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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
47/65

森の夏休み ただいま

来ていただいてありがとうございます。

ハルカ達三人と精霊王は幻の道を通って森に帰ってきた。幻の道、つまり精霊界では体感数十分という時間歩いて来たが、現実の世界では二日程が経過していた。赤の王国で約一週間弱消費した夏休みは後、三週間弱残っている。ハルカは久しぶりの森の空気を思い切り吸い込んだ。夏とはいえ森の中はひんやりとした空気が漂い、とても過ごしやすく、木々は青々といつにもまして輝くようだった。



「え?シェロール兄上が?」

リフィロが珍しく驚いた声を上げた。

「ええ、諸島連合王国へ婿入りすることになったわ」

シェロールとは森の古王国の第一王子であり、現王太子のことである。森の古王国のある大陸の南方には海が広がっている。その海上には大小幾つかの島があり、それぞれを王が治めている。諸島連合王国はその国家の集合体である。シェロールはそこで森の古王国からの避難民の受け入れの調整を続けていた。

「何でまた?」

フラムはが母である王妃に尋ねる。

「向こうの国に滞在しているうちに、あちらの姫君と恋仲になってね。あちらは一人娘だから」

「それはまた……」

「だから、王太子はクレネスに変更。フィリアは王太子妃。ゆくゆくは王妃ということになるわ」


今、王妃と共にハルカとココちゃん、フィリア、フラム、リフィロは城の小さな応接室でお茶を楽しんでいた。そこで王妃は国の最重要問題と思われることをさらっと知らせてきたのだった。

(次期国王候補ってそんなにあっさり変えちゃっていいのかな?もっとこう、すごく揉めたりするんじゃないんだ……。でもフィリアが王妃様かぁ……何かピッタリかも)

ハルカは久しぶりの森のお茶を味わいながら、話を聞いていた。


「フィリアの王妃教育が始まっているの。だから」

ここで王妃はちらりとハルカを見た。ハルカは気付いていない。

「王子妃教育も始めておきたいのだけれど……」

「「母上っ」」

リフィロとフラムの慌てたような声が重なる。

「はぁ、ふがいない息子達を持つと苦労するわ……」

王妃はため息をついてお茶を口にした。



フィリアはハルカに小声で聞いた。

「で、どうだったの?学園は?」

「婚約破棄も断罪も何も無かったよ」

ハルカも小声で答えた。

「なあんだぁ、やっぱり違うのね」

フィリアはがっかりした。フィリアは現代日本からの転生者だったので、『学園』と聞いて色々と想像が膨らんでいたようだ。そんなフィリアの様子に、ハルカは苦笑いだ。実はハルカも少しそういうことがあるかもしれないと思っていたからだ。


「求婚であるなら、されておるであろう、ハルカは」

ここで焼き菓子を食べていたココちゃんがいきなり会話に入って来た。ハルカは慌てた。

「ちょ、ココちゃん!!」

フィリアの目が輝く。王妃の表情が消え、周囲の空気が心なしか重くなる。


「何それ!!詳しく!精霊王様っ、詳しく教えて下さいっ!」

「ふふん、仕方がないな。エリオットといってな、南方三王国の一つの高位貴族だ。これがなかなか美少年でな、真面目で性格も良い」

ココちゃんはうんうんと頷きながら説明する。

「ココちゃんっ!私はちゃんと断ってるんだから、そんな話はしないでっ」

ハルカはココちゃんを止めたが、ココちゃんは止まらない。

「うむ。断られても諦めない粘り強さもあるな」

「キャー、ハルカっすごいじゃないっ。モテモテねっ」

「フィリアまでっ!違うからね?」


王妃は静かに立ち上がり、静かに言った。

「フラム、リフィロ、お話があります。ちょっとおいでなさい」

「はい。分かりました」

王妃の言葉にリフィロは特に表情を変えず答える。

対照的にフラムは手で額を押さえて、絶望の表情だ。

「あー、分かりました」

フラムは嫌そうに立ち上がった。

「あなた方はゆっくりしててね」

王妃はハルカとココちゃん、フィリアににこやかに告げて三人は部屋を出ていった。

「王妃様、どうしたのかな?」

ハルカは不思議顔だ。

「あはは、どうしたのかしらね?」

(王妃様、ハルカのこと気に入っているから……二人ともお説教ね)

フィリアは少しだけリフィロとフラムを気の毒に思うのだった。





「あなたたち、先程の件は一体どういうことなのです?」

別室に移動した王妃は息子二人に問い質す。

(うわー、すごく怒ってるよ……)

フラムは自分が学園に行かされた理由を正しく理解していた。もちろん、ハルカの護衛が理由として大きい。そしてもう一つ。やはり護衛にはなるが、ハルカに変な虫が付かないように守るためだったのだ。学園は西側各国の王族や貴族達の子女が集まる場所だ。彼らはより強力な力を持つ者と縁を結ぶためにも学園へやってくる。ハルカをそんな者達に連れて行かれる訳にはいかなかった。リフィロがハルカを好ましく思っているのは皆が分かっていたから、どうにかしてリフィロがハルカを繋ぎとめることを期待していたのだ。もしもそれが叶わない時には自分が、とフラムは考えていた。森を守るために。

(最初は役目だと思ってたんだけどね……。でも今は……あー何でこうなっちゃったかな?)

フラムは自分の感情を持て余していた。


「ハルカさんを他所の国へ連れて行かれたらどうするのです?せっかく娘がもう一人できると思っていたのに!もう!どうしてうちは男の子ばかりなのっ?そしてどうして中々お嫁さんを連れてこないの?わたくしがつまらないじゃないの!」

(あれー?僕が学園に行った理由って……?)

フラムは自分は正しく理解してなかったのかもしれないと思い始めた。

「母上、今まではそれどころじゃなかったのですから、兄上達を責めないでください。それも僕の浅慮のせいですし」

リフィロは沈痛な面持ちで言った。

(いや、ハルカに関して責められてるのはお前だぞリフィロ)

フラムは心の中でツッコミを入れた。

「それに、ハルカは求婚をちゃんと断っていますし、僕達を家族だと思ってくれていますよ。母上、大丈夫です」

((いや、そんないい笑顔で言われても……))

フラムと王妃の心の声が重なった。

(何かがずれてる。ずれてるぞリフィロ……)


(随分と変わったわねリフィロは。とても表情が豊かになったわ。あなたの事はずっと心配だったけれど、ハルカさんのお陰ね。でも、いいえ、だからこそ……)

王妃、いや母は意を決して尋ねた。

「リフィロあなたは本当のところハルカさんをどう思っているのです?」

「愛しています」

即答だった。王妃は驚いてしまってすぐに反応出来なかった。

(てっきり、「僕には誰かを愛する資格はありません」とかなんとか、ウジウジ言い出すかと思ったわ……。良いことだけど、どうしちゃったのこの子?)

王妃は思わずフラムを見た。フラムは両手を上げて頭を振った。

(まあ、あの赤の王国での事件の夜に何かあったんだろうけど……。聞くのは野暮かな?)

フラムはあの夜、部屋へ帰ってきたリフィロが、目は赤かったもののとても穏やかな顔をしていたのを見ていた。フラムはほんの少しの胸の痛みを感じて目を閉じた。


「こほん。いいでしょう。それならハルカさんのことは任せるわ」

王妃は少しだけ頼りがいの出てきた末息子の成長を喜んだ。しかし、

「はい、何があってもハルカのことは守り抜きます」

と、いうリフィロの言葉に

「そうじゃないのだけれど……」

と、軽く脱力したのだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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