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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
31/65

嵐を呼ぶ風 

来ていただいてありがとうございます。

本日二話目の投稿となっております。前話を未読の場合はそちらを先にお読みいただきますようお願いいたします。

よろしくお願いします。

それを見かけたのは偶然だった。ハルカやフラムでもあまり見たことのない柔らかなリフィロの表情だった。だから二人はとても驚いた。図書室の近くの廊下でセシリアと会話していたリフィロが一瞬だけ見せた優し気な表情。その後すぐにいつもの無表情に戻っていたが、ハルカは頭を殴られたような衝撃を受けた。その後ほどなくして広がった二人の婚約の噂をハルカが信じるには十分な光景だった。


調べ物をするからとリフィロは単独行動が増えていたので、ハルカはフラムとココちゃんとフラムの精霊と一緒に木陰で昼食を取っていた。食堂では騒がれることが多いので時間か場所を移すことにしたのだった。

「やっぱり、リフィロはセシリアさんと婚約して、赤の王国へ行っちゃうのかな」

「いやー、それは絶っ対にあり得ないと僕は思う」

フラムはすぐに否定したが、ハルカの心は晴れない。

「我もそれはあり得ないと思うぞ」

ココちゃんも何故か自信満々だ。フラムの山猫精霊もふんふんと頷いている。

「そうかな……」

(変なの。リフィロにはリフィロの考えがあるのに。何かすごくやだな。お兄ちゃんを取られるみたいな感じなのかな……。それに最近何だかリフィロと話せてないし……。もしかして避けられてる?)


ハルカの元気のない様子に、フラムは「んー」と考え込んで

「じゃあ、直接聞こう!」

と、ハルカの手を取って歩き出した。フラムは思い付いたらすぐだった。

「え?」

「うむ、それがいい!」

ココちゃんも賛同した。



「あり得ません。何を言ってるんですか、兄上。冗談じゃない」

リフィロは即、否定の言葉を口にした。不快そうに眉を顰めて。フラムは「ほらね」というようにハルカに笑いかけた。

「だよねー。でもそういう噂が流れてるんだよ実際」

「僕は森の古王国を出るつもりはありません。たとえ最後の一人になっても」

「リフィロは真面目が過ぎるぞ」

ココちゃんは器用にハルカの肩で立ち上がり、前足を組んで言った。反対側の肩でフラムの山猫精霊も同じようなポーズを取っている。リフィロはそれを見て何か言いたそうな顔をしたが、うつむいてしまった。そのことにハルカは胸が痛くなった。

(本当は、セシリアさんと一緒に赤の王国へ行きたいんじゃ……。でも、お兄さんのことで責任を感じてるから……。もしそうなら……)


ハルカも五年前のことは精霊王から聞いていた。巨大な魔物が森を襲ってきたこと。その時第二王子がリフィロを庇ったこと。その時第二王子は亡くなり、精霊王も眠りについたこと。リフィロが兄の代わりになろうと、必死で戦って森を守ろうとしてきたこと。

「私っ、もっと頑張るから!もっとみんなの役に立てるように!だから、リフィロも自分の気持ちを大事にしてね」

それだけ言うと、ハルカはリフィロの前から走り去った。

「「え?」」

リフィロの困惑したような声と、フラムの間の抜けた疑問の声が重なった。


それが限界だった。ハルカはリフィロに幸せでいてほしいと思ったが、胸の痛みが邪魔をして二人を応援すると言うことは出来なかった。

(私、リフィロのこと、好きなんだ。でもたぶん失恋……)

だからせめて、自立して一日も早くリフィロの負担を減らさなければとハルカは心に誓うのだった。


「自分の気持ち……」

リフィロはハルカの言葉を繰り返して呟いた。

(あー、何か誤解が深まったような気がする。けど、これはこれで面白いからまあいっか)

フラムは疲れたように、頭を掻いてため息をついた。



(まあ、あんまりリフィロがグズグズするようなら、僕が貰おうと思ってたしね)

フラムは労わるような、面白がるような視線をリフィロに向けた。


窓の外では急に風が強く吹き、黒い雲が流れてきていた。大きな雨粒がポトリ、ポトリと落ちてきて、やがて前が見えないほどの大雨になった。








大陸西部、湖南方の湖畔の草原にて


「一雨来そうだな。急ぐぞ!」

「ああ、毎年この時期は面倒だよな。低級魔物なんて倒した方が楽なのに捕まえるとか……」

「まあ、そう言うなよ、学生たちの訓練用に必要なんだ。一人でも多く使い物になる魔術師が出てくれないとジリ貧になるのは俺たちだからなぁ」

魔術師たちが出現した魔物を倒すのではなく、弱らせてから魔術道具の檻に捕獲していく。そして、これもまた魔術道具の転移装置で機関へ転送する。

「いっそのこと、東の砂原へ生徒を送り込んだ方が早くないか?」

「無茶言うなよ、俺達だって生きて帰ってこられないかもしれないんだぞ」

「そうそう、それにそんな大勢の人間を転移させる魔術道具なんて無いぞ」

しばらく捕獲を続けると目に見える範囲では魔物は見当たらなくなった。

「しかし、今年は多かったな、この辺の魔物。おかげで移動が少なくて助かるけど」


一人の魔術師が湖を見て、違和感に気が付く。

「あら?こんな花この湖に咲いていたかしら?」

花の形はいつも湖に咲いている白い花に似ている。しかし、全く違うのはその色だ。血のような真っ赤な色をしている。そして花のすぐ下の茎の部分が、異様に膨らんでいた。しかもそこは水面より下にあるので覗き込まないと見えない。見れば、白い花に交ざって湖のあちらこちらに咲いている。彼女はその花を手に取ろうとしたが、何かを思いつき厚手の手袋を装着し、大きなピンセットを取り出してその花を採取した。そして魔物用の檻に入れ、さらに厳重に封印を施して機関へ転送した。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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