表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
32/65

試練の洞窟

来ていただいてありがとうございます。

湖のほとり、研究機関のある島に近い山のふもとに、機関の管理する洞窟がある。その中は大小の部屋のような横穴が無数に存在しており、それに通じる道が葉脈のように張り巡らされている。そこは通称「試練の洞窟」と呼ばれており、機関の魔術師達が捕えてきた魔物がそれぞれの穴に閉じ込められている。


学園に入学した生徒達は、五人から六人でチームを組み、そこで魔物討伐の訓練を行う。まずは「手前」。ここにはごく低級の魔物が閉じ込められている。あまり動きの速くないワーム系の魔物だ。そして奥に行くほど魔物は強くなっていき、一つの穴の魔物を討伐できるようになると次の穴の扉が開くようになっている。


チームは個々の能力やバランスによってライアー達教師が決めていた。ハルカが入ったチームは攻撃魔術のエリオット、ジョセフとヤニス、そして魔法薬のミリーと一般の生徒で魔術剣士のロイだ。ロイは自分の魔力を剣に流して魔術武器として扱うことが出来る。

「まあ、君たちの出番はたぶんないと思うけれど、実戦の雰囲気を知っておくのは大事だから。ちゃんと見ておいてくれ」

エリオットはリーダーを自負しているらしく、ハルカとミリー、ロイに言ってきた。後ろではヤニスがうんうんと頷いている。ジョセフは珍しく少し離れたところに立っている。



実は、ハルカが防御魔術を授業で見せた後、エリオットは一人でハルカに謝りに来たのだった。エリオットの出身の南方の王国はちょうど山脈が途切れる場所にあり、魔物の侵入が多く、苦労している。だから、物見遊山のような貴族達には苛立っていたのだという。

「精霊の国のお姫様がどんな力を持っているのか楽しみだったのに、魔術を使えないなんて、と勝手に失望してしまった。すまない」

エリオットは素直に頭を下げた。どうやら筋を通す質のようだ。ハルカは慌てて首を振った。

「もう、気にしないでください。……魔力はあるけど使い方が分からない人っていないらしくて。どうしても魔術を使えるようになりたくてここへ来たんです。皆の役に立ちたくて。あ、あと私、お姫様じゃないですから!」

「……そうなのか」

エリオットは立ち去るハルカを見つめて何かを考え込んだ。





試練の洞窟での授業の日は抜けるような青空で、これから暗い洞窟に入るのはもったいないような陽気だった。午前中はハルカの在籍するクラスが、そして午後からはリフィロやフラムが在籍するクラスが洞窟に挑戦することになっている。身に付けているジャージは長袖長ズボンではあったが、通気性がいいのか強い日差しを浴びても汗をかかずに済んでいた。

(ていうか、この服ってジャージだよね?!なんでこの世界にジャージがあるの?)

ハルカは学園から支給された戦闘用の服を見て思った。中学でも着たし、入学した高校でも着た。この着心地はまさしくジャージだった。この服には防御魔術が施されていて、試練の洞窟に挑む生徒は着用を義務付けられている。

「ハルカ?どうしたの?」

ミリーが不思議そうに言った。

「あ、ううん何でもないよ。今日は頑張ろうね」

(これ、研究機関に渡り人がいるでしょう!絶対!)

思えば、食堂のメニューにも元の世界を思わせるものが多くある。ハルカは確信した。


「そうね。でも私達は見てるだけになりそう……その方がいいけど」

ミリーは、魔物のいる洞窟に行くのが不安なようだ。自身のおさげをいじったり、魔法薬の瓶が数本入っている肩掛け鞄をなでたりしている。

「俺、まだ魔物を切ったことないんだ。ちゃんとできるかな……」

剣士のロイは討伐隊に入るために剣の修業をしてきたが、魔力があることが分かり学園に招待されたのだった。彼もやはり不安が強いようだ。自分の剣の柄をギュッと握りしめている。島から洞窟のある岸まではチームごとに小さな船で向かう。その船上での会話だった。


「以前にも言ったけれど、君たちは後ろに下がって見ていればいい。どうせ僕達三人だけでかたが付くから。最速で突破して見せるさ」

エリオットは三人を案じてなのか、見下しているのかよくわからない言葉をかけてきた。しかし、実際にロイはともかくとして、ハルカとミリーには魔物を倒す術はないので大人しくエリオットの言葉に従うしかない。ハルカは少し悔しかった。どうせなら、フィリアのように浄化の力があったら良かったのにとよく考えていた。戦闘において防御はとても大切だ。それはわかっていたけれど、やっぱり自分で魔物に対抗できた方が身を守ることもできると思っていたからだ。ロイに頼んで剣を持たせてもらったこともある。しかし細身の剣だったのに両手で構えるのが精一杯で、それを振り回すなんて到底無理そうだった。


「何を焦っている?君の力はすごいものだと僕は思う。何もできないところから、ここまで短期間で出来るようになった努力も」

ハルカの様子を気にしてか、エリオットが声を掛けてきた。

「一人でも立てる力が欲しかったんです」

エリオットはハァとため息をつくと続けた。

「同じチームになったんだ、敬称も敬語も要らないと言っただろう。名前も呼び捨てで構わない。……君の国は東の砂原の向こうにあるのだったか」

(本当はもっとずっと遠いところにあるんだけど……)

綺麗な青空を見上げてそんなことを考えつつも、今はもう帰る場所と言えばあの森の古王国が浮かんでくる。

「魔物がたくさんいて、でも守ってもらってばかりで……」


「僕と同じだな。僕の故郷の南方王国は魔物の出現が多い。もちろんそちらとは比べ物にならない程度だろうが。ただ、やはり少なくない被害が出る。数年あるいは数十年ごとに大型魔物の来襲もある」

「大型魔物?」

「ドラゴンよ。私が小さい頃にもたくさん……被害が出たの……」

ハルカの疑問にミリーが答えてくれた。どうやらミリーとエリオット達は同じ王国の出身のようだ。

「そうか、君も同国だったか。その頃は僕も幼くて、何もできずにただ逃げるばかりだった。だが、次はそうはならない。力を身に付けて、被害をなくす!そのために僕たちは皆でそれぞれ、一つ一つできることをすればいい」

「できることを一つ一つ……うん、そうだね」

リフィロのこともあって、早く早くと思っていたハルカの体から少し力が抜けた。ハルカは深く息を吸い、吐き出すとエリオットを見て微笑んだ。

「ありがとう。エリオット」

船はちょうどその時洞窟のある岸辺へ着いた。ハルカとミリー、ロイが先に船を降りる。


「どうしたんですか、エリオット様?なんか顔が赤いですよ」

水魔法で船を操作していたジョセフが声を掛けるが

「いや、何でもない」

と、エリオットは片手で顔を隠して船を降りた。




洞窟の前では沢山の教師達とその他にも、見たことのない魔術師と思われる人たちが待機していた。同じクラスの他のチーム同様、ハルカたちも説明と注意事項を聞いて、非常連絡用の通信鏡を渡された。それは鞄を持っているミリーが持つことになった。そしていよいよ洞窟に入っていく。


洞窟の入り口からはあの匂いがしていた。久しぶりのあの何かが焦げたような匂い。ハルカは久しぶりの感覚に嫌な気持ちがした。たくさんの魔物が閉じ込められているのだ。瘴気の匂いくらいはするだろう。ハルカは何とか自分を納得させようとしたが、ここに入りたくないという気持ちは消えなかった。

(怖い……。けど、できることを一つ、一つ……)


ここまでお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ