイスカに話しかけていた


「ほぅ?どうしてそう思うのだ?宮里よ」


宮里と呼ばれた男は帽子を深く被り直し、ため息混じりに答える


「彼女の力は世間に知れてはいけません。今回は運良く使われませんでしたが……本来彼女は公の場に出すべきではありません」

「随分詳しいな。たかが自警団の一員が、裏事情に詳しいと見た」

「冗談はよしてください。分かっている上で俺を呼んだんでしょうに」


イスカは子どものように、悪戯っぽく笑う

「やれやれ…」と宮里は呆れていた


「ところで……」


先程の雰囲気とは違い、真剣な声色でイスカは宮里に尋ねる


「例の人物は見つかったかい?」


イスカはジッと宮里の顔を無表情に見つめる

部屋の空気が凍てつくような鋭い眼差しに対し、宮里は効いていないように淡々と答える


「ある程度の目星は付いた。しかし……本当に泳がしていていいのか?」

「いいんだよ……生徒にはもっと強くなってほしいからね」


イスカはそう言って、そばにあった椅子にドサッと座る

そして子どものように椅子を回転させ、遊び始める


「それに、もしもの時は私達がいるからね。生徒たちには出来るだけ自分で解決してほしいんだ」

「そのもしもが起こってからじゃ遅いんですよ」


宮里が反論すると、イスカは回転を止めて宮里に向かい合う


「うちの生徒はそんなに弱くはないよ。……まぁ、問題児は多いけど」


少し目を逸らしながら、そう答える


「……」


教室の外から覗いている、謎の人物がいた

どうやら、二人の会話を盗み聞きしていた様である

二人の話題が変わったのを確認すると、素早くその場を後にした

外の人物に気付いていないのか、はたまた見逃したのか

外を覗いて雑談する二人にしか、その真意は分からなかった

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