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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
63/65

深い秋の眠り

来ていただいてありがとうございます。

精霊王の慟哭



光を掴んだ気がしていた。消えかかった自分は。大切なものを守るために。


ハルカは、森の古王国の城の厨房でプリンをつくっていた。料理番のステラルが改良したレシピを借りて何とかつくりあげ、森の精霊王に呼びかけた。けれど返事がない。仕方がないので精霊樹まで歩いていくことにした。バスケットにプリンの陶器の器を入れて歩き始めた。ちなみに陶器は第一王子が婿入りする島国の特産品で、腕の良い職人がたくさんいるらしい。


「どこへ行くの?」

城を出るところでフラム話しかけられた。

「ココちゃんとちょっと前に約束したの。お菓子をつくるって。でも呼んでも返事がないから、精霊王様のところへ行こうと思って」

「あー、なるほどね。いいよ、今日はリフィロが出てるから僕が送っていくよ。幻の道を通ればすぐだから」

「ありがとう、でもちょっと森を歩きたいなって思ってて」

「……わかった。でも一緒には行くよ。途中で眠くなると困るからね」

「……うんありがとう、フラム」

「それに最近はずっとリフィロがハルカを独り占めしてるからねー。たまにはいいでしょ……」

「え?」

フラムの小さな呟きはハルカには届かなかった。

「何でもないよ。さあ行こう」


森の中は空気がもうひんやりしていて、肌寒いくらいだった。

「寒くない?」

「うん、大丈夫。私はこのくらいの方が好きかな」

フラムの問いかけに答えて、ハルカは森を見上げた。ハルカは少し弱まった陽光と精霊達の光を愛おしそうに見つめる。

「何だか、もうずっと小さい頃からこの森にいたみたいだ」

フラムは笑った。

「なんか、嬉しい。そう言ってもらえると」

(もう、ハルカがここにいるのが当たり前になってる……)

失えない、絶対に、フラムもまた決意を新たにする。



ゆっくりと歩き、精霊樹へ辿り着くとその根元でココちゃんがこちらに背中を向けて座っていた。

「ココちゃん」

ハルカはココちゃんを抱き上げて、目を合わせた。

「約束通りプリンつくって来たよ」

「我は、我は、ハルカに合わせる顔が無い」

そう言って目を閉じてしまった。

「ココちゃん、ううん、精霊王様、ありがとう」

「……?」

「私ね、この森が好きだよ。みんなと出会えたこの森が。ずっとずっと精霊王様がこの森を守ってくれてたんだよね?それに精霊王様が契約してくれなかったら、私は今ここにいられなかった」

ハルカは遠くを見るように語った。

「だが、我は何も考えずにハルカの力を利用していた……」

「それは、私が望んだことなの。言ったでしょ?私の力を使ってって。私だってみんなを守るお手伝いしたかったんだよ」

「ハルカ……」

ココちゃんはやっと目を開けてハルカを見た。


「西側にいたら、もっと違う未来があったかもしれない。元の世界に帰ろうとして必死だったかもしれない。でも、この森のこと何も知らなかったかもしれない。みんなのことも……。でも森のこともみんなのことも知らない私は嫌。だから、私は私の意思でこのルートを選んだの。そう思ってる。たとえリセットできたとしても私はここを選ぶと思うから。だからね、精霊王様、私と出会ってくれてありがとう。……大好き」

ハルカはココちゃんの目を見て笑った。ココちゃんの深い緑色の目にハルカの笑顔が映ると、水の膜が張る。ポロポロと涙が零れ落ち、声にならない慟哭が森に響く。森が泣いているように風が吹き抜けた。ハルカはココちゃんを優しく抱きしめた。



「精霊王様、まだ何も終わってない。俺達が終わらせない。世界のふざけた状況を正して、元の姿を取り戻すんだ」

フラムの決意もまた、リフィロと同じように固いものだった。





「フラムよ……。我は少しリフィロが羨ましいのだ。ハルカに特別に想われておる。こんなことを思う我はおかしいのだろうか……?」

「…………そう、そうなんだ……。うん、全然おかしくないよ。当たり前のことだよ。好きな人に特別に好かれたいと思うのは……」


精霊樹にもたれかかってうとうとし始めたハルカの傍らで精霊王とフラムはプリンを食べながらそんな話をしていた。


「僕は精霊王様はもうハルカの特別だと思うよ。リフィロとは違った意味でね」

フラムは励ますように言った。

「そうか、そうなのだろうか」

精霊王はそう言うと微かに笑った。








浄化の乙女の婚姻  


森の灯り祭りの夜。一年前と同様良く晴れた秋の日。今日は特別な日だった。森の古王国の第二王子であり、王太子であるクレネスとフィリアの婚姻の儀式が行われる。婚礼衣装は花嫁のフィリアのたっての希望で、白いドレスに白いベールが選ばれた。

「フィリア、きれい……!おめでとう!」

ハルカは水色の丈の長いふんわりとしたワンピースに同じ色の髪飾りを付けていた。

「ありがとう、ハルカ……」

「ああ、花嫁さんが泣いちゃだめだよ」

ハルカは明るく言った。フィリアの涙を柔らかい布でそっとぬぐう。

「ねえ、ブライズメイドって何したらいいの?私何も聞いてないんだけど」

ハルカは今度は不安そうに言う。

「そばにいてくれればいいわ。最近はリフィロばっかりハルカを独り占めにしてるんだもの!今日くらいは一緒にいてもらうの!」

ぷりぷりと怒り出したフィリアにハルカは困ったように笑った。

「もー、フィリアったら、困ったお姉ちゃんだね」


ちょうどその時、扉が開いてクレネスとリフィロが入って来た。二人はフィリアとハルカの姿を見て、しばらく何も言わなかった。

「時間みたいだね」

ハルカはそう言うとテーブルに置いてあった花籠を持った。

「そうね……、ハルカ……」

「ん?」

振り向いたハルカにフィリアはそっとキスをした。

「ええっ?」

ハルカは驚いて赤くなる。

「「あ」」

男二人の声が重なる。フィリアはハルカを抱きしめて、耳元でささやく。

「必ず、世界をきれいにしてみせるから。安心していてね」

ハルカは目を閉じ、フィリアを抱きしめ返す。

「うん。待ってる」




婚姻の儀式は、森の灯り祭りの舞の後、森の精霊王の御前で厳かに行われた。ハルカは壇上までフィリアのベールを持って上がり、最後にフィリアと目を合わせ笑いあうとリフィロの隣へ戻った。以前の時よりもランタンがたくさん灯され、光に包まれたフィリアはとても美しく、ハルカは思わず涙ぐんでしまった。そんなハルカの肩をリフィロはそっと抱き寄せた。精霊王の祝福の言葉で婚姻の儀式と森の灯り祭りが締めくくられ、ランタンの灯りが精霊達の光とともに一斉に、ゆっくりと空へ昇っていく。


ハルカの視界は少しずつ霞んでいく。

「やっぱり、きれい。私、一年前にも思ったの」

目を開けていられない。最後にハルカはリフィロの顔を見た。リフィロはずっとハルカを見つめていたようだった。これ以上ないくらいの優しい笑顔だった。

「この森に来られて良かったって。私リフィロに出会えて良かった……」

「必ず、迎えに行く」

「うん、待ってるね……」

ハルカは目を閉じる。リフィロは倒れそうになるハルカを抱きとめる。そしてハルカはリフィロに抱かれて静かに眠りについた。





精霊樹の根元、やわらかな草の上に静かに魔法陣が展開する。ノル・アストランディアによってもたらされた叡智。時を止める魔法陣。その三方にはトキモドリの花、月の石、そして異世界の鉱物。リフィロはハルカをその上に横たえ、そっと口づけた。魔法陣の光はハルカを包み込み、結界を形作り、ハルカの時を止めた。森の精霊王はそれを見届け、結界を更に緑の蔦で覆い隠した。光と緑の結界はゆりかごのようにハルカの眠りを見守る。ハルカはもう目覚めることは無い。次にリフィロが解呪を口にするまで。





ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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