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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
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コンダクター

来ていただいてありがとうございます。

遠くに雷の音が聞こえる。



湖に浮かぶ機関の島は湖の中心より南東にある。東側を高い山脈に遮られ、湖は南では赤の王国、南西では青の王国に接している。赤い花の魔人は湖のほぼ中央、島から見て北西の位置にそり立って存在していた。



「おいおい、なにやってんだ。攻撃がバラバラじゃないか。まずは花を狙え!そっちじゃねえ。道を作るんだよ。大将を倒さなきゃこっちがジリ貧……ぃてっ!」

「アンタ、後から来て何威張ってんの?!また何日も姿消して、いきなり現れたと思ったら何なの?その態度!」

魔術師達に、不思議とよく通る声で指示を始めたライアーの頭にレイティが鉄拳を見舞う。


ハルカは慌てた。

「待ってください!レイティ先生。ライアー先生は私を助けてくれたんです!えーと、私迷子になっちゃってて……」

「え?あれ?ハルカさん?あらー、それ似合うわね!なになに?機関に就職したの?まあ、ハルカさんならスカウトがいってもおかしくないものね!」

レイティはハルカのローブ姿を見てはしゃいだような声を出した。

「いえ、そうではなく……」

ハルカはどう説明したものか迷った。とにかくライアーを責めさせてはいけないと思った。





「ハルカっ!」

氷の精霊鳥が空から舞い降りる。着地を待たずにリフィロが飛び降りた。あの後周囲の魔物をあっという間に消し飛ばしたリフィロはハルカに駆け寄り抱きしめる。その力強さにハルカは一瞬呼吸が出来なくなる。言葉が出せなかったハルカはリフィロをぎゅっと抱きしめ返した。リフィロは驚いて力を緩めてハルカの顔を見つめた。

「ごめんね」

そう言って涙ぐみながら笑うハルカにリフィロも泣きそうな笑顔を浮かべる。

「僕こそごめん……。帰ってきてくれて良かった……」

リフィロは再び、ハルカを強く抱きしめた。



「あーハイハイお二人さん、話はとりあえず後回しってことで。今は俺の指示に従ってくれ」

ライアーが後頭部をさすりながら、ふてくされたように言ってきた。見れば、フラムとエリオットも島に戻ってきている。


フラムはハルカを見て安堵した。長く息を吐き、ハルカに近づく。そしてライアーに詰問する。

「どういうことだ?何であんたがハルカと一緒にいた?」

そしてハルカとライアーの服装を見比べ、

「今回のことはお前達の仕業か?」

白い炎を燃え上がらせる。


「あー…………」

ライアーは額を押えた。その態度に更に怒りを湧きあがらせたフラムは、ライアーに掴みかかろうとする。

「フラム!待って!違うの!ライアー先生は助けてくれたの!」

ハルカはフラムの腕に抱きつくように止めた。

「ハルカ」

「ごめんなさい、心配かけて」

そう言ってハルカは今回の経緯を説明した。


「ん-、やっぱりこいつ締め上げるんで正解じゃない?」

フラムは事情を聞いた上でそう言った。

「だって、何かさっき偉そうに指示してたし。それなりに上にいるんでしょ?」

「おい、勘弁してくれよ。俺はしがない中間管理職だっての……。あいつらとは今の機関は別物だし」

ライアーは心底嫌そうに言った。

「召喚魔法……確か筆者の名前は……」

リフィロは何か思い当たったようで考え込んでいる。


「ハルカ、良かった、無事で」

エリオットがハルカに声をかける。

「エリオット……、学園に戻ってたんだね。あの子はエリオットの精霊さん?」

(あの子…………)

「ああ、僕の国に封印されていた精霊で、試練を突破した人間だけが……」

エリオットの精霊が音もなく近づきハルカに頬を寄せる。目を閉じたハルカの中に様々な思いが流れ込んでくる。

「そう、ずっと眠ってたんだね……」

「こら!ハルカは我のだぞ!あまり馴れ馴れしくするでない!」

ココちゃんがハルカの傍らで心の狭い発言をする。

「ハルカって一体……、この精霊を従えるのは結構大変だったんだけどな……」

エリオットはハルカをまぶし気に見つめている。





「さてと、赤い花は、瘴気を出すものと、その瘴気を吸って魔物を生み出すもの、何かに寄生して増殖していくものの三種類がある。まずはその増殖を止める。レイティ、見えるか?」

「ええ、送る?」

「ああ、頼む」

ライアーはレイティと手を繋ぎ、空いた方の手のひらを空に向けて差し出した。無数の光の球体が現れる。

「……マーク」

ライアーの言葉と共に光は、湖の赤い花の一部に飛んでいく。

「撃て!」

その言葉を合図に魔術師達が各々の攻撃魔術で光の目印の付いた花を撃破していく。花の増殖が止まり瘴気の勢いが弱まる。


「次、マーク」

ライアーは赤い花の魔人へ向けて光の道をつくる。「撃て!」

今度は魔術師達がその道にいる魔物達を集中的に殲滅する。

「結界!今だ!行け!」

リフィロ、フラム、エリオットがそれぞれの精霊の背に乗り魔人へ向かっていく。魔物達は結界に阻まれて光の道にへ入れない。初めて魔人へ攻撃が届く。

「やった!」

魔術師達の間から歓声が挙がった。


「まずいな。倒しきれてない。再生が始まっている……。力が足りないか……。だが、魔術師達では速さが……無駄死にになる」

ライアーは小さく呟く。

「一度、撤退だ!!」

ライアーは声を風に乗せて遠くまで届かせた。





ライアーの見立てでは、夜は魔人及び花の活動はやや緩やかになるということだった。見張りと戦闘員を一定数残し、みな疲れを癒し次の戦闘に備える。ハルカは学園内で重傷者の手当てに当たっていたミリーと再会し、彼女を手伝っていた。手伝うと言っても薬や食事を運ぶくらいのものだったが。そこへふらりとフラムがやって来た。


「ごめん、ちょっとハルカ借りてくねー」

そう言って、ハルカの腕を掴むと廊下へ連れ出した。ココちゃんもついてくる。

「ハルカは精霊王様と一緒に森へ帰るんだ」

「フラム、でも私はっ」

ハルカはライアーに明日は島の防御を任せたいと言われていた。

「駄目だ!!」

フラムは壁に強く手を叩きつける。ハルカはフラムの余裕のない表情に驚く。

「人は簡単に死ぬんだ」

フラムはもう片方の手も壁につき、ハルカを閉じこめる。

「昨日笑ってた人が、今日はもういない……。そんなのは普通にあるんだよ」

フラムの苦しそうな表情に、ハルカは胸の痛みを覚える。肩を落とし、小さな声で答える。

「……うん、そう、だね」

昨日まで笑ってたハルカの祖母は、翌日学校から帰ると意識が無くなっており、そのまま帰らぬ人となった。


ハルカの様子に何かを感じたフラムは少し声を落とした。

「分かるのなら、帰るんだ、ハルカ。君はここにいてはダメだ。僕は、……僕達は君を失う訳にはいかないんだ。何ならリフィロも一緒でもいい」

「フラムは?」

ハルカは即切り返す。フラムを真っ直ぐ見つめるハルカにフラムは思わず目を反らした。

「……っ、僕は大丈夫だよ。それにいざとなったら逃げるから」

「嘘。フラムはそんなことしない。私だってフラムが危ないのは嫌だよ。それにフラムが大丈夫だったら私だって大丈夫でしょう?フラムが守ってくれるもの」

「…………」

「もうよいだろう、フラム。ハルカには我がついておる。危険になればすぐに精霊界へ連れていく」

ココちゃんの言葉に、フラムは長く長く息を吐いた。


少し離れた暗がりで、リフィロが壁にもたれて立ちすくんでいた。リフィロは自分が何も分かっていなかったのだと痛感した。当然だが、兄を、家族を失って傷ついていたのは自分だけでは無かった。分かっているつもりだった。しかし、その痛みの深さを本当には理解していなかった。フラムはいつでも明るく、のんびりとしていたから。自分はずっと兄に助けられてきたのだと。リフィロは両手で顔を覆った。






イタイ、イタイ、チカラ、タリナイ、モット、モット…………





苦しい、苦しい……

湖底にうずくまる古竜の体に根が絡みつく。弱ったその体から更に命の力が抜けていく。


ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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