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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
48/65

森の夏休み あれこれ

来ていただいてありがとうございます。

「わあ、かわいいっ」

「ハルカ様、抱いてやってくださいな」

「いいんですか?でもちょっと怖いかも……」

「大丈夫ですよ。ほら」

「わ、小さい、やわらかい、あったかい」

エレに赤ちゃんを抱かせてもらったハルカは小さな声で歓声を上げた。


ハルカは今日、エレの家に招待されていた。エレはハルカがこの世界、この国に渡ってきた時に世話してくれていた女性だ。ずっと城で働いていたが、現在は産休中だった。ハルカはエレに会えてとても嬉しかった。エレの家は森の中にあるこじんまりとした居心地のよい家で、ハルカは何となく自宅であった祖母の家を思い出した。


「フラムも抱っこさせてもらったら?」

赤ちゃんをエレに返したハルカはフラムに振り返った。

「ん-、僕はおっかないからいいよ」

今日、リフィロは魔物討伐に出ているので、フラムがハルカについて来ていた。

「え、かわいいのに……」


赤ちゃんが眠ってしまうと、エレはお茶を入れてお菓子を用意してくれた。ハルカも手伝った。

「そういえば、ハルカ様ご学友の方に求婚されたとか」

ハルカはお茶を吹き出しそうになった。フラムの眉がピクリと上がる。

「え?エレさん何で?何で知ってるの?」

「うふふ、城の情報網はすごいんですよ。それでどうなさるんですか?」

「きちんと断りました。もー、その話はしないで下さい」

「ハルカ様はご結婚はなさらないんですか?」

「うーん、私まだ十六歳だし、元の世界では学生だったから、結婚なんてピンとこないです」


ハルカは少し前まで中学校というところに通ってて、ここへ来る前にその上の学校へ入るための試験に合格し、三年間勉強を続ける予定であったことを説明した。そして出来れば、さらにその上の学校へ通いたかったと言ったら、フラムもエレもとても驚いていた。

「ハルカは勉強好きなんだねー」

「好きっていうか、九年間は学校に行くのが当たり前だったっていうか……」

ハルカは自分のいた国はずっと勉強ができて、平和で、幸せだったのだと思った。

「とにかく、私には結婚なんてもっとずっと先のことで、全然頭に無かったの」


だから、ハルカはとても困惑したのだ。自分がその対象になると全く思ってなかったのだった。

「でも、恋人くらいはいらしたのでは?」

フラムの眉がピクピクと動く。ハルカはエレさん今日はグイグイ来るな、と思った。

「いません。私のこと好きな人なんていなかったですよ」

ハルカはプイっと顔を背けた。

(あ、これは気が付いてないやつだ)

フラムもエレもそう思ったが、口には出さなかった。ハルカの機嫌が目に見えて悪くなってきたので、それ以上の追及はしなかった。







「成程ね……」

満天の星空の下、フラムは一人納得していた。ハルカは元の世界では学生だった。そしてこれからも様々なことを学ぶつもりだったのだ。しかし、突然その未来が断たれた。「学園」へ行きたがったのも、とても楽しそうだったのも理解ができた。正直に言うと、フラムはこのままハルカを学園へ戻すつもりがなかった。今回の赤の王国での事件や出来事をふまえると、同じことが起こる可能性が高い。あの赤の王国の国王がこのまま諦めるとも思えなかった。もちろん自分達が全力で守るが、そのせいでハルカが心を痛めることは許しがたいことだった。

(でも、ハルカの気持ちが……。せっかく友達もできたのにね)

フラムは悩んでいた。


気が付くと、周囲の魔物は全滅していた。見渡す限りに敵はいない。

「あれ?もうおしまい?歯ごたえ無いなー。精霊王様頑張りすぎじゃない?困るよ。僕はもっと強くならないといけないんだからさ」

フラムは白炎をまとい、大きく成長した白豹の背に乗り、琥珀の砂原に敵の姿を探した。







(やっぱり窓磨きは楽しい)

ハルカはロングタイプのメイド服を借りて城の窓磨きをしていた。魔物の討伐は自分には難しいと判断して、城の雑用を手伝わせてもらうことにしたのだ。窓磨きはハルカが祖母に教わった家事の中でも得意なものだった。くもりが取れて透き通っていく感じが爽快だった。任された分の掃除を終えて窓を開けると、朝の心地いい風と精霊が入ってきてハルカの束ねた髪を揺らした。


「ああ、ずいぶん綺麗にしてくれたんですね。ありがとうございます」

ハルカが振り向くとそこには書類を抱えたヴァンが立っていた。ヴァンは森の古王国の第四王子だ。第五王子のクロ―とは双子だが、その印象は正反対だ。第一王子の代わりに王位を継ぐことになったクレネスをとても慕っており、今はその補佐として城でとても忙しくしていた。窓から入ってくる風はヴァンの毛先が淡い緑色に染まった金色の髪も揺らした。

「でも、あなたはそんなことをしなくてもいいんですよ。我々の妹同然なんですから」

「いいえ、お世話になっているのでこのくらいはさせて下さい。おば、祖母からも働かざるもの食うべからずって言われていたので」

ハルカは妹同然と言われて嬉しかった。家族のように迎えられていることで心が温かくなる。実はヴァンの言っている意味は少し違っていて、彼はリフィロの嫁としてハルカを見ていたのだけれど、結果が同じことなので、二人の間に齟齬は生じないだろうと思われる。二人の間には穏やかな風が吹いていた。





「次はこれの皮をむけばいいですか?」

「ええ、頼める?助かるわ。でも本当にいいのかしら?ハルカ様にこんなことさせちゃって」

ここは森の古王国の厨房だ。窓の外はまぶしい緑の木々と夏のすこし強め日差し。少し薄暗い厨房は調理器具が整然と並んでいる。ここは料理番のステラルが仕切っている。ステラルはもうこの城に五十年務めている古参の使用人だ。ハルカはこの料理番の女性に懐いていた。ハルカの亡くなった祖母に雰囲気がとてもよく似ているからだった。

「ハルカでいいです。それに料理は好きなんです。よくおばあちゃんの手伝いをさせてもらってたから」

ハルカは嬉しそうに手にした山芋のような根菜の皮をむいていく。

「あら、上手ねぇ。じゃあこちらも頼もうかしら」

「はい!やらせてください!」

こうしてハルカは厨房でステラルと仲良くなっていった。


「ステラルさぁん、なんか甘いもの食べさせてぇ」

フィリアがよれよれで厨房へ顔を出した。

「え?フィリア?どうしたの今勉強中なんじゃ」

「うー、王妃様結構厳しいのよぉ……。糖分を補給しに来たの」

今、城の厨房はちょうど昼と夜の食事の支度の合間の時間で他の料理人の姿は無く、ちょうどステラルとハルカだけだった。

「ハルカこそこんなところで何してるの?そんな格好して」

フィリアは料理人たちが食事をするための椅子に座りこんだ。


ロングスカートのメイド服は腕まくりされ、白いエプロン、髪は束ねるといった、城の用事をするための装備で厨房にいたハルカは、鍋の様子を見に行った。

「うん、そろそろいいかな?」

ハルカが蓋を開けると鍋は蒸気を上げた。

「え?、何々?」

「今、厨房を借りてつくらせてもらってたの」

「あ、プリンだ!えー?ハルカお菓子作れるの?」

「うーん、レシピがあればね。でも、これはおばあちゃんがいつも目分量でつくってたの見てたから……。大体でやってみたの。美味しいかどうか分からないけど……。あ、ちょっと()が入っちゃったね。やっぱりおばあちゃんみたいには出来ないや」


「私も食べたい!いい?」

「うん、どうぞ。味は保証しないけど」

ハルカは少し冷ましたプリンを渡した。

「あ、美味しい!固めのプリンだわ。私こっちの方が好きだったのよね。あったかいのも美味しいわ!」

「私も頂いてみていいかしら?」

ステラルも興味深そうに見ている。ハルカは彼女にも一つ渡した。

「ああ、これは美味しいねぇ。西側に行ったときに似たようなものを食べたことがあったけれど、あの時は忙しくて作り方を聞く暇がなくて。今度作ってみてもいいかしら?」

ステラルは流石料理人だけあって、ハルカの手際を見てすでに作り方を把握したようだった。

「はい!お城でもっと美味しいのが食べられたら嬉しいです!冷蔵庫があったら冷たいのも食べられるんだけど……」

いつもなら、氷魔法を使う料理人もいるのだが今は休憩中だ。さすがにお願いするのは申し訳なかった。

「いるじゃない、冷蔵庫!」


「フィリア、一体厨房に何が……」

フィリアは冷蔵庫、ではなくリフィロを連れて来た。リフィロは厨房にいたハルカの全身を見て一瞬、沈黙したが、

「氷出して下さいな殿下」

とフィリアが頼むと、訝し気な顔をしたがボウルに氷を出してくれた。

(リフィロって王子様なのに、こんな事をさせていいのかな……?)

ハルカは戸惑ったが、無事プリンを冷やすことは出来た。

「はい、これ食べて。ハルカがつくったのよ」

フィリアは勝手にリフィロにプリンを渡してしまう。

「え?ハルカが?これを?」

「うん、おばあちゃんが良くつくってくれたの。おばあちゃんのようにはできなかったけど良かったら」

リフィロは一口くちにすると、

「美味しい……」

と呟いた。

「良かった!でもこれからはステラルさんがもっと美味しいのをつくってくれると思うから、安心してね」

ハルカはそう言うと、後片付けを始めた。リフィロがその後ろ姿を見ていると、ステラルが声を掛けてきた。

「リフィロ坊ちゃんには、私のよりハルカ様の料理の方が良さそうですねぇ」

ふふふっとステラルは笑う。

「僕達は貴女の料理で育ってきたんです。比べることなんてできないです」

リフィロはあまり表情を動かすことなく言いながら、ハルカのつくった甘い菓子をゆっくり味わった。

(比べられない……同じくらい良いって言ったのと同じだねぇ)

ステラルは今晩はリフィロ坊っちゃんの好物にしようかと思いながら、一人微笑んだ。








(何だろう?すごく眠い……。夜、ちゃんと寝てるのに……。ちょっと疲れてるのかな?でも、家ではこれくらいのお手伝い、当たり前だったのに…………今日はちょっと早めに寝ようかな)

ハルカは食器を洗いながら、微かな違和感を感じていた。




ここまでお読みいただきありがとうございます。

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