アットホームなロイヤルファミリー
来ていただいてありがとうございます
説明多めです
「歓迎するぞ、幼き渡り人よ。
ただ少々困った事に、我が国は滅びに瀕しておるのだよ」
サラッと恐ろしい事を口にしたのは、森の古王国の国王、ライシェール・ベルデヴェンドだった。彼もまたとても美しい男性で、ハルカには顔を合わせることが少ない自分の父親と同年代に見えた。
リフィロとフィリアに連れられて着いた城は、某テーマパークのシンボルのお城のように大きくはなかった。森の中の開けた場所に建てられた、大きな石造りの洋館のように見える。
「またあとでね」
と、フィリアは城の入口で
「少しここで待っていてくれ」
と、リフィロもハルカを応接室へ案内した後でどこかへいなくなってしまった。後から入ってきたメイドのような服を着た女性が香りのよいお茶を入れてくれたが、あまり飲む気になれずそのままソファに座っていた。心細い気持ちでいたハルカにとってはとても長い時間に感じられたが、出されたお茶が冷め始めたころリフィロが戻ってきた。
「ハルカ、父と母と兄が君に会いたいそうだ。いきなりですまないが、もうすぐやって……」
リフィロが言い終わらないうちに、衣擦れの音が聞こえてきてまばゆい人々が入室してきた。ハルカが慌てて立ち上がると、あっという間に囲まれてしまった。
「おおっ、君がそうか」
「まあまあ、かわいらしい方ね」
「黒い髪だ、珍しい」
「父上!母上、兄上もっ。まだ、挨拶も済んでいないでしょう!ハルカが驚いています!」
一斉に話しかけられて、驚いて固まってしまったハルカだったが、リフィロが家族をたしなめた。
「すまんすまん、だが客人というだけでも珍しいのに渡り人とは。つい興奮してしまった」
「まったく……」
リフィロは呆れたようにため息をついた。
先程のメイドの女性が人数分のお茶を準備し、ハルカの冷めてしまったお茶も入れなおしてくれた。テーブルの上には美味しそうな焼き菓子も数種類並べられた。リフィロに父上と呼ばれた男性がハルカの正面に座った。
(父上ってことはこの方が国王様。隣にいらっしゃるのが王妃様。そしてリフィロに似てる方が、リフィロのお兄さん、王子様か。リフィロは私と同い年位に見えるけど、お兄さんは大学生くらい?みんなとってもきれい)
ハルカは自分を囲むようにテーブルに着いた面々をそっと見て考えた。皆、同じように色合いは多少異なるものの金色の髪に白い肌、そして青緑色の瞳をしていた。
「歓迎するぞ。幼き渡り人よ。だが少々困った事に我が国は滅びに瀕しておるのだよ」
さらっと恐ろしいことを口にしたのは、ライシェール·ヴェルデヴェンドと名乗ったこの国の王だった。
この国は森の精霊王と精霊たちに守られた歴史の古い王国だ。王と国民達は精霊を敬い力を借りながら、深い森の中で慎ましく暮らしている。精霊達も人々を受け入れ、愛し守りながら長らく共存してきた。ところが、いつのころからか世界に出現するようになった魔物達の襲撃によって、国土と人口を大きく減少させてしまった。
それでも何とか魔物達を退けてきたが、ある時、強大な力を持つ魔物との戦いによって精霊王が大きくその力を落とし、眠りについてしまう。元々、精霊王は自らの森に望まぬものが侵入しないように結界を張っていたが、その維持を続けることで精いっぱいになってしまった。また、その結界も必ずしも万全とは言えず、時には魔物の侵入を許すこともあった。
魔物は他の魔物を食らったり、人を襲ったりすることで大きな力、体を持つようになることが判明して以来、周囲の魔物が大きく成長する前に倒してしまうことが重要になった。そのために力あるものが森の外へ討伐に出るようになった。もう一度大きな魔物に襲われればどうなるかわからないからだ。ハルカとリフィロ、フィリアが出会ったのはちょうどその討伐の時であった。
魔物は力の弱い精霊たちも襲うことがあるので、彼らはほとんどあの幻の道がある空間からでてこなくなってしまった。そして度重なる魔物の来襲を恐れて、国の南にある港から国を離れた民も多い。国王はそんな人々を咎めることはなかった。そうして、かつては精霊たちの姿があふれていた森は静まり返り、笑い声の絶えなかった人々は魔物の脅威に怯えて暮らすばかりになってしまった。国王は今、全国民の避難の準備も整えているという。
ハルカは城に来る道すがら、人の姿がほとんどなかったことを思い出した。整備された街道に沿って民家や店も見られた。街と呼べるような場所なのにどの家も窓や戸が閉ざされていた。すすめられたお茶を飲みながら、割と絶望的な世界に来てしまったのだなと考えた。
(えっと、この国は魔物のせいで滅びかけていて、それを抑えるために戦っていて、そろそろみんなで脱出しようかと考えている。小説とかなら、転移してきた主人公がすごい能力で戦うとかかな。私にそんな力あるのかな。……お茶、なんか苦い)
王族一家は心からハルカを歓迎してくれているようで、終始にこやかで親切に接してくれた。国王は一通り今の国の状況を説明すると、
「今日は疲れているだろう。大したもてなしもできぬが、部屋を用意させているから、ゆっくり休むといい」
王妃もまた、
「あなたのお話はまた聞かせてね」
優し気に微笑んで言ってくれた。リフィロの兄王子も笑ってうなずく。
「あ、ありがとうございます」
リフィロが立ち上がりハルカを案内してくれた。王族との会話に緊張しっぱなしだったハルカには正直ありがたかった。ハルカのために用意してくれた部屋には着替えも準備されており、城に入る時にリフィロ経由で城の人間に渡されていた紙袋もテーブルの上に置いてあった。リフィロと入れ替わりに先程のメイドの女性がやってきて、軽く湯あみをさせてもらった。食事も部屋に用意されたが、あまり手を付けずにベッドに入ってしまった。
(なんか、ご飯が美味しくなかった。せっかく出してもらったのにもったいなかったな。この世界の食べ物、合わないのかな……。なんだかとってもだるい……。寝て起きたら……なお……るかな…………)
ここまでお読みいただきありがとうございます