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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
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森の夏休み シロガネコトバナ

来ていただいてありがとうございます。

「今日はハルカは私の!」

フィリアが朝食の席で、開口一番に宣言した。


先日のハルカの子ども返り事件は、あの後ハルカが目を覚ますことで無事に終焉を迎えた。同じく元に戻った精霊王がココちゃんの姿で花の説明をしに来たが、何故森でこの花が見つかったのかは謎のままだった。ひとまずは誰にも何の被害も無かったため、今後の注意喚起だけが皆に行われた。ただ、リフィロだけはハルカにしがみ付かれていた状態を皆に見られたり、その他にも何か精神的にダメージ(?)を負ったらしく、人知れず魔物討伐に明け暮れるという行動を繰り返していた。ちなみにハルカには事件の間のことは知らされないことになった。


今日はフィリアの勉強は休みの日だった。思えば、ハルカが帰ってきてから、フィリアは忙しくしておりハルカとゆっくり過ごすことが出来ないでいた。フィリアはハルカと腕を組んで、嬉しそうに言った。

「今日は森へお出かけしましょ。ステラルさんにお弁当をつくってもらったから」

「それなら、誰か護衛を……」

クレネスが提案すると、

「ダメ!今日は女の子だけなの!それに、ハルカが寝ちゃっても私がおんぶして帰ってくるわ!」

フィリアは強硬だった。



ハルカとフィリアは森を流れる小川の一つに来ていた。周囲には白色の小さな花をたくさん咲かせた木々があり、良い香りが辺り一面に漂っている。この花は森では秋の訪れを告げる花と言われていた。季節は静かに移ろっていた。ハルカは芳香を胸いっぱいに吸い込んだ。

「レジャーシートでもあれば良かったわね」

フィリアは不満気に言いながら手ごろな岩に布を敷いた。

「それは無理だよ。あ、でも研究機関になら、もしかしたらあるかも」

「え?そうなの?どうして?」

「だって、ジャージがあったよ!それにダージリンも!」

ハルカは学園の食堂のメニューに日本でお馴染みのものがあったことを説明した。

「えー?じゃあ、絶対渡り人がいるわね!ハルカの他にも」


二人はそんな、二人にしか通じない話をしながら隣り合って座り、ステラルに用意してもらったお昼ごはんを広げた。渡されたバスケットの中には、サンドイッチや瓶入りの果実水、焼き菓子がたくさん入っていた。

「わ、いっぱい入ってる!食べきれるかな?」

「大丈夫!こんなの楽勝よ!」

二人は楽しい気分で笑い合った。楽しそうな声に寄って来ていた精霊たちもさざめいた。


ハルカは学園や赤の王国でのことをフィリアに聞かれるがままに話した。フィリアは殆どの話をリフィロやフラムから報告という形で聞いていたが、ハルカからの話を聞いておきたかったのだった。

「防御魔法に、魔人、求婚……、盛り沢山ねぇ」

フィリアは、はあ、と息をついた。

「フィリアのことも話してよ。そうだ!結婚式はいつなの?」

ハルカは果実水を飲みながらフィリアに尋ねた。

「今年の森の灯り祭りの日よ。王族の結婚式はその日に行われるのが通例なんですって。でも私もう、お城に移り住んでるしお嫁に来てるようなものよね」

フィリアは照れたように笑った。フィリアの幸せそうな顔にハルカも思わず笑顔になった。


「さて、本題に入りましょうか」

いきなり、フィリアは真面目な顔になった。ハルカは思わず身構える。

「本当のところはどうなの?ハルカは誰を選ぶの?」

「え?いきなり何の話?」

「何って、決まってるじゃない!リフィロ殿下?、フラム殿下?エリオットって子?それとも他に誰か……」

食い気味に聞いてくるフィリアに押され、ハルカはちょっと後ろに下がってしまう。

「誰って、私はまだ十六歳なんだよ?結婚なんて……」

「違うわよ!ハルカの気持ちのことよ!」

「私の気持ち……」

フィリアから視線を外したハルカの頬は、ほんの少し桜色に染まっていた。フィリアはピンときた。


「好きな人、出来たのね」

「…………出来たっていうか、気が付いたっていうか」

口ごもるハルカにフィリアは確信と願いを込めて尋ねる。

「リフィロ殿下よね?」

「!っどうして……」

ハルカの顔が真っ赤になる。

「はあー、良かったわ。安心した」

ハルカの顔に疑問が浮かぶ。何故フィリアが喜んだり安心したりするのだろうか。


「でも、多分ダメだと思う」

「え?何で?!」

ハルカの沈んだ声にフィリアが問いかける。ハルカは学園でのことを説明した。学園では少し避けられていたこと、セシリアとの婚約の噂があったこと等。聞いてるうちにフィリアは無表情になっていく。


フィリアはセシリアの疑惑については報告を受けていたが、ハルカはまだ確定ではない事実として事件の首謀者の名を知らされてはいなかった。そして学園でリフィロがセシリアを侍らせていたことまでは聞いてなかった。

(あの、ヘタレども……理由はどうあれ、女の子を不安にさせとくとはどういう了見なの……?それにあのバカ女……昔から顔だけの頭悪い子って思ってたけど、とんでもない進化を遂げたわね……今度会ったら私が……)


「フィリア、フィリア?どうしたの?」

急に黙り込み、指をバキバキと鳴らし始めたフィリアを心配して、ハルカが声をかけた。

「あはは、何でもないわ!ハルカ、そのバカおん、じゃないセシリアのことは気にしなくてもいいわ!それだけは絶対に無いから!」

フィリアは笑ってごまかした。

「そうなの?でもどっちにしても私はリフィロには妹、家族としてしか見られてないと思う」

(ああー、言っちゃいたーい!でも私が言うのはちがーう!)

フィリアはぐっと堪えた。そして何かいい感じの表情を繕って語った。

「想いは口に出さないと伝わらないわよ?私だって何度クレネス様にアピールしたか……」

「伝える……。でも、気まずくなっちゃうのやだな……」

(ならなーい!絶対に!だいじょーぶ!心配なーい!)

フィリアの心の声はどうにか心の中だけにおさまっていた。

「リフィロ殿下はそんなことでハルカに冷たくするような人?」

「……そんなことは無いと思う……けど……」

(そーよぅ!アイツ躍り上がって喜ぶわよ!見てて丸わかりなんだから!)

もはや一国の王子をアイツ呼ばわりである。フィリアの心の声は止まらない。


実はフィリアはフィリアでリフィロのことを心配していたのだ。第二王子の死と精霊王の休眠はリフィロに暗い影を落としていたが、心ある国民たちは自分達が何もできなかった事を悔いていた。中にはリフィロを表立って責める者たちもいたが、殆どの民はリフィロを責めることは無かったのだ。だから、リフィロの想いをハルカに受け止めてもらいたいと願っていた。だから、フィリアは安堵したのだ。ハルカと一緒にいる時のリフィロは本当にいい表情をするようになったから。

(ああ、もう早くくっついちゃえばいいのにー!あっ一緒に結婚式とか良いんじゃない?)


(伝えるってどうしたらいいのかな?)

一方のハルカは人生初の経験に途方にくれていた。元の世界でも、彼のいる友人はいた。

(告白したりされたりなんて、すごいなぁなんて思ってたけど……)

自分とは世界が違うような気もしていたのだった。そして、ハルカは心の奥底で自分でも気が付かないうちに怖がっていた。もう一度失うことを。

(伝えて……そのあとは……このまま、みんなと一緒にいられる……?)

ハルカは花の香りと小川のせせらぎ、精霊達の光の中、まどろんだ。





「そうよ!召喚魔法の魔法陣を反転させれば……」

「そんなに簡単にいくかな?何か別の要因も……」

「…………土地の力も借りて……これなら……」

「リネ、アマリネ、少し休んだ方が……」




遠い声が聞こえ、途切れた。ハルカはハッと目を覚ました。どうやら、眠っていたのは一瞬だけのようだった。

「ハルカ?大丈夫?眠いの?」

フィリアの心配そうな声が聞こえた。ハルカは笑って答える。

「大丈夫。でもそろそろ城へ帰ろう?少し肌寒くなってきちゃったし。眠っちゃって、フィリアとか誰かに運んでもらう訳にはいかないから」

ハルカはそう言うとバスケットに食器などをしまい始めた。

(…………うーん、もうすでに殿下に運んでもらってるんだけど……。ハルカには教えない方がいいわよね。ややこしくなりそうだし。あー、じれったいわ。殿下がもっとしっかりしてれば)

フィリアの熱い苦悩は続いていた。









はじまる



ミリーは学園の廊下を歩いていた。夏休みを早めに切り上げて学園へ戻り、学園の実験室で魔法薬を作り続けていた。作れば作っただけ、効力が上がり効果の精度もあがっていった為、ミリーはとてもやりがいを感じていた。今日はミリーを教えてくれている魔法薬の教師に、新しい薬を見てもらおうと考えていた。


(あーあ、ハルカがいると思ってたのに、帰っちゃってたのかぁ。残念。早く夏休み終わって欲しい。秋の収穫祭、ハルカと一緒に行きたいな)

そんなことを考えながら、担当教師の研究室の前に着いた。

「先生、新しい魔法薬を作ってみたんです!見てください」

軽いノックと共に声をかけるが、いつものような返事が返ってこない。


(あれ?今日は先生、研究室に籠るっておっしゃってたよね?どうしたのかしら?)

ミリーは仕方なく、実験室へ戻ろうとした。しかし嫌な予感がして引き返し、思い切ってドアを開けた。

(怒られたら謝ろう)


ドアを開けたミリーの目に飛び込んできたのは、無惨に切り裂かれた教師の姿と、広がる血だまり、割れた何かのガラス容器、そして床に散らばる赤い花弁だった。

「……先生っ!……しっかりしてくださいっ」

ミリーは倒れている教師に駆け寄り、持っていた魔法薬を全てかけた。そして治癒魔術を発動させ叫んだ。

「誰かっ!誰か来てぇっ!」




ここまでお読みいただきありがとうございます。

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