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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
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風の大精霊

来ていただいてありがとうございます。

リフィロとフラムは愕然とした。

「一体何が……」

「ひどいな……」


「ハルカは西側のことを心配していました。僕達は予定通り西側へ向かうべきです」

リフィロの決然とした表情に国王はそれを是とし、リフィロ、フラム、ココちゃんの三名は契約精霊の背を借り、幻の道を通り、二日を過ぎずに学園へ到着した。しかし、そこで見たものは思った以上の惨状だった。


まずは湖だ。白く美しい花々は無残にしおれて禍々しい真っ赤な花に取りつかれていた。湖水は濁り、赤い花はあちらこちらで瘴気を吐き出しているのが見える。散った花からは次々と魔物が生まれ、人々や家畜を襲う。美しかった湖はもはや毒を生み出す地獄になっていた。そしてその地獄を象徴するように、湖のほぼ中央に巨大な赤い花が咲いている。幹のような茎の部分には目を閉じた人の顔のようなものが見えた。

「あれは……」

「魔人、だね。多分」

「この魔物の数に、魔人とは」

言いながらリフィロは精霊鳥の背から魔法を放ち、魔物を一掃する。フラムもまた翼の生えた白豹の背に乗り魔物を焼いていく。


研究機関と学園のある島は逃げ遅れた街の人々の避難場所となっていた。幸いまだ夏休み中のため、学生はあまり残っていなかったが、怪我人達の間を治癒魔術師と思われる者達が忙しなく動き回っている。学園の敷地は野戦病院と化しており、そこここに疲れ切ってボロボロになった人々が座り込んでいた。その中にハルカの友人のミリーや教師のレイティもいた。レイティは治癒魔術師では無いが、薬を持って走り回っている。

「もぉっ!ライアーはどこ行っちゃってるかな?この忙しい時に!」

元気よく言っているが、表情からは不安を隠せていない。


フラムとリフィロは島に降り立とうとしたが、何らかの力に阻まれた。どうやら結界が張ってあるらしい。これで魔物の侵入を防いでいるようだった。魔術師の一人が二人を指さし、仲間に合図を送る。空間が揺らいだように見え、膜のようなものが消えた。その隙に二人と精霊達は空から島に上陸した。そしてレイティを捕まえて、状況の説明を求めた。

「どうなってるもないわ……。見た通りなのよ。一晩よ。朝起きたらこうなっていたのよ」






ココちゃんは一人精霊界を進んでいた。フラム、リフィロと別れ湖水の精霊王の元へ向かっていた。進むにつれて様子がおかしくなっていく。精霊達がいない。いや、何かに怯えて潜んでいるようだ。瘴気の匂いが強まる。視界が開けて広々とした暗い湖底に辿り着いた。湖水の精霊王がぐったりと湖底に倒れている。

「湖の!」

「…………あ、あ、遅かったな……」

「一体何があった?!なんなのだその様は!」

「湖水は、私の力の源なんだ……」

「それは知っておる!」

「汚されて、力吸い取られている。赤い花に……私の花枯れてしまった……」

そう言うと(いにしえ)の竜は意識を失った。

「しっかりせい!」

ココちゃんは自分の力を注ぎこんだ。すると竜の体は少し色を取り戻したように見えた。しかし次の瞬間再び苦しみ始める。どうやら赤い花とやらに注ぎ込んだ力を吸い取られたようだった。

「元凶は赤い花か……!待っておれ!」

ココちゃんは湖上に向けて再び走り始めた。




事の始まりは、学園の教師の負傷だった。彼女は魔法薬学の専門で、以前見つけた赤い花を調べていた。厳重に容器に入れて保管していたが、花はいつまでも枯れることなく成長し、膨らんだ茎が破裂。魔物が飛び出してきて、彼女を襲ったのだ。その彼女を助けたのが、偶然見つけたミリーであった。機関及び学園は魔術師達を総動員し、赤い花の駆除を行った。しかし次の朝には再び赤い花は更に増殖し一気に湖を覆ったのだ。レイティの話を纏めると、こういうことのようだった。


フラムとリフィロ、そして途中から合流したココちゃんはこれからのことを話し合った。

「思った以上に深刻だね。これは」

フラムが腕を組み難しい顔をする。

「はい。おそらくこの事態の中心はあの巨大な赤い花の魔人ですが、近づくにしても魔物の数が多すぎます」

リフィロの表情は変わらないが、言葉には焦りがあった。

「戦力が足りぬな…………が間に合えば良かったのだが……」

ココちゃんの言葉の後半は独り言の様で二人には聞き取ることは出来なかった。本来ならば彼らの目的は偵察だ。しかしここまでの事態だとは誰も考えておらず、この状況を放って森に帰ることはためらわれた。結局、交代で戦いこの島を守りながら夜を明かすことになった。




翌朝、大きな影が朝日を遮って島に飛来した。一瞬、魔術師達に緊張が走ったが、その影は周囲の魔物を巨大な風の刃で切り裂いた。現れたのは美しい翡翠色の透き通った竜だった。そして、その背にはダークブラウンの髪、緑の目の少年が乗っていた。彼の手には一振りの細身の剣が握られていた。

「エリオット!」

「懐かしい顔だな。エリオットは風の大精霊を従えてきたのか。なかなかやりよる……」

ココちゃんはどこか満足気であった。エリオットは結界の中に迎え入れられた。


「ずいぶん派手な登場だねー」

フラムがからかうように言う。

「これは一体どういうことなんです?何故こんなに魔物が……。それにハルカはどこですか?無事なんですか?」

その言葉にフラムとリフィロはすぐに答えることが出来ない。

「ハルカは今はここにはいない」

リフィロが声に苦悩をにじませて答える。

「いない?では無事ではあるんですね?」

エリオットはリフィロに確認する。

「分からない……」

「?どういうことですか?分からないとは……!あなたが彼女を守っていたのではないのか?!」

エリオットはリフィロに詰め寄る。リフィロはぐっと手を握り締める。


「落ち着け、エリオットよ」

ココちゃんが言葉を挟む。

「今のお主なら、我の言葉がわかるだろう?」

「ああ、あなたはハルカの精霊の……え?貴方は……一体……」

エリオットは驚愕する。ココちゃんの本来の(しょう)を理解したようだった。

「今回のハルカのことは我にその責がある。リフィロを責めるでない。それから、ハルカはじきに帰ってくる。聖女の予言だ。たがえることは無いであろう」

「……そ、うですか。貴方がそうおっしゃるなら……」

エリオットはまだ納得がいっていない様子だったが、とりあえずは現状の説明を求めた。そして一通りの事情を知ると今度は自分のことを簡単に説明した。彼は赤の王国を出た後すぐに国へ帰り、国の宝剣を持つ権利を得るために試練に挑み、風の大精霊を従え、学園へ帰ってきたのだった。自分の国ではこのようなことは起こっていないため、とても驚いたようだった。道々、魔物を倒しながら来たが、この湖の付近が特に魔物の発生が多いと言った。


(エリオットはハルカの為に力をつけて戻ってきたのか……)

リフィロは再び両手を握り締めた。



「目が!目が開いた!」

それは一人の魔術師の叫び声で始まった。



赤い花が瘴気を放ち、増殖し、魔物を生み出していく。幾度倒しても、本体と思われる中心の花に近づけない。魔術師達も善戦してはいるが、どうにも統制が取れていない。リフィロ、フラム、ココちゃん、エリオットも魔物を次々と撃破するが、次第に力を消耗していった。特にリフィロはその攻撃に精彩を欠いている。

「リフィロ!お前は一旦下がれ!」

「まだ、大丈夫です、兄上」

リフィロはそう言って、近づいてきたフラムから離れ、魔物に向かっていった。


魔物は飛行型のものが多く、主に精霊の背に乗った空中戦になった。魔術師達も飛行の技を持っていたが、機動力はこの三人プラス大きくなったココちゃんがはるかに上だった。空を飛ぶ魔物の中では蝶のような、蛾のような姿の魔物が特に厄介だった。それらが出す鱗粉に触れるとその部分が痺れてしまうため、動きが鈍った。その鱗粉を避けるため、湖の水面すれすれを飛んでいたリフィロは、水中にいた魔物の攻撃を受けそうになる。リフィロは攻撃ごと魔物を凍らせ何とか回避した。その際バランスを崩してしまう。そこをついて蝶の魔物が襲い掛かってきた。今度は回避が追い付かない。

「っ!」



攻撃が弾かれた。白銀の光の盾で。


「リフィロっ!」


リフィロの耳に声が届く。愛しい少女が自分の名を呼ぶ声が。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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