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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
花咲く湖上の研究機関
25/65

普通の美少女

来ていただいてありがとうございます。

 「ですよね……」

ハルカはため息をついた。想像はしていたのだ。でも目の当たりにするとため息しか出ない。

 食堂はどうやら混雑のピーク時間だったようで、たくさんの人でごった返していた。美味しそうな料理のいい匂いがしており、生徒達が友人と、あるいは一人で勉強しながら食事をとっている。

 そしてハルカが食堂の入り口から見渡すと、人だかりができている場所がある。その中心はリフィロとフラムだった。

 森の王国の人々は皆美しい。その中でも王家の人々は群を抜いている。ハルカの認識は西側でも同様だったようで、二人は主に女子生徒に囲まれていた。最初こそ皆遠慮して遠巻きにしていたのだが、ある女子生徒が二人に話しかけたことから、遠慮しなくなってきたようだった。その少女はリフィロの隣に座ってにこやかに二人と話していた。

 「またお二人とお話できるようになって本当に嬉しいですわ。同じクラスになれたのも何かのご縁ですし、また仲良くしてださいましね」

 その少女はセシリアといい、元は森の古王国の出身だ。しかし精霊王が眠りについたことを知るとすぐに母方の親戚を頼って西側の南の王国へ「避難」した貴族の娘だった。森の出身だけあって透明感のある美少女なのだがリフィロやフラム、そしてフィリアを見慣れてしまったハルカには普通の美少女に見えた。

 (いや、あの、普通といってもほんとにすごい美少女なんだよね。プラチナブロンドだし、紫色の瞳だし。でも、なんていうか……)

 ハルカが訳の分からない違和感の正体を考えていたその時、セシリアがリフィロの腕にそっと触れたように見えた。ハルカは胸がギュッと締め付けられるように感じた。

 (なんか嫌だな……)

思わず目を背けて声を掛けられずにいたハルカにリフィロが気が付いた。

 「ハルカっ」

そう言って立ち上がり、ハルカに駆け寄ると腕を掴んで食堂を出た。周囲から不満の声が上がる中、フラムが微笑んで「ごめんね、お嬢さん方、失礼します」と、とても美しい所作で挨拶をしてから後を付いてくる。不満の声が歓声に変わった。

 (わあ、フラム、王子様みたい……!)

ハルカは割と失礼な方向でフラムを見直していた。

 

 「リフィロ?どこ行くの?ご飯食べるんじゃないの?」

 「あそこじゃうるさくて話も出来ない」

どうやらリフィロの機嫌は氷点下だったようだ。眉間のシワが深い。

「後で何か取ってくるよ。ご飯は大事だからねー。今はこれが精いっぱい……」

なんと、フラムはどんな早業かお茶のカップが三つ乗った盆を手にしていた。

 「いつの間に?フラムすごいね」

ハルカは驚いて笑ってしまった。その笑顔を見てリフィロが少し優しい顔になる。三人は食堂の外のテラス席に座った。天気の良い日の朝や昼間であれば生徒や教師たちが食事や休憩のお茶を楽しむことがあるが、闇が迫ったテラス席は人影が無かった。

 「にしても、こっちは平和だねー。魔物がこんなに出ないなんて」

 「平和過ぎておかしくなってるんじゃないのか。うるさくて敵わない」

 「静かだったのは、最初のうちだけだったねー」

フラムは遠い目で虚空を眺め、リフィロは目を閉じて再び眉間のシワを深めている。

 「仕方ないよ。二人ともカッコいいから。女の子たちがほっとかないと思う」

フラムが持ってきてくれたお茶を飲みながらハルカが言う。

 (あ、このお茶ダージリンみたい!ていうかダージリンじゃない?こっちにもあるんだ、紅茶!おばあちゃん好きだったんだよね……)

ハルカはお茶を見つめて驚いていた。だから二人がハルカを見ているのに気付かなかった。

 「…………」

 「もしかしてハルカってこういうの慣れてる?」

フラムが軽く驚いてハルカに尋ねる。

 「こういうの?って学園のこと?慣れてるっていうか、私、ずっと学校に通ってたから。大体こんな感じかなって」

 ハルカの場合、実体験もそうだが読んだ小説やプレイした学園もののゲームの記憶なども入っているので知識は多い。

(そうそう、小説とかだとこの後はリフィロとフラムと仲いい私が嫉妬されて嫌がらせされたりして……地味とかモブとか言われたり……)

嫌なことを思い付いてしまったハルカは少し落ち込んだが、何とか表情には出さずに済んだ。ただでさえ、二人には負担をかけているのだ。これ以上は迷惑を掛けたくなかった。ハルカは学園でのことはなるべく自分で対処すると決めていた。

 「カッコいい男子はやっぱり人気出ると思うよ。リフィロもフラムもカッコいいだけじゃなくて強いし、王子様だし。みんな仲良くなりたいんだと思う」

 「…………」

 「なら、ハルカも気を付けないと、だね」

ここで意味ありげにフラムはリフィロに目をやる。リフィロは少し赤くなった顔で兄を睨んだが特に何も言わなかった。

 「私?私は大丈夫だよ。そんなことナイナイ!」

フラムとリフィロは顔を見合わせたが、お世辞を言ってもらえたと思っているハルカは別のことを考えていた。

 (やっぱり、魔法が使えないといじめられるかなぁ。無能とか、役立たずとか。うう、早くコントロール覚えて役に立てるようにならないと!それにどんな力なのか早く知りたい!フィリアみたいに浄化とかできたらいいなぁ……)

 ハルカがあれこれ考えを巡らせていると、お腹がキュウっと鳴ってしまった。真っ赤になってお腹を押さえるハルカを見て

 「大変だー。早くご飯取って来なきゃ!」

フラムが茶化すように言い、席を立って食堂の方へ歩いて行った。

 「ふっ」

リフィロは握った手を口に当てて、笑いを抑えようとしている。

 「リフィロ……」

 「ご、ごめ、……なんか、……止まんなくて……」

久しぶりのリフィロの笑顔に、申し訳なさがこみあげてきたハルカは小さく「ごめんね、ありがとう」と呟く。

 「?」

 「なんでもないっ。私たちも行こう!フラム一人じゃ大変だから」


 フラムは食事を取ってくると契約精霊を呼び出した。フラムの精霊は翼のある夕焼け色の山猫の姿をしている。服のポケットから出てきたのでそこに契約の証の宝石が入っているようだ。

 「え?ここで精霊さん呼んで大丈夫なの?」

ハルカが慌てて言うが、フラムは平然として

 「ん-、平気でしょ。どうせ見えない人には見えないし」

と言いながら食べ物を分けてやっている。

 「そっか。そうなんだ。そういえば精霊さんてご飯食べるの?」

これにはリフィロが答える。

 「個体差があるよ。そういうのに興味がある精霊と無い精霊がいるから。ただ森には精霊が好む果実もあっただろう?ああいうのは大体の精霊が食べたりもするよ。ちなみに僕の精霊はあまり食べたがらない」

 リフィロは自分の契約精霊を呼び出すと、食べ物を口元へ近づける。すると鳥の姿をした氷の精霊は顔をふいっと背けた。

ハルカは何となくココちゃんのことは人前では隠しておこうと思ってたが、大丈夫そうなので聞いてみた。

 「ココちゃん今までごめんね。ココちゃんはご飯とかいるの?何か食べる?」

 ココちゃんはハルカに話しかけられて姿を現した。

 「む、我は人のように食物を必要とはしない」

 「そっか、食べないんだね」

 「いや、何事も経験だ!食べてみることもやぶさかでないぞ!」

 「食べてみたいんだね」

 「……うむ」

 「じゃあ、はいどうぞ」 

 「…………精霊王様……」

 「精霊王様って愉快な性格だったんだね。意外ー」 

 ココちゃん(精霊王)はハルカから食べさせてもらってなにやらご機嫌だ。リフィロとフラムはその様子をやや呆れたように見ていた。



 星灯りの下、テラス席で仲良く食事をする三人の様子を食堂の窓から見つめる者がいた。セシリアである。彼女は三人を、ハルカをそしてハルカを見るリフィロを見ていた。窓ガラスに映る彼女の表情は、普段周囲に見せるものとは全く正反対の冷たいものだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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