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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
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雷の大精霊

来ていただいてありがとうございます。

光の波が湖のすべてを覆った。湖に咲いていた赤い花は中心の巨大な花を残してほぼ消え去り、もう瘴気も魔物も生み出さない。浄化の魔法陣が再び機能し始め、湖が光で溢れる。その様子は精霊が見えない人々の目にも無数の光が集まる奇跡の光景として映っていた。


「おかあさまー」

浄化の大精霊は心なしかへろへろになって帰って来た。

「ありがとう。頑張ってくれて」

ハルカは幼い精霊を抱きしめる。

「えへへー」

精霊はハルカに抱きしめられて嬉しそうだ。



魔人の攻撃が明らかに弱まってきた。リフィロ、フラム、エリオット、そして魔術師達の攻撃が再び効き始める。魔物達の数が減り始め、中には山脈の方へ飛んでいこうとするものもある。山々を超えて琥珀の砂原へ逃げるつもりなのかもしれない。そんな魔物達を何故か雷光が次々と貫いていく。

「来たか……」

ココちゃんは再び空を見上げて呟いた。


湖に大きな影ができ、力を取り戻した湖水の精霊王が浮かび上がってきた。

「ま、魔物?」

魔術師達や人々からそんな声が出る。

「これだから……!」

ココちゃんは憤慨する。ハルカは大きな声で否定した。

「違います!この湖の精霊王様です!」

ライアーは思った。

(ああ、本当に神様はいたんだな…………てかやたらでかいな)

レイティが目をキラキラさせてるのが視界に入って、ライアーは思わず苦笑いをする。


「私もやられっぱなしでは腹が立つから。一撃くらい返させてもらう」

湖水の精霊王はそう言って清らかな水の刃で魔人の胴を切り裂く。

「イタイイタイイタイイタイイイイイイ」

魔人が声を上げた。

「今だ!最大威力で攻撃っ!」

ライアーの声を合図に、魔術師達の一斉攻撃が始まった。リフィロ、フラム、エリオットも持てる最大の力を繰り出した。その体に無数の穴を開けられた魔人はそれでも姿を保っていた。赤い花の上空、黒い雷雲から閃光が走る。懐かしい声が響く。

「フラム、魔法を合わせろ」 

フラムは無意識に自身の炎魔法を閃光に合わせた。魔人を炎の力を得た雷が貫く。雷に貫かれ、炎で体を焼かれた魔人は黒い塵となり、湖の花達が灰をも浄化していく。赤い花の魔人の最期であった。                   



「兄上?」

フラムは呆然と上空を見上げた。リフィロも同様だった。そこには亡き兄フォルアの姿の精霊が腕を組んで笑っていた。



残った数少ない魔物を倒しながら、皆、島へ戻って来た。怪我人は出たものの、死者は出なかった。ハルカもライアーの指示で防御魔法を解いた。何とか最後まで魔力がもったとハルカは安堵した。少し眠いなと思ったが、安心して疲れが出たのだと考えた。島では全員の帰還を喜び合っていた。その中にはフォルアと対するリフィロ、フラムの姿もある。


「まあ、厳密に言うと俺はフォルアじゃないんだけどなぁ。おお、リフィロ、いい表情(かお)するようになったな」

フォルアは嬉しそうに笑った。

「あ、にうえ……」リフィロは涙を流していた。

「ちゃんと泣けるようになったな、偉いぞ」

フラムとリフィロを抱き寄せる。フラムもまた背中が震えている。フォルアは二人の背中を強めに叩いた。


「少し前から我と同化していた眷属の大精霊達を分離しておったのだ。我もほぼ力を取り戻せたのでな」

ココちゃんの説明に、森であまり姿を見せなかったのはそういうことだったのだとハルカは今更ながらに納得した。

「あの時、フォルアの魂を我は掴んで取り込んでしまった。どういう訳か、雷の大精霊と融合してしまったのだ」

ココちゃんの言う「あの時」とは森を魔物が襲い、フォルアが倒れ、森の精霊王が眠りについた時のことだ。



二人が落ち着いたのを見計らって、雷の大精霊が湖岸にいるココちゃんとハルカに近づいてくる。

「フォルア様……?」

ハルカは彼をそう呼んだ。精霊はココちゃんと目を合わせ一礼すると、ハルカに笑いかけた。

「貴女が俺をフォルアと呼ぶのなら、俺はフォルアでありましょう。我が主よ」

雷の大精霊はハルカの前に跪いた。

「あ、それいい!わたしも!わがあるじ」

白い花の精霊もドレスをふわっとひろげて両膝をついた。

「?!」

ハルカは疑問を顔に浮かべる。二人は何をしているのだろうかと。


湖水の精霊王の仮の姿である少年が現れて

「まあ、私も助けてもらったから……」

などと言いながら、ハルカの左手を取り、そのブレスレットに触れた。少年の手が離れると湖水を映しとったような水色の宝石が翠色の宝石の隣に並んでいた。

「あ、こら!勝手に便乗しおって」

ココちゃんは抗議の声を上げた。そして、少年もまたハルカの前に跪いたのだった。

「え?湖水の精霊王様まで、何をしてるんですか?」

ハルカは困惑する。


「ココちゃん……」

ハルカはココちゃんに助けを求めるが、その姿はなく森の精霊王が少し困ったような笑顔でそこに佇んでいた。

「え?精霊王様?」

そして……彼もまたハルカの前に……

「やだ!」

ハルカは森の精霊王に抱き着いた。彼はハルカを受け止め、しりもちをついてしまう。

「こんなのやだよ!いつも通りでいて!みんなも!」

ハルカは涙ぐみながら森の精霊王を見上げる。

「わかったのー!」

「仰せのままに」

「一応、けじめなんだけど……」


「ハルカが望むのなら、我らは友であり続けよう、永遠(とわ)に」

森の精霊王はそう言ってハルカをそっと抱きしめ返した。



「やー、なんかすごいもん見たなぁ」

ライアーはその場に座り込み、半ば呆れたように呟いた。

「お疲れ様。ハルカさんは転移者なのね」

レイティが話しかけてくる。

「近頃稀に見る大当たりの召喚だったみたいだな。された方は冗談にもならないけどな」

「ライアーだって相当な大当たりだと思うわ、私は」

そう言って、レイティはライアーの隣に座り込みその肩に頭を預けた。




雷雲はいつの間にか途切れ、雲間から光が差し込んでいた。湖は光が消え、いつもの静かな姿を取り戻す。フラムとエリオットは精霊達と笑いあうハルカを少し遠くにまぶし気に見ていた。

(いくつの奇跡を連れてきてくれた?)

リフィロはゆっくりハルカに近づいて行った。

(また君に救われた。けど僕の罪は消えない……。僕は君のそばにいてもいいだろうか?)

リフィロは立ち止まり、俯く。ハルカがリフィロに気が付いて立ち上がり、こちらに走ってきた。

「おかえりなさい!リフィロ。ケガとかしてないよね?ありがとう。魔人を倒してくれて。みんなも無事で良かった!」

ハルカは嬉しそうに、はじけるように笑った。その笑顔を見て、リフィロはああ、やっぱり自分はこの少女と離れることはできないと思った。

(普通の女の子に見えるのに……君は一体……)

リフィロはそっとハルカの頬に触れた。













「ねえ、なりそこないをみんなでやっと倒してそんなに嬉しい?」

無数の黒い針が空に出現した。








ここまでお読みいただきありがとうございます。

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