熱情
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こちらのお話の最後の部分のミリーの日記が、『試練の洞窟』、『洞窟の試練 黒い針』、『洞窟の試練 喰らうもの』の大体のあらすじになっております。よろしくお願いします。
今日は朝から気温が上がり、湖からの風が心地よく医務室のカーテンを揺らしている。ハルカの熱もすっかり下がり、明日には寮の自室に戻り、授業にも出て良いと、ユエインから言われていた。
「ねえココちゃん、ゆうべって……」
ハルカの枕元で寝そべっていた薄い緑の子狐が、ビクッと体を震わせる。
「リフィロって、ここへ来てないよね……?」
ハルカは夢の中でリフィロに会えて嬉しかった。だからなのか、自分でもちょっと大胆なことをしてしまったのだ。恥ずかしいが所詮は夢なので、気にしなくてもいいかと思った。大体、夜中にリフィロがこんな所に来るはずがない。そんな風にハルカは思っていた。それでも一応は確認しようとココちゃんに尋ねた。
「っすまぬ!ハルカ」
「え?どうしたのココちゃん?」
「リフィロがあまりにも心配しておったから」
「え?嘘。本当にリフィロいたの?」
「ちょっと顔を見るように勧めた」
ココちゃんは何故かハルカと目を合わせない。
「………………い、いやあああああああっ」
ハルカは布団を被って、更に顔を手で覆って絶叫した。顔が熱く、再び熱がぶり返したようだった。
「何やったのぉぉぉ!私ぃぃぃっ」
「うむ、ハルカはリフィロの手をだな、こう……」
「説明しなくていいからっ!」
ハルカは顔を真っ赤にして飛び起き、ココちゃんの言葉を遮る。
「違うの、違うのぉ。小さい頃、おばあちゃんが良く当ててくれたの、おでことか顔に手を、熱が出た時に、だからつい、なの」
「うむ、我にそれを言ってもだな」
「うわああ、リフィロ困ったよね。どうしよう」
ハルカは半泣きであった。
ココちゃんはハルカの様子を伺うが、どうやらその後の事は覚えていないようだった。ココちゃんは迷ったが、口を閉ざすことにした。
「困るというより、安心していたようだぞ」
(更に言うと幸せそうな顔だったな)
ココちゃんは心の中で続けた。
「そっか、リフィロにも心配かけちゃったな……謝らなきゃ。ココちゃんも心配かけてごめんなさい。助けてくれてありがとう」
ハルカはココちゃんをそっと抱き上げ、抱き締めた。
「我はハルカの守るためにいるのだから、当然だ」
ココちゃんはそっけなく言ったが、ハルカにされるままに体を預けた。
(ハルカは他の人間を見捨てることができない。他人が傷つくことを酷く恐れておる。優しいのだ、ハルカは。それは美徳であるが、この先は力弱き人間達の中で生きるのは、厳しいかもしれぬ)
ココちゃんはハルカに撫でられながら、目を閉じた。
「だからさ、さっさと手続きしてよ。そう言ってるでしょ?」
「ですから、手続きには機関の許可と学園長の許可と、それから各担任の……」
「それはさっきも聞いた」
「い、今は少々立て込んでおりまして」
「そんなのは関係ない!」
「おいおい、何してんだフラム。無害な事務員に圧を掛けるなよ」
ここは学園の事務室。最初に話していたのはフラムと学園の事務員だ。通りかかったライアーがフラムの腕を引っ張り、事務室から連れ出した。ライアーは何やら赤い手紙のようなものを持っている。
「邪魔するな」
フラムはライアーを振り払い、睨みつけた。淡い夕焼け色の髪が心なしか白みを帯び、森の古王国の王族に特有の青緑色の瞳に炎を宿す。
「それがお前の素か?優しい王子様が台無しだな。せっかくここまで来たのに、早々に学園を辞めるつもりか?」
フラムはハルカを連れて森へ帰るつもりだった。退学の手続きをしようとしていたのだった。
「こんな無能の集まりの中にハルカを置いておけないんだよっ!」
「無能って、生徒達はまだ訓練の途中……」
「無能はお前達魔術師のことなんだよっ!学園の奴らなんてそれ以前のカスだ!…………それにっ一番の無能は…………僕だ」
フラムは苦しそうに吐き出した。フラムは自分を責めていた。足元にできた自分の濃い影を苦々しく見つめた。
(精霊王様に言われるまでもない。馬鹿だった。油断していた。あんなものが本当に存在していたんだ。自信があった。西側に出現する程度の魔物なら、遅れを取ることは無いって。でもこの様だ。ハルカは死んでいてもおかしくなかった。それほどの魔物だった。あんなものの出現に気が付かなかった僕は一体何なんだ。ハルカから離れるべきじゃ無かった。ハルカの望みを叶えてやりたいと思っていたけど、無理だ。森で精霊王様の加護のもと厳重に守るべきだ。彼女は、大切な……大切な何だ?…………そう森の古王国を守る為に必要なんだ。その為に……)
フラムの瞳から乾いた地面に滴が落ちる。その事にフラム自身が戸惑った。慌てて顔を背け目をこする。
「……そんなにあの娘が大事か」
「…………」
「残念だが、まだ退学はできないぞ。そら、赤の王国からの招待状だ。お前達三人に」
ライアーは持っていたくすんだ赤い色の封書を差し出した。
「何だって?」
「あの魔物の事は周辺各国の上層部にすでに報告済みだ。早速一番の大国が動いた。あの娘を守るというなら、魔物からだけじゃない。冷静になれ」
ミリーの日記より
今日は試練の洞窟での魔物討伐の授業でした。途中まではとても順調でした。でも、最後にとても強い魔物がいました。本当に魔物だったの?普通の人に見えたのに。でも、やっぱり魔物だったんだ。
ジョセフ様に大怪我をさせて、ヤニス様にも。(呼び捨てでいいって言われたけど、やっぱり呼びづらい)そして私達のことも殺そうとしてた。黒くて長い針みたいな物をいっぱい出して操ってた。ジョセフ様とエリオット様の魔術は魔人には全然効いてなかった。ハルカがあの綺麗な防御魔術で守ってくれなかったら、と思うととても怖い。だってジョセフ様は本当に危なかったから。私の薬と治癒魔術、間に合って良かった。
精霊の国の王子様達はすごかったです。魔術の桁が違うっていうか、もしかしたら先生達よりも強いのかも。精霊魔法って言うんだっけ?そういえば、精霊を初めて見ました!ハルカの契約精霊なんだって!綺麗な緑色のキツネだった!力の強い精霊は普段は精霊が見えない人にも見えることがあるんだって。後でハルカが教えてくれました。
ほとんど三人(?)だけで魔人を倒しちゃった。本当にすごい。でも狼型の魔物は何で後から消えたんだろう?スッって消えたように見えた。みんな気が付いてなかったみたい。不思議です。
ハルカは精霊の国の王子様達にとても大切にされてるみたいでした。ずっと私達を守ってくれたハルカは魔力切れを起こして倒れちゃった。ごめんねハルカ。ありがとうハルカ。氷の王子様がハルカを大事そうに抱き上げて、船に乗せて連れて行きました。あの方はいつも無表情だけどあんなに心配そうな顔もなさるんだな。やっぱりハルカってお姫様なのかなって思いました。
一つ気になることがあります。それはセシリア様です。とっても怖い顔で二人を見てたから。やっぱりあの噂って本当なのかな。貴族とか王族の事はよく分からないけど、氷の王子様が笑うのって、ハルカと一緒にいる時だけだと思うんだけど。ハルカは気が付いてないみたい?なんか大丈夫かなって心配です。
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