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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
34/65

洞窟の試練 喰らうもの 

来ていただいてありがとうございます。

こちらのお話には残酷な表現があります。苦手な方はお読みいただかないようお願い申し上げます。

よろしくお願いします。

試練の洞窟の前でベースを作り、待機していた魔術師の一人が小さな異変に気付く。

「通信鏡の反応が一個消えた……」

「何だ?アクシデントか?おーい通信鏡の反応が一個消えたってさ。どうする?」

「ああ、毎年一チームくらいはやらかすよな」

呑気に話している魔術師たちをしり目に最初の魔術師が洞窟の入り口を見つめる。彼は気配を探知する能力に長けていた。

「な、なんだこの気配はっ!おい皆準備しろ!これはまずい!」


だいぶ早めの時間であったが、リフィロとフラムのクラスも洞窟前の岸辺に到着した。相変わらずフラムの周囲には女子生徒が群がっている。だが、リフィロの近くにはセシリア一人。

「リフィロ様!今日は頑張りましょうね!わたくしたちが一緒なら、きっと一番良い成績が出せますわ!」

運悪く、本当に運悪くリフィロはセシリアと同じチームになってしまったのだ。幸か不幸か、例の婚約の噂のせいで他の女子は寄り付かなくなったが、セシリアのうっとおしさがパワーアップしているので、リフィロにとっては変わらない状況だった。ただし、リフィロはセシリアの話を殆ど聞いていないばかりか、目を合わせることもしないので、ただただ、周囲で騒音がしているという認識だった。


急にバタバタと動き出した教師達、魔術師達の様子を訝し気に見ていると、洞窟の入り口に翠の狐が現れた。同時にリフィロとフラムも異変に気付く。こちらに来てから、長らく感じていなかった、強い魔物の気配。


「この馬鹿者共っ!!何を腑抜けておるかっ!!何故この気配に気付かぬっ!!」


リフィロとフラムは目を見開く。精霊王の言葉が終わらないうちに駆け出す。同時に鳥の姿の氷の精霊と、翼の生えた山猫の姿の火の精霊も飛び出す。


「ハルカっ……!!」







『ココちゃんお願いがあるの。ココちゃんがリフィロ達に知らせて、助けを呼んできて』

『駄目だ!我はハルカを守るためにここにおるのだ!ハルカを置いていくことは出来ぬ!!行くのならハルカを連れてゆく!』

『ココちゃん』

ハルカは困ったように笑うとココちゃんを抱きしめた。

『…………っ待っておれ!』

ココちゃんは走り去った。立ち上がった男が「痛いな」とココちゃんを狙うが、ハルカが防御する。



(大丈夫、きっと大丈夫。ココちゃんが助けを呼んできてくれるから)

ココちゃんとのやり取りを思い出しながら、ハルカは自分を奮い立たせる。

ハッ、ハッと、自分の息遣いがやけに耳に響く。ハルカは何度目かの黒い針の攻撃を防いでいた。ハルカは吐き気や恐怖とも戦いながら目の前の男と対峙する。


エリオットは風の魔術で黒い針を吹き飛ばすが、針はその度に再び軌道を変えて向かってくる。

「くっ」

足を負傷しているヤニスは動けない。ロイはヤニスのそばで放心したように座り込んでいる。ジョセフの様子は気になるが、今は見に行く余裕すらない。ミリーに任せるしかない。エリオットは焦っていた。だが、今の自分には目の前の敵に対抗できる術が無かった。悔しさに唇をかみしめる。


「ああ、イラつく。森は攻略失敗するし、どーなってんの、これ?」

「?」

男は苛立ちと共に黒い針の数を増していく。その数は先程までの比ではなくなってきていた。ハルカは、男の放った「森」という言葉に反応したが、現れた針の数に戦慄し、そのことが頭から消えた。


(なんだか、頭がくらくらする)

ハルカの脳裏に「魔力切れ」という言葉が浮かぶ。

(そっか、これが……どうしよう……)

『そなたは瘴気を清浄な氣に変えることが出来るようだ』

精霊王の言葉が浮かぶ。

(ああ、そこにある……)

目の前の男を見る。瘴気の塊のような黒い影。ハルカは長く息を吐きだすと、深く深く深く息を吸った。


「もういいや、これで終わりにしよう」

そう言って髪をかき上げる仕草をする黒い針の男。その顔が驚愕する。左手の指先が消えていた。

(喰われている)

そう感じた瞬間、黒い針の男に初めて焦りが浮かぶ。目の前の少女に恐怖した。

「何なんだよっお前はっ!」

無数の黒い針がハルカ達に襲い掛かった。


ハルカの白銀の盾は皆を守り続けていたが、突然限界を迎えた。

「ごほっ」

ハルカは口を押えてしゃがみ込み膝をついてしまう。指の間から血が流れてくる。白銀の盾が消失する。

「ハルカっ」

エリオットが風魔術を最大威力で発動するも、黒い針の一部を吹き飛ばしたのみ。

(くっ、ここまでか)

エリオットはハルカを庇おうとハルカの前に手を広げて立った。しかし覚悟していた痛みは訪れなかった。黒い針は全て凍り付き洞窟の地面にたたき落されていた。


「ええいっ、精霊界を通れれば、もっと早いものをっ!恨むぞ湖のっ」

ココちゃんはハルカとの契約でハルカとつながっているので、ハルカが生きていることは分かっていた。ただ、ハルカが今どんな状態なのかは、視認しないと分らない。分からなかったのだ。


だから、


ココちゃんとリフィロとフラムがハルカを目にした瞬間、男の右腕が吹っ飛び、右足が凍り付いて砕け散り、左足が爆散した。低いうなり声が響き、横穴内の温度が急激に下がっていく。そして黒い針の男の周囲を炎が取り囲む。


だが、驚いたことにそんな状態になっても男の顔は笑っていた。そして、無くなった体のパーツが再生を始めた。細かな粒子のようなものが集まってくる。


三人は守るように、ハルカの前に立った。

「ココちゃん、フラム、……リフィロ」

ハルカはそう呟くと安堵して意識を失った。




ここまでお読みいただきありがとうございます。

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