体育祭開催
普段静かな黄昏学園は垂れ幕掲げ、活気の良い音楽が流れている
本日から黄昏学園では、2日間にかけた盛大な体育祭が開催されるのであった
学園内はお祭りムードであり、少なからず屋台も出店されていた
体操服や個性溢れる服装に身を包んだ生徒たちが辺りに散らばり、準備運動や肩を組んで奮起する生徒たちが見える
「ほんとにお祭り状態みたいだね〜!」
「久遠。みたいじゃなくて、本当に祭りなんだぜ!」
久遠と火継は初めての体育祭に興奮している様子である
対する浅葱も表面上では冷静を装っているが、内心楽しんでいた
「やぁみんな!昨日はよく眠れたかな?」
そう元気よく後ろから声がかかる
3人が後ろを振り返ると、そこには笑顔で手を振る高杉がいた
「いやぁ実は昨日からたのしみでさー!僕全然眠れなかったよ!」
「やっぱり先輩も体育祭は楽しみなんですか?」
「もちろん!去年は風邪で出場出来なかったからねー……」
そういって彼女は項垂れる
体全体で感情を表す高杉に、3人は気が緩む
「あ、火継くん!今回のチーム戦、楽しみにしてるからね!君達なら決勝で戦えるって信じてるから!」
そう言い残し、高杉は駆け足で校舎の中へと消えていった
取り残された3人は高杉を見届けた後、自分の教室へと向かっていった
教室では外と変わらず、皆気合いを入れていた
委員長のマルタや大堂先も、同じチームメイトと円陣を組んでいる
「やっぱり、みんな気合入ってるよなー」
火継は呑気にそう呟く
久遠も人並みに頑張る様に、気合を入れていた
浅葱は自身の体を動かし、調子を確認していた
しばらくすると教室の扉が開き、担任である四星が入室する
「よしお前ら!準備はいいか!」
四星がそう言うと、生徒たちは「おー!」と雄叫びをあげる
「よし!運動場に行くぞ!」
そうして、四星は生徒たちを引き連れて運動場へと向かっていった
運動場では生徒たちが集まり、まさに開幕寸前であった
浅葱達も整列し、今まさに開会式が開かれようとしていた
学園長であるイスカが壇上に登り、マイクを付ける
「あー、マイクテスト中……只今より、黄昏学園体育祭を開催する!」
そう決めると、イスカの後ろで爆発が起こり、爆風によって服や髪がバタバタとなびく
生徒達はその行動についていけず、ぽかんとしていた
その様子を見たイスカは「ごほん!」と咳払いし、少し恥ずかしそうに続ける
「本日は天気に恵まれ、絶好の体育祭日和となった。この2日間は雨が降らないと、この私が保証しよう。……長い話は抜きにして早速、生徒会長による選手宣誓を行ってもらう」
そういってイスカは横にズレ、その後ろから1人の生徒が現れた
白と黒を真ん中で分けたボブカットの女子生徒であり、手を挙げマイクに向かって宣誓を述べる
「宣誓、我々生徒一同は日頃の練習や力を発揮し、これまで支えてきて下さった皆様の期待に応えるため、正々堂々と競技を行い、全力を尽くす事をここに誓います。生徒代表、陰陽師靖子」
そう言い終わると、拍手が起こる
陰陽師は一礼し、壇上を後にする
再びイスカがマイクの前に立ち、話し始める
「えー、これより第一種目を開催する。参加生徒は入場門に集まり、その他の生徒達は席に戻り応援をしてあげてくれ」
そう言い終えると、壇上を後にする
その後アナウンスが流れ、生徒達に指示を出す
「第一種目、100m走に出場する生徒は入場門に集まってください。繰り返します……」
それを聞いた生徒達は各々の場所へと分かれていった
浅葱たちの種目はまだ始まらない為、応援席へと向かっていくことにした
「そういえば俺たちの席ってどこにあるんだ?」
火継は自分たちの応援席が分からず、そう問いかける
「えっ、火継くん聞いてなかったの?私たちの応援席はあそこだよ」
久遠は運動場のとある一角を指さす
その先には四星が立っており、迷子の生徒たちを探しながら目印になっていた
クラスのプラカードを持ち、身振り手振りでアピールしている
「……あれだよな。あそこに行くのってなんか、恥ずかしいな」
「わ、私もそう思う……」
2人が恥ずかしがっていると、四星は3人を見つける
「おーいお前ら!こっちだぞー!」
それを見た浅葱も、流石に羞恥心を覚えた
競技も順調に進んでいき、お昼に差し掛かっていた
現在は玉入れの競技が行われており、大堂先が参加していた
「そこまで!」
終了の合図が入り、先生たちが玉を数え始める
大堂先は両手を組み、勝つようにと祈っていた
「39、40……41!41-38で赤組の勝利!」
赤組である大堂先のチームが勝利し、皆それぞれ雄叫びを上げて喜んでいた
「大堂先……弱いなりにアイツも頑張ってたよな」
火継が大堂先を見て、そう呟く
久遠は今回の発言には乗っからず、純粋に拍手を送っていた
クラスメイトが帰ってきて、次々に祝福を受けていた
「よく頑張ったなお前ら!ナイス玉入れ!」
四星はそういって親指を立てる
大堂先達は照れながら席に戻っていこうとした
その時、「蓮斗、よく勝てたね!ナイスファイト!」と声が聞こえてくる
振り返ると、そこには笑顔で拍手しながら近付いてくる生徒がいた
「姉さん!なんでこっちに?」
「それはもちろん、可愛い弟を労うためだよ!」
「は、恥ずかしいからやめてくれよ」
一連のやり取りを聞いた浅葱が、蓮斗が姉と呼ぶ生徒に声をかける
「貴女が、学園最強と噂されているあの大堂先鮠さんですか?」
「学園最強ってのは吹かしすぎだけど……君は?」
「私は草薙浅葱、個人戦に出場する生徒です」
そう言って、浅葱は彼女に自己紹介する
「へぇ、今年は君が個人戦に出場するんだ。うーん……強いね。これは本戦まで行けそうだよ!」
鮠は浅葱を褒め、握手をする
「先輩は今年個人戦に?」
「いや、私はチーム戦にでるよ」
意外な言葉に、その場にいた全員が固まる
特に火継と久遠は魂が飛んでいったかの様に固まっていた
「……チーム戦ですか?」
「去年は個人戦で優勝したから、今年はチーム戦で優勝したくてね」
「そうですか……」
浅葱はガッカリしていた
学園で強いと評される2人が揃ってチーム戦へと出ており、戦えない事実に落ち込んでいた
「……まぁ、私のクラスは東が出るけど多分本戦には行けないだろうね」
鮠がフォローするように、そう呟く
浅葱はそれを聞いて顔を上げる
その様子を見た鮠はニヤリと笑い、説明を続ける
「今年の2年生には柊右京って人がいるんだけど、彼が個人戦の2年代表になるだろうね。ちなみに副生徒会長なんだけど、知ってる?」
浅葱は聞き覚えのない名前に、首を横に振る
「去年、彼と戦った時に感じたんだけど……彼は実力を隠している感じがするね」
「実力をですか?なんでまた……」
「さぁ?実際負けそうになった際に何かしそうだったんだけど、諦めて負けてたしね。それでも本戦には来るほどの実力者だし、良い相手になるかもね」
そう説明して、浅葱を元気付けようとする
浅葱は一縷の望みをかけ、個人戦に向けて再度気合いを入れ直すことにした
*
「へっくし!……あー、こりゃ誰か噂してるな」
「えー?リーダーの噂なんて誰もしないよ?」
「おい、そんな悲しいこと言うなよ。するだろ?誰かひとりは」
「去年、実力隠して無様に負けた副生徒会長さんの噂なんて誰がするんですか?」
「おまえ……普通に傷付くからやめろ」
そんな雑談をしている人物が2人いた
1人は軍服を羽織り、空き教室の椅子に座っていた
もう1人はメイド服を着用した赤髪のポニーテールであり、窓から運動場を眺めていた
「おい板風。アレの用意は出来てるのか?」
板風と呼ばれた人物が振り返る
「バッチリだよリーダー!」
指で丸を作り、笑顔で返事する
リーダーと呼ばれる人物はフッと不敵に笑い、立ち上がる
「早速向かうとするか」
「リーダー……なんで服羽織ってるの?」
「別にいいだろ。そんなこと気にするな」
「まさか……影響された?かっこいいと思って……」
「うるさいぞ板風!」
図星だったのか怒るリーダー
板風は「ごめーん!」と平謝りする
2人がコントを続けていると、突然教室の扉が開く
2人がドアの方に目をやると、そこには生徒会長である陰陽師靖子が立っていた
「なんだ、君達だったのか。廊下まで痴話喧嘩が聞こえてたよ」
「そりゃ失礼した。我が生徒会長さん」
リーダーは素っ気なく返事を返す
「あ、生徒会長さん!久しぶり〜」
「おや、板風さんじゃないか。去年ぶりだね、元気にしてたかい?」
「うん!リーダーこそ迷惑かけてなかった?」
「はは、彼は実によく仕事をこなしてくれているよ。そうだろう?某大将の柊右京くん。似合ってるよ、その格好」
「……さいですか」
陰陽師にもいじられた柊は、羽織っていた軍服に腕を通す
後ろで笑いを堪える板風に、柊は拳骨を食らわせる
「それで?今年も君は手を抜くのかい?個人戦、出るんだろう?」
「……ふん、それは相手次第だな」
「君の【軍国】。ぜひもう一度拝みたいものだよ」
そう言い終わると、彼らの間に無言の間ができる
微妙な空気に耐えられなくなった板風が思い出したかのように喋り出す
「あ!そういえば次は教師同士の個人戦が始まるよね!僕楽しみなんだ〜!あはは」
板風は話題を逸らすように1人で盛り上がる
そんな様子を見た柊はため息を吐き、教室を後にしようとする
陰陽師の横を通り抜けようとした時、彼女は口を開いた
「今回の学園祭、ネズミが入り込んだかもしれないんだよね。何か知っているかい?」
陰陽師は顔を向けずに、柊に質問した
「知らないね」
そう言いながら歩き去っていく柊
板風は柊のあとを追いかけ、教室を後にする
残された陰陽師は窓に近付き、運動場を見下ろす
「何事もなければいいんだけど」
そう呟き、今まさに始まろうとしている教師による個人戦を眺めていた