王の城
来ていただいてありがとうございます。
(何だか、この世界に来てからこんなのばっかり……)
ハルカは赤の王国の王城へ着くなり、体調を崩してしまった。寝込むほどでは無いのだが、立っているのが辛い。少し吐き気もあり、何よりあの瘴気の何かが焦げたような匂いが薄っすらとまとわりついているように感じていた。
(やっぱり、ココちゃんがいないせいかな……。どうしちゃったんだろう)
ハルカはブレスレットに目をやる。あの後も何度もブレスレットに呼びかけるが、ココちゃんは現れる様子がない。不安そうな顔をしていたせいか、鳥の姿をしたリフィロの契約精霊と山猫の姿をしたフラムの契約精霊が、ハルカにすりすりと頭をこすりつけてきた。
「ごめんね、心配させちゃった?大丈夫だよ。ありがとね」
ハルカは二人(?)の頭を撫でた。精霊達は、精霊王の不在を心配したリフィロとフラムがハルカの護衛に付けたのだった。
結局、ハルカは体調不良のため、本来の目的の事情聴取は行われなかった。赤の王国に来たのに、部屋で閉じこもっていた。窓を開けると外からの風が入ってきて少し気分が良かったので、ハルカは窓辺で過ごすことが多くなった。
「今日はお天気もいいですし、外でお茶になさいませんか」
部屋付きのメイドが、提案してきた。彼女はよく笑うかわいい女の子でミリーに雰囲気が似ていた。
「え、でも、一人で部屋の外に出ないように言われていて……」
「ほら、すぐそこに見える庭園ですわ。あそこならこの部屋の続き間のようなものですもの。大丈夫です。ずっとお部屋にいるばかりじゃ、余計にお体に悪いです。さあ、お着換えをしましょうね」
見ると窓の外にテーブルと椅子とパラソルが準備されている。メイドは半ば強引にハルカを着替えさせ、ハルカの手を引いて外へ連れ出した。
(どうして、お茶を飲むのに着替えるの?!)
ハルカは不思議だった。赤の王国に着くなり湯浴みをさせられて、髪を梳かされ、ドレスに着替えさせられたのだ。話を聞くだけなのに何故着飾るのだろうと。最初は綺麗なドレスや宝石の付いたアクセサリーにテンションが上がったハルカだったが、自分が身に付けるとなると体調不良のせいもあってとにかく体が重く、動き辛いので苦手になってしまった。
(私はこういうのは見てるだけがいいみたい。貴族のご令嬢って大変なんだね)
元の世界の着心地の良い軽い服が懐かしくなってしまうハルカであった。
ただ、着替えたハルカを見て、先に着替えを終えて待っていた男性陣は、息をのんだり赤くなったりと忙しなかったようだ。
明るい日差しに、植物の匂い。少し遠くの方に水面がキラキラ輝いている。見えているのは小さな湖で、研究機関のある湖と地下水脈で繋がっているのだという。ハルカは少しだけ解放された気持ちになった。確かに外の方が体調がいいと思えた。メイドの少女はお茶とお菓子を準備すると、いなくなってしまった。ハルカは不思議に思ったが、少しほっとしていた。この城へ来てからは眠るとき以外は常に誰かが部屋にいた。いつも監視されているようで息が詰まっていた。体調不良に、ココちゃんの不在と、ハルカの神経はいつも張りつめていた。
(いつも、守ってもらってたんよね……。守る、そうか、私の防御魔術でなんとかできるかもしれない)
ココちゃんのありがたみを感じていると、ハルカは思い付いて、自分の周囲に魔術をかけてみることにした。目を閉じて、自分の周りに魔力を巡らせる。自分が大きなガラス玉の中にいるイメージをする。ハルカの周囲に白銀の光が溢れる。すっとハルカの体が軽くなった。
(あ、いい感じかも……)
そう思って目を開けたハルカは驚いた。何故か小さな光達が集まってきているのだ。精霊たちが集まってきて、ハルカの白銀の光の周りを飛び回っている。
(こんなに精霊さんがいたんだ……)
テーブルの上では鳥の姿をした氷の精霊、山猫の姿をした火の精霊、そしてちょっと大きなトカゲの姿をした精霊がハルカを見ていた。
「あれ?貴方は誰?光ってるし、精霊さんだよね?」
ハルカには精霊は光を宿して見えていた。普通の動物などには光は見えない。リフィロやフラムに精霊がどんな風に見えているのかは分からないが、ハルカには様々な色の光に見えるのだ。
『精霊も成長するのだぞ。長く存在しておれば勝手に大きな存在になる。そして何かを強く願う者には、小さな者達が集まって来ることがある。強い一つの意思に共感し力を貸すのだ。その時に様々な姿を形どる。リフィロの精霊は鳥の姿、フラムの精霊は翼の生えた山猫。どうしてかは分からないが、その精霊の好みか……?人の姿をする精霊もいるぞ。ああ、我か?我は人に興味があったのだ。人は面白いからな……』
ハルカはそう言って笑った精霊王の言葉を思い出した。いつだったか森で精霊のことについて尋ねたことがあったのだ。
「あなたも何かを願ったの?」
ハルカは人差し指でそっとトカゲ精霊の頭を撫でた。トカゲ精霊は気持ち良さそうに目を閉じ、小さな炎を吐いた。
「あなたは誰かの契約精霊?それとも眷属精霊?それともはぐれ精霊?」
契約精霊とは、人と契約して力を貸している精霊だ。そして、眷属精霊とは森の精霊王のようなより大きな精霊に従属し、庇護を得ている精霊。そしてはぐれ精霊とはそのどちらでも無い精霊のことだ。これもココちゃんに教えてもらっていた。ハルカはトカゲ精霊に尋ねるが、トカゲ精霊は首をかしげるばかりだった。どうやら言葉は良く分からないらしい。
「やあ、ごきげんよう。お嬢さん」
突然声がかけられ、驚いたハルカは立ち上がる。集中が切れ魔術が途切れてしまい、めまいに襲われ、しゃがみ込んでしまう。
「驚かせてしまってすまない。大丈夫かい?具合が悪いのかな?」
近づいてこようとした人物に、鳥と山猫の精霊が威嚇の声を上げる。
「大丈夫……です」
主に精霊達に向かって安心させるように声を掛け、立ち上がったハルカはその人物を見た。
華美ではないが、品の良い服装をした男性が立っていた。三十代前半くらいのようだった。梳かしただけのようなオレンジ色の髪に、ややくすんだ金色の瞳が印象的だった。ハルカには誰かに雰囲気が似ているように感じられたが、それが誰かは思い付かなかった。男性はハルカに座るよう促すと自分も空いた椅子に腰かける。
「少しだけ、ご一緒させてもらってもいいかな?」
ハルカには拒否権が無いように思われた。
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