玻璃の器
来て下さってありがとうございます。
ハルカはミリーと休み時間に時々話をするようになり、だんだん仲良くなっていった。ミリーは集めた薬草を使って、時々学園の実験室で魔術薬を調合させてもらっているらしく、自分の作った薬をハルカに見せてくれた。それはガラスの小瓶に入っていて、やわらかく光を放っているようでとても美しかった。
「とってもきれい。これは何の薬なの?」
ハルカが小瓶を手に取って尋ねると、
「これは飲むと少し元気になる薬なの。小さめの傷ならすぐに治るのよ」
(ポーション、かな?)
ハルカはそんな風に思いながら、小瓶を日にかざす。そうするとより一層光が増し、綺麗に見えるように感じた。
(瓶、瓶に入った薬。…………あ、)
ハルカは、思い付いてすぐに試してみたくなった。
「ちょっと、ごめんね」
そう言ってミリーと距離を取る。
「練習?」
「うん」
ミリーはその明るい茶色の目を輝かせた。彼女はハルカの魔力を見るのが好きなようだった。ハルカは右手を上に向けて集中する。いつもはただ放出するだけの魔力にイメージを加える。ガラスの小瓶のイメージだ。そうして丸いガラスの瓶に少しずつ少しずつ魔力を溜めていく。そして最後に蓋をするように閉じる。
(できた!)
魔力の球体はハルカの右手の上で美しい白銀の光を放って浮いていた。ただすぐに安定を失ってはじけ飛ぶように割れて霧散していった。
「わあ!今のとっても綺麗だった!ハルカすごい!」
「ありがとう!ミリーのおかげでコツが掴めたよ!さあ、どんどん練習しなくちゃ!」
喜ぶハルカとは対照的にミリーの表情は少し曇った。
「?どうしたの?ミリー」
「うん、ハルカはすごいなぁって。私、最初のころレイティ先生に言われたの。治癒魔術も使えるようになれるって」
「え?え?それってすごいんじゃない?確か治癒魔術が使える人って少ないんでしょう?」
ハルカはレポートを書くために、必死で読み込んだ魔術の教科書の知識を引っ張り出した。攻撃魔術を使う者は数が多いが、治癒魔術は使える者が少ないらしい。ちなみに浄化の魔術はかなり希少で、見つけ次第保護の名目で監視下に置かれるということだ。その記述を読んだ時ハルカは(森の人達ってかなりすごいんじゃ……、それにフィリアって両方使えたよね?こっちに来たら女神様扱いだったりして……)と、えへんと得意そうに胸をはったフィリアを想像してしまい、少し笑ってしまった。
「でも、魔力の出し方が分からなくて……。練習はしてるんだけど」
ミリーは自分の編んだ髪をいじりながら目を伏せた。ミリーの魔術薬は無意識にその効果を付加しているもので、まだまだ制御して強さを変えることはできないようだ。そして、人に対して自分の魔力を使うのは怖いとミリーは言った。
「そっか、じゃあ一緒に練習しよう!私もまだまだだし」
「うん」
「とは言っても、私の力って何ができるのかまだよくわからないんだけどね」
「え?そうなの?でも、確かに普通に火の魔術とか水の魔術っぽくはないよね」
「うん、何となくそうかなっていうのは思い当たるんだけど……」
ハルカは思い出していた。この世界に来た最初の時のことを。琥珀色の砂原で大きな魔物に襲われたのだ。その時白銀の光が自分を守り、死なずに済んだのだ。思えば初めて自分の魔法の発現を見たのは、本当はあの時だったのだと。そして魔術の授業などで得た知識を合わせると、自分の力は「防御魔法」なのではないかと。
「あれはタヌキだねー」
「入学する学生の選別は研究機関で行っている、学園はただ人材の育成をするのみ、か」
リフィロとフラムは学園長との話を振り返っていた。本来なら学園へ来てすぐに問い質したいことがたくさんあった。何故、森の古王国へ招待状を送りつけてきたのか、何故、精霊王の復活を知ったのか、そもそも精霊王が眠りについたことを知っていたのか、そしてどうしてハルカの存在を知っているのか。
しかし、多忙を理由に面会を断られていた。編入初日ですら対応したのは学園の事務員だった。そしてやっと面会が叶ったが、質問の答えは何一つ得られなかったのだ。ならばと機関の上層部に話を聞きたいと申し入れると、それも断られた。というか、機関には魔術の技術の秘密保持のために関係者以外入ることは出来ない。魔術の結界が張ってあるため侵入も出来ないとにっこりと微笑んで釘を刺された。それよりもここでもっと有益な技術を学ばれていかれてはどうかと提案されたのだ。開示できる情報はすべて知ることが出来るのだからと。
「んー、今のところ、できることはハルカの希望の魔法を使えるようになる、を全力でサポートすることだけかなー」
「ハルカのことは全力で守る。ハルカが元の世界に帰れるまで」
「それでいいの?リフィロはさ、ハルカを手放したくないんじゃないの?」
「僕の意思は関係ない。ハルカの望みを叶えたいんだ」
「それなんだけど、ほんとにハルカは帰りたがってるのかな?」
「…………多分」
リフィロは彼には珍しく辛さを顔に表していた。フラムはふっと息を吐き出して笑った。
「なかなかいい傾向だね。お前、小さい頃からあんまり感情を出さなかったから。みんな結構心配してたんだ。それにあんな事があって、もっと酷くなった。いつか心が壊れちゃうんじゃないかってハラハラしてたよ」
フラムの言うあんな事とは、五年前森が巨大な魔物に襲われ、精霊王が眠りに着いた時の事だ。その時第二王子であるフォルアが命を落としている。リフィロを庇う形で。
「あれはさ、リフィロのせいじゃない。分かっているとは思うけど」
「…………」
「そうですわ!フラム様の仰る通りです!」
突然、二人の会話に入ってきたのはセシリアだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。




