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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
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来ていただいてありがとうございます。

「セシリアが?ハルカに毒を?」

湖の底から戻った後、赤の王国の王城でのリフィロとフラムの部屋で、今回ハルカに起こったであろう出来事をフラムと精霊王に説明されたリフィロは愕然とした。

「何故そうなるのです?恨むなら僕を殺せばいい」

「落ち着け、リフィロ。一応まだ確定じゃないんだよ。証拠が無い」

フラムが吐き捨てるように言う。赤の王国が調査をしているはずだが、貴族でもない学生と酒の入った貴族たちの揉め事では、調査に本腰を入れないかもしれないとフラムは考えていた。


「今回のことは我の不覚であった。以前からハルカに対する悪意は感じておったというのに……。まさか湖のが我を封じてくるとは……。この国に来てから、悪意が殺意に変わったのは感じておったが、知らせる術がなく冷や冷やしたぞ」

薄い緑の子狐が珍しく沈んだ声を出す。


「湖水の精霊王様かー。僕も会ってみたかったな。それにしても精霊王様、力の制限が消えたのにその姿のままなの?」

フラムは城で供されたお菓子をかじりながら精霊王に尋ねる。

「む、まあ、この姿の方が動きやすいからな」

「へえ、結構気に入ってるんだー。『ココちゃん』」

フラムがからかうように言うと、ココちゃんは

「名前を貰ったのは初めてなのだ……」

ぽそりと呟いて、消えた。ハルカの元へ戻ったのだろう。


「リフィロ?」

フラムは未だに衝撃の中にいるリフィロに声をかけた。しかし、リフィロには届かない。彼はふらりと外へ出ていった。



(僕の罪がハルカを……)




ハルカは綺麗に整え直された部屋で寝付けないでいた。部屋付きのメイドが変わっていた。今度は随分と年齢の高い女性で、ハルカの祖母に近いような雰囲気だった。彼女は今までハルカの世話をしてくれていたメイドの少女は、取り調べを受けておりもうここへは来られないと告げた。もちろんハルカは抗議した。あの子はお茶を入れてくれただけだと。しかし、ハルカの主張をメイドの女性は伝えておくと言って、あとは黙々とハルカの世話を焼いてくれるのみだった。


ココちゃんが戻ったことで、体調は回復したものの、ハルカは色々なことがあって、落ち着かない気持ちでいた。

「無理。眠れない」

ハルカは寝台から起き上がると窓から外を見た。

(あれ?リフィロ?)

高く昇った月の明かりの下、リフィロが佇んでいた。





『……笑えよ、リフィロ』

リフィロの脳裏に浮かぶのは懐かしい笑顔。





「リフィロ?どうしたの?」

「ハルカ?どうして?こんな時間にこんな場所にいちゃだめだ」

「ごめんなさい。何だか眠れなくて……。リフィロが見えたから」

自分は無意識にハルカの元へ来たのかと、リフィロは自嘲した。

「大丈夫?」

ハルカはリフィロの様子がおかしいのに気が付き、心配そうに近づいた。

「近づかないでくれ」

(縋ってしまいそうだ)

ハルカは立ち止まる。


「……ごめん。今回のことは多分、全部僕のせいだ」

「え?」

「赤の王国には、僕のせいで森の古王国を出ていった人達がいる。彼らは僕を恨んでいる。ハルカが襲われたのはそいつらの差し金かもしれない」

リフィロは精霊王が眠りにつき、自分の兄が死んだ出来事をハルカに話した。ハルカは静かに聞いていたが、やがて口を開いた。


「ねえ、それって誰も悪くないよね?」

「え?」

「魔物が襲ってきたのは誰のせいでもないし、襲ってきた魔物が強くて、精霊王様でもぎりぎりだったのも仕方がないことだし」

(ぎりぎりって言うな)

ココちゃんは思ったが、空気を読んで口を挟まなかった。


「森の古王国を出る選択をしたのもその人達が自分で決めてそうしたんだよね。それで大変だったとしても、少しでも安全な場所で生きることを決めたのは誰でもない自分達だから、リフィロを恨むのはおかしいと思う。森に残ったとしても大変だったんだし、リフィロのせいじゃないよ?」

(その通りだ。大体、我頼みで守ってもらうことばかりを考えてるような奴らだった)

ココちゃんは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。宝石の中で。


ハルカは少し遠くの空を見上げた。

「全ての選択は自分の意思で行われる。誰かに強制されることは無い。最後は自分で決定するんだって。私のおばあちゃんが言ってた」

ハルカはリフィロを見た。

「だから、私はリフィロのせいだって思わないし、思ってあげないから」


「大体、誰に言われたからって、私を襲いに来たのはあいつらの意思なんだから、悪いのはあの三人組なの。それから、毒のことも……」

メイドの少女の顔が浮かぶ。屈託なく笑っていた少女。ハルカはやはり彼女が悪意を持って何かしたとは思えなかった。

「毒入りのお茶なんかあの子に渡した人が悪いと思う」


「……それでも僕が軽率な行動を取らなければ、兄上は……」

「うん、私がリフィロでも同じように友達を助けに行っちゃうかもしれない。それで自分のせいでって思うかもしれない」

リフィロは顔を伏せる。

(それでも、リフィロがずっと苦しむのは違うと思うから……)

ハルカはギュッと手を握りこむ。

「お兄さんの気持ちは?」

「兄上の気持ち?」


「リフィロは何度も私を助けてくれたよね?リフィロは私のことを妹って、家族って言ってくれたでしょう?リフィロが私を助けてくれた時、どう思ってくれた?」


(無事で良かった、と)


「その時のリフィロが私で、お兄さんがリフィロだったら?どう思うと思う?」


ハルカの祖母が亡くなった時、ハルカはずっと泣き続けた。食事もとれないほどだった。ある時、風が吹いた。その風は祖母の好きだった花の香りを運んできた。ハルカは祖母が見守ってくれてると思った。心配させてはいけないと気が付いたのだ。それからは、ハルカは頑張った。しっかり生活をし、学校にも通い、高校受験も乗り切った。友達ともまた笑い合えるようになった。祖母が見ていたら喜んでくれるだろうことを考えるようになったのだった。



(守れて良かった。幸せに生きてほしい。笑っていてほしい、ずっと……)

ハルカに対する想い、それはそのまま……。



『……笑えよ、リフィロ』


思い出すのは兄、フォルアの言葉。最期の言葉。あまり笑うことのなかった自分をいつも心配してくれた兄の。頬をぐにぐにといじられたことも一度だけではない。


リフィロの頬を涙が流れる。


ハルカはリフィロの涙に胸が締め付けられるようだった。


「ごめん、見られるの困る、だから、ごめん……」

(そ、そうだよね、私、気が利かなすぎ)

ハルカはハッとして部屋へ戻ろうとした。が、腕を引かれ、リフィロの腕の中に閉じ込められてしまう。

(え?え?あれ?なんで?こっちー?)

ハルカは軽くパニックになった。リフィロの髪がハルカの肩にかかる。彼の微かな震えが伝わってくる。

ハルカはリフィロの背に手を触れた。かつて祖母にそうしてもらったようにそっと撫でさすった。




ここまでお読みいただきありがとうございます。

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