思惑
来ていただいてありがとうございます。
「リフィロ様!やっぱりこちらへいらしてたのですね!」
一人ずつ別室で行われている事情聴取を終え、部屋から出てきたリフィロの元へセシリアが速足で近づいてきた。
「今日は父の登城に一緒に連れてきてもらったのです。リフィロ様にお会いできるかもしれないと思って」
セシリアは豪華なドレスに身を包んでいた。気合を入れてきたようだった。しかし、リフィロがそれに気づくことは無く、部屋に一人でいるハルカのことが心配で一刻も早く戻りたいと思っていた。
「ねえリフィロ様、明日の夜にこの城で開かれる涼夕の宴の舞踏会で、エスコートをお願いしたいのです。よろしければこの後わたくしの屋敷へ。父とも会っていただきたいわ」
「何度も申し上げておりますが、そういったお話ははっきりとお断りさせていただきます」
これまでとは違いリフィロはセシリアに向き合い、目を見てしっかりと話し始めた。自分の気持ちの行方がはっきりと決まった彼には迷いが無かった。
「私には大切な人がいます。その人を一生かけて守ると決めました。ですから貴女の申し出はいっさい受け入れられません。申し訳ありません」
リフィロは深く頭を下げた。
リフィロが頭を上げると、一瞬、ふっとセシリアの顔から表情が抜け落ちてるのが見えた。しかし、すぐにセシリアは微笑んで言った。
「まあ、残念ですわ……。リフィロ様はわたくしと一緒にこの国にいらっしゃった方が、お幸せかと思いましたのに……。リフィロ様の想う方はあの転移者の方ですのね、きっと。わたくし分りますわ。とても、とても大事にされているみたいでしたもの」
リフィロは少し身構えたが、セシリアは夢見るように続けた。
「では、舞踏会で一曲だけでも、ダンスを踊っていただけませんこと?」
「……申し訳ありません」
リフィロは再び深く一礼すると、セシリアの前から立ち去った。
「残念ですわ……」
セシリアは困ったような顔で微笑んだ。外の明るさとは対照的な屋内の薄暗さの中、セシリアの人形のような微笑みが、白く浮かび上がっているようだった。
「とても……とても残念ですわ」
夏の日差しが強いが、設置されたパラソルが日差しを遮ってくれている。爽やかな風が心地いい。ハルカの目の前には機嫌よさげな一人の男性が座っている。ハルカは見知らぬ人物の登場に緊張していた。
「私のことはレオと呼んでおくれ」
「ハルカ モリです」
「やはり女性が美しく着飾っていると華やかだね。ドレスも宝石もとても良く似合っている。君もそういったものは好きだろう?」
ニコニコと、優しげに笑うレオはテーブルに頬杖をついて尋ねてくる。
ハルカはレオに見られていることに、何故だか居心地の悪さを感じてしまい、顔が強張る。
「えっと、はい。綺麗な物は好きです。見てると楽しいので」
「うん?見てるのが楽しいの?」
「はい。自分が着るのは少し苦手です。ちょっと動きづらいので……」
「そうなのか、ふうむ」
(何だか、この人怖い。笑ってるのにそうじゃないみたい。……もしかしてこの方は……)
ハルカの心を感じ取ったのか、氷の精霊が肩にとまってきた。甘えるようにハルカの頬に顔を寄せてくる。火の精霊ももう片方の肩に、前肢二本をかけてぶら下がってくる。レオの登場で集まってきていた精霊の殆どはどこかへいなくなってしまっていたが、その場に残っていた精霊達が、ハルカを励ますように飛び回っている。トカゲの精霊はハルカとレオの顔を見比べている。ハルカは精霊達を見て、顔をほころばせた。
レオはそのくすんだ金色の双眸を細めた。
「……なるほど。そうか」
そう言うとレオはいきなり立ち上がる。
「邪魔をしてしまってすまないね。私はこれで失礼するよ。ああ、そのままで」
立ち上がろうとしたハルカを手で制して、来た時と同様に突然レオは去って行った。
後に残されたハルカは困惑していた。もっと何かたくさん質問されるのを覚悟していたのだ。
(何だったんだろう?でも、多分今の人って……)
「ハルカっ」
そこへリフィロが走ってきた。セシリアと別れてハルカの部屋へ行くと、部屋にハルカがいない。メイドに問いただすと、外にいるという。メイドの制止を振り切って外へ出ると、ちょうど一人の男性がハルカの前から去るところだった。リフィロは座っているハルカのそばに片膝をつき、ハルカの顔を見上げた。
「大丈夫だった?何を言われた?」
ハルカはリフィロの顔がいつもより近いことに、恥ずかしさを覚えて思わず目をそらしてしまう。リフィロは悲しげにハルカを見つめた。
「特に何も……。ドレスや宝石は好きかって聞かれたくらいで。ねえリフィロ、今の方って」
「彼はこの赤の王国の国王陛下、レオンス・シュペルヴィエル様だ。さっき僕もお会いしたよ」
「あ、やっぱり」
(森の古王国の国王様だ。雰囲気がとっても似てる。でも森の国王様は春の暖かいお日様みたい。レオンス様は真夏の刺すような太陽の光……)
ハルカはさっき思い出せなかった、レオと似ている人を思い付き、一人納得していた。
「もうよろしいので?陛下」
王の執務室。従僕から上着を受け取り、袖を通しながらレオは楽しそうに言った。
「ああ、大体分かったよ。あれは欲しいなぁ。あの美しい力。あれは何なのだろうね。何とか手に入れたいねぇ」
レオこと、レオンス٠シュペルヴィエルは自らの右腕を、自らの目線の高さまで上げて声を掛けた。
「なあ、お前もそう思うだろう?」
従僕は不思議そうな顔をしたが。この主にはこんなことがよくあったので、大して気にすることもなく頭を下げ、退出していった。
レオの右腕にはあのトカゲの姿の精霊がしがみついてレオの方をじっと見ていた。
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