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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
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森の夏休み トキモドリ

来ていただいてありがとうございます。

「うん?花を持ってきてくれたのか。ああ、ありがとう。珍しい花だな?こんな花この森で咲いていたか……?ああっ!これはまずい……時戻りのは、な……」

精霊達が運んできた花を受け取った精霊王は、スッと何かが抜け落ちた表情になり手に持った花を見つめた。

「……これは、この力は……」




「ハルカ、またこんなところで。いくら夏とは言っても外で眠っては駄目だ」

リフィロはハルカが森のお気に入りの木陰で、精霊達に囲まれて眠っているのを見つけた。ハルカは最近こうして眠っていることが多い。気を張り詰めることが多かった為、疲れているのだろうと思われたが、こうして外で眠ってしまうのにはリフィロも困っていた。外では誰が通りかかるかわからない。ハルカに何かするような民はいないと信じているが、ハルカの無防備な寝顔を他人に見せるのは嫌だった。リフィロは今日も自分が見つけられて良かったと安堵する。


リフィロはハルカをそっと揺り起こした。ハルカは程なく目を覚ます。

「がいじんさんだ……きれいなひと……」

ハルカはまだ寝ぼけているのか、リフィロにはよく分からない言葉をかけてきた。

「ハルカ?」

「おにいちゃん、はるかのなまえしってるの?」

リフィロはハルカの様子に戸惑った。何だか幼い子どもを相手しているように感じる。しかし、ハルカはハルカのままなのだ。


「ねえ、おにいちゃん、おばあちゃんはどこ?しってる?」

「えっと、ごめん。分からない」

ハルカの目に涙が溢れる。

「うわーん、はるかまいごになっちゃったー」

リフィロはハルカに泣き出されて、動揺した。

「とにかく、城へ戻ろうっ。立てるか?」

「やだっおにいちゃんだっこして」

そう言うとハルカはリフィロの首に抱き着いた。リフィロの全機能がしばし停止した。


リフィロは結局ハルカを抱き上げて城へ戻ってきた。そして途中で結構な数の民に見られた。

「ラブラブだ」

「アツアツじゃの」

「見ちゃ駄目よ」

口々に言う人々や中には何故か涙ぐむ人までいて、リフィロはとてもいたたまれなかったが、この状態のハルカを他の人間が見つけなくて良かったと心底思っていた。


城に入るとまずはクローに見つかった。クローは森の古王国の第五王子で金色の髪の毛先が淡い緑色に染まっている。クローは驚愕したような顔をしたのち、ポンっとリフィロの肩を叩くと、感慨深げに言った。

「ようやく()()()か!よくやった!褒めてやる!」

「何を誤解しているんです?クロー兄上!ハルカの様子がおかしいんです!誰か治癒魔法を使える人を呼んでください!あ、フィリア以外で」

「あら?呼んだ?………………ヘタレ返上ですわね、殿下!」

タイミング良く現れたフィリアは親指をぐっと立てて、片目をつむった。リフィロはどんどん混迷する状況に頭を抱えたくなるが、ハルカにしがみつかれているためにそれも出来ずにいた。

「もう、フィリアでもいい。ハルカを診てくれ。様子が変なんだ」

「やだっ、ちょっと甘えっこモードに入っているだけよ。女の子にはそういう時があるんだから」

「へー、そういうものなのか」

クローが感心して言った。


「おしろだ。すごーい。おひめさまもいる。おにいちゃんたちはおうじさま?」

「「?」」

フィリアとクローは首をひねる。ここで初めてハルカの様子がおかしいと言ったリフィロの言葉を理解した。


椅子に座ったハルカは足をゆらゆらと揺らしながら部屋の中を見回していた。

「ええと、あなたはハルカ……よね?」

フィリアは恐る恐る尋ねた。

「うん。おばあちゃんといっしょにきたの。でもまいごになったの。おばあちゃんしってる?」

「ごめんなさい。分からないわ。あ、でもおばあさんが来るまでここで一緒に待っていましょう?」

フィリアは泣きそうになったハルカを見て慌てて言った。

「おひめさまといっしょに?」

ハルカは目をキラキラさせて喜んだ。フィリアは何かに射抜かれたように胸を押えた。ハルカはリフィロの手をぎゅっと握ると

「おにいちゃんもいっしょがいい!」

と笑った。リフィロに抗う術は無かった。




「クローか。ふむ随分大きくなっておるな。十年と少しというところか……」

クローはフィリアにも他の治癒魔法使いにも分からないハルカの異状について、精霊王になら何かわかるのではないかと幻の道を風の精霊の力を借りて、猛ダッシュで聞きに来たのだった。クローは精霊樹の根元で見たことのない花を持って座っている精霊王に事情を説明した。

「そうか、我はその娘と契約を……。それが影響しておるのだろうな。これは時戻りの花と言ってな、我はどうやらこの花の花粉を吸い込んでしまったようだ。おそらく、ここ十年ほどの記憶が失われておる。いや戻っておるというべきか……まあ、安心するがよい。じきに元に戻る。その時には忘れていた間の記憶は失われておるがな」






「なんか精霊王様が、何とかって花の花粉を吸い込んで、十年分の記憶が無くなってる?十年前に戻ってる?でも、そのうち元に戻る。そんで忘れてた頃の記憶はなくなっちまうんだってさ」

クローの説明は分りづらかったが、ハルカの異状は精霊王とのつながりが影響していることが判明した。そして、もうすぐ元に戻ることも。リフィロはひとまずは安堵した。ハルカは先程からフィリアの隣でじっと動かずに静かに座っている。リフィロは不思議に思った。小さな子というのはもっと走り回ったり、騒いだりするものではないだろうかと。ハルカが特別大人しい子だったのだろうかと。


「ハルカちゃん、お姉さんと何かして遊ぼうか?」

適応力のあるフィリアが、幼い子にするように話しかける。

「しーっ。はるかね、おうちのなかではしずかにしてないとだめなの。おかあさんたいへんだから」

ハルカは小声で言った。フィリアもつられて小声になる。

「そうなの?どうして?」

「おかあさん、おしごとだから。おばあちゃんきたらそとであそぶの」

そう言ってソファの上でハルカは膝を抱えた。思わずフィリアはクローやリフィロと顔を見合わせる。


「おばあちゃん、はやくこないかな……」

ハルカはそれきりそのまま顔を隠してしまった。リフィロが心配してそっと近づき膝をつく。

「ハルカ?どうしたの?大丈夫?」

「はるかおひるねのじかん。おふとんいく」

顔を上げたハルカは目をこすった。どうやら眠くなっていたようだった。

「そうか、じゃあ、部屋へ戻ろうか?」

ほっとしたリフィロはそう問いかける。

「うん、おにいちゃん、だっこ」

ハルカはリフィロに向かって両腕を伸ばす。くどいようだがハルカの体は十六歳のままである。

「……っ」

「ご指名だな」

クローがニヤニヤと笑いながら成り行きを楽しんでいる。フィリアは目をキラキラとさせて、「殿下頑張って!」などと呟いている。再び機能停止したリフィロに向かってクローが面白がるように声をかける。

「何なら俺が運んでやろうか?」

「僕が行きます……」

リフィロはハルカを抱き上げた。


リフィロは城のハルカの部屋へハルカを連れて行き、寝台に寝かせた。途中城で働く人々に妙に温かい目で見られたが、それは気にしないことにした。

「ん、おにいちゃんありがとう。はるかね、おにいちゃんだいすき」

そう言うとハルカはリフィロの頬にそっと口付けた。そしてそのまま眠りに落ちていった。


リフィロは頬を押えてその場に座り込んだ。

「これは、反則だ……」

そしてハルカの顔を切なげに見つめる。

「お兄ちゃんか……」

(……早く元に戻って、名前を呼んで……)

 







ダレカノユメ


眠るハルカは不思議な光景を見ていた。おそらくは夢なのだろう。夢の中でハルカはジニアと呼ばれていた。

ジニアは何かの研究をしていた。仲間と共に。仲間の中に、アマリネと呼ばれた女性がいた。彼女はジニアより少し年上のようだった。ジニアはアマリネを姉のように慕っていた。


アマリネは力を持った魔法使いだった。ジニアや他の仲間も魔法使いだったが、アマリネほどの力は持っていなかった。アマリネは違う世界に行く方法を探していた。それが彼女の研究テーマだった。仲間達はそんなことは不可能だと口々に言ったが、ジニアだけは信じてアマリネに協力していた。


「ジニア!見つけたかもしれないわ!私行ってくる!」

目を輝かせるアマリネを見て、ジニアも嬉しくなったが、嫌な予感もしていた。

「待って。アマリネ。僕も一緒に行くよ」

ジニアはアマリネの背中を必死で追いかけた。

(待って、待って、置いて行かないで……)

足は重く思うように走れない。夢の中のように……。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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