魔術薬の少女
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編入初日に魔術(魔法)が使えないとクラスの皆に分かってしまったハルカは,、クラスメイトから遠巻きにされていた。リフィロやフラムとはまた別の理由でだ。貴族の少年少女からは見下したように見られ、一般の生徒達からは変わった者を見るような目で見られているように感じた。リフィロとフラムとはクラスが分かれてしまったので心細いことこの上なかった。
(うう、やっぱりちょっと辛い……。魔法が使えるようになりたい一心で来ちゃったけど、できれば友達も欲しいな)
ハルカはそんな風に思っていたけれど、現実は中々甘くなかった。入学式から遅れること二月程。もう仲の良いグループなどは出来上がっていたのだ。ハルカのクラスは三十名ほどの生徒が在籍しており、貴族と一般の生徒が半々といったところだ。
学園に入学してくる生徒は大きく二種類に分かれる。貴族と王族、そして一般の人々だ。魔力持ちの周辺諸国の貴族や王族たちは、例外もあるが十五歳から入学し、二年間の課程を終えると各々の国へ帰っていく。この学園の卒業生は強い魔力と高い魔術力を持つとされ、祖国では高いステータスとなる。つまり大威張りできるのだ。また、国の垣根を越えて交友が生まれたり縁談が結ばれたりもする。
そして一般の人々にとってはこの学園に入れることは夢のような出世のチャンスであった。各地にいる魔術師たちから推薦を受けて入学して来る者もいるが、大体は強い魔力を持つ者にいつの間にか手紙が届くのだ。その手紙が招待状となる。招待状は宛名の人間以外が持つと数日のうちに内容が消え、ただの白い紙となってしまう。招待状が届くのは大体が十五歳前の子供たちだが、時には後から魔力に目覚めてそれ以降の年齢で入学してくる者もいる。ひとたび能力を見出され入学してしまえば衣食住が保証される。卒業後は各国のお抱えの魔術師団に入ったり、討伐者のギルドに所属して稼いだり、研究機関で専門の研究を続けたりと、将来が約束される。
今、ハルカはクラスで魔物についての基礎知識を学んでいた。討伐するための効果的な攻撃方法の授業だ。ハルカも授業についていけるように、必死で予習をしていた。森の古王国では西側の公用語を教えてもらい、何とか二か月遅れで編入をすることが出来た。魔物はその体の大きさで低級、中級、上級のクラス分けがされており、個体別に対処の仕方が細かく研究されていた。
(すごい。ゲームのモンスター攻略みたい。ちょっと面白いかも)
ハルカが感心していると、開けられた窓から精霊が入ってきた。ハルカが珍しいなと思って見ていると、ふわふわとした光がハルカめがけて飛んできた。どうやら好奇心の強い精霊だったらしく、ハルカが「見える」ことに気づいて興味を持ったようだった。ハルカの周りを飛び回ったり、頭にの乗って髪を引っ張ったりしてきた。こうなると授業に集中できない。だが、ハルカは必死に我慢していた。森とは違って、精霊はほとんどの人には見えないのだ。中には精霊の存在を信じてない人もいるくらいだという。授業中に騒いで変に目立つのも嫌だった。
(どうしよう、そっと捕まえて、やり過ごすしか……)
ハルカがそんなことを考えていると、先に我慢の限界にきたココちゃんがブレスレットから飛び出してきて、一喝した。
「ハルカの邪魔をするでないっ」
ココちゃんは小さな姿をしていても精霊王だ。その圧に驚いた精霊は、ハルカが開いていた教科書にぶつかって飛び去って行った。ハルカはその拍子に教科書を落としてしまい、教師の声だけが響くシンとした教室に大きな音を立ててしまった。
「す、すみません」
ハルカが慌てて立ち上がり教科書を拾うと、教師が目を細めて
「私の授業は退屈ですか?さすがは精霊の国出身ですね。余裕がおありになるようだ」
「そんなことはありません。本当にすみませんでした」
ハルカは素直に深く頭を下げた。その態度に教師はやや驚いたようだった。
「まあいいでしょう。気を付けるように。席に着きなさい」
教師の言葉にほっとして
「はい」
ハルカは席に戻った。授業は何とか無事に終わったが、授業後ハルカは遅れている分の教科書の内容をまとめたレポートの提出を命じられた。期限は一週間後だった。
「すまぬ、ハルカ」
ココちゃんは目に見えてシュンとしていた。
「大丈夫だよ。ココちゃんありがとね」
ハルカが小声で会話していると、三人組の男子生徒がハルカの前に立った。制服ではなく、私服を身に着けている。
「君、ここへ何しに来たの?魔術は使えない、授業の邪魔をする。これじゃとんだ期待外れだよ」
「さっきはごめんなさい。授業の邪魔をするつもりじゃなくて、手が滑ってしまって……」
「教科書も持てないほどひ弱なら、国でおとなしくしてればいいのでは?」
ハルカに向かって話しているのは三人の中の一人、黒にも見えるダークブラウンの髪色の少年だ。後の二人は彼の後ろでニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべているだけだった。印象的な緑色の目ではっきりとした敵意を向けられてハルカは息をのんだが
(これくらいは想定内、想定内、大丈夫、大丈夫!)
「私は、まほ、魔術を使えるようになりたくてここへ来ました。遅れている分は必ず取り戻します。先ほどは本当にすみませんでした」
最後の言葉は教室全体に向かって言って、ハルカは頭を下げ、教室を出た。貴族の生徒達からは白けたような、一般の生徒達からはやや戸惑ったような雰囲気があり教室の中は混沌としていた。
校舎横の木々は湖からの風を受けて優しくさざめいていた。時折、湖に咲いている花のせいか、とてもいい香りがしてくる。ハルカはこの場所がとても気に入っていた。ここへはほとんど人が来ないため、ハルカは休み時間にはここへ来て魔力を放出する練習をしていた。もちろん寮の部屋でも練習するのだが、なるべく早く魔法を使えるようになりたかったからだ。レイティからの指導のおかげで魔力を放出する感覚を掴んだハルカは、今度は魔力の制御に苦労していた。どうにも多くなりすぎる、強くなりすぎるのだ。ココちゃんが抑えてくれるのだが、いつまでたってもそれでは使い物にならないとライアーからも言われていた。
(体の中を巡ってる魔力の流れに集中して、右手に集めて、放出!)
その瞬間、ハルカの右手から大きな魔力が放出された。
(そして留めて、安定させる!)
「きゃあっ」
自分のものではない声に驚いてハルカは集中を切らしてしまった。
「ハルカっ!」
慌ててココちゃんが魔力を押しとどめる。ココちゃんの声に魔力が暴走しそうになってることに気が付いたハルカは、深呼吸して魔力の放出をゆっくり止めていく。そして声のした方を見ると一人の少女が木の後ろで座り込んでいた。周りには彼女が採取していたと思われる植物が散乱していた。
「大丈夫ですか!?ごめんなさい、驚かせちゃって」
ハルカは手を貸して少女を立たせると、落とした植物を拾い集めた。
「はいこれ。制服汚れちゃってないですか?」
ハルカは心配して少女に声を掛けるが、少女はポカンとした表情でハルカを見つめているばかりだった。
「えっと……、大丈夫ですか?」
「……すごい」
少女が小さな声で言った為、聞き取れなかったハルカはもう一度聞こうとして口を開きかけた。
「すごいすごい!すごい綺麗な魔力!こんな魔力見たことない!」
「え?」
少女はハルカと同じクラスで名をミリーと言った。彼女はここで植物を採取していた。薬草から薬を精製するのだという。
「私、住んでた街で薬を作って暮らしてたんですけれど、招待状が届いたんです!もう嬉しくて!学園で勉強して家族のためにも、もっとお金を稼げるようになりたいんです」
どうやら彼女の魔力は彼女の作る薬に作用するらしく、他の薬よりも効果が高く、時にはその他の良い効能が付加されるらしい。
「すごいね!もう仕事してるんだ!それも人の役に立つ素敵な仕事だね!」
ハルカが感心していると、ミリーは再びポカンとした顔になった。
「あ、あの、あなたは貴族の方なのに、私なんかとお話されてていいんですか?」
「え?私は貴族とかじゃないよ!全然違うから。できれば普通に話してほしいの。ハルカって呼んでくれると嬉しい」
(そして友達になってほしいっっ!)
ハルカの心の叫びは届かない。ミリーはやや暗い表情で
「え?でもそれはさすがに……」
と言い淀んでいる。どうやら、学園内でも身分の上下はかなり影響があるようだ。
「じゃ、じゃあ、二人だけの時だけでも」
「それなら……」
(やった!友達できた……?……ちょっと無理やりだけど……)
「うむ!なかなか良い根の娘のようだな。仲良くなれるといいな、ハルカ」
ココちゃんはハルカの肩の上で満足そうにうんうんと頷いている。ハルカも、そっとココちゃんに笑いかけて頷いた。
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