学園
来ていただいてありがとうございます。
昔々、この大きな湖には小さな神様が住んでいました。
神様は水ばかりでは寂しいので湖の上に
白い綺麗な花をたくさん咲かせることにしました。
水の中にはたくさんの魚。水の上にはたくさんの花。
水の中はキラキラ、水の上もキラキラ。
光あふれる美しい世界で
神様はとても機嫌よく毎日毎日泳ぎ回っていました。
童話の冒頭を読みながら、ライアーは隣で遅めの昼食をとっているレイティを見る。
「なあ、この神様って本当にいると思うか?」
「知らないわ。今日はとても忙しいのよ?なぜあなたはのんびりしてるのかしら?それに今日はあの精霊の国から招待生がくるのよ!ああ、楽しみだわ。どんな子たちなのかしら?私初めて見るのよ、精霊魔法って!」
レイティは両手を組んで夢見るように微笑んだ。彼女の薄茶色のウエーブがかった髪と同じ色の瞳が午後の日差しを受けて蜂蜜色に輝いた。そして急に我に返ってスープとサンドイッチをかきこんだ。
「俺はさっさと仕事を終わらせた。今日は午後の授業もない。……ああ、三人だったな」
ここは大陸の西側のほぼ中央。湖の上に浮かぶ島の上にある魔術師たちのための学園だ。彼らは学園を運営する魔術の研究機関に所属する魔術師であり、学園の教師だ。今彼らがいるのは生徒、職員共同の食堂で昼食にはかなり遅い時間なので人影はまばらだ。二人は二十代前半で、生徒といっても通じそうだが、生徒とは違う灰色の教師用の制服を身に着けている。生徒たちは大体が白い制服を着用する。
レイティが食事を再開する横でライアーは頬杖をつき、再び読みかけの本に目を向ける。彼の少し長めの灰色の前髪がその顔に影を落とす。テーブルの上の彼のお茶は手つかずのまま冷めていった。
「…………少しは役に立つといいがな」
ライアーが小さく呟いた声はレイティには届かなかったようで、
「何?何か言った?あ、ご飯食べる時に頬杖をついちゃ駄目よ!お行儀悪いでしょ」
「俺は飯食ってないし……。自分だって食べながら喋ってるだろ……」
「私は口に食べ物を入れた状態で話してません!もう、今日は本当に忙しいんだからー!」
ライアーは屁理屈だとは思ったがレイティには敵う気がしないので渋々姿勢を正した。そして午後の間中レイティの仕事を手伝わされたのだった。
ハルカはその風景にしばらく心を奪われていた。海かと思われるような広い湖に白い花がたくさん咲いている。湖面に光が反射して、風が花を揺らして、反射した光が白い花々に光を与えているようだった。
「きれい……」
ハルカとリフィロ、そしてフラムが一か月ほどの船旅を経てたどり着いたのは大陸の西側中央の港町だった。その町から研究機関そして学園がある島に渡るための橋が架かっている。その橋が島に行くための唯一の手段だ。
「でも、精霊さん達がほとんどいないね……」
「……」
リフィロは船旅の間は時々笑顔も見せていたものの、上陸してからは険しい表情を崩すことがなかった。ハルカは少し心配したが、ハルカに対して怒っているとかではないと分っているので、返事がないことは気にならなかった。ただリフィロがこんなに警戒しているのはハルカのためでもあることを知っていたので心苦しかった。
「ん-、こっちが普通らしいよ。精霊たちが人間の前に姿を現すのは稀らしいから」
フラムはというとこちらは常時フラムのままでいつもの調子だった。歩きながら、国から持ってきた日持ちのする焼き菓子を食べ始めた。
フラムとリフィロは大陸の東側に位置する広大な森の中の王国出身だ。彼らは第六王子と第七王子とういう身分で、精霊と契約し魔法を使う。ハルカは「渡り人」と呼ばれる異世界転移者で、彼らの国そして森に身を寄せている。三人がここにいるのは、魔術の研究機関が運営する学園に編入するためだ。表向きは魔術師と精霊魔法の使い手の交流のため、魔物に対抗するための国境を越えた協力のためだ。しかし本当の目的はハルカのスマートフォンに送られたメッセージの調査だ。ハルカのスマフォはこの世界に来た時に壊れてしまったようで、電源すら入らなかった。ところが最近になってメールが一通届いたのだ。ハルカがメールを見ると
『学園へ来れば真実が分かる』
とだけ書かれていた。一緒に見ていた転生者であるフィリアと顔を見合わせ、すぐに返信をしようとしたがメールは消えてしまい、スマフォも再び電源が入ることが無かった。時を同じくして魔術の研究機関、そして学園から森の古王国へ招待状が届いたのである。怪しむなという方が無理だった。かくして当事者であるハルカとリフィロとフラムが編入することになった。
そしてハルカにはもう一つ目的があった。自分の魔法の力を覚醒させることだ。どうやら、自分にも魔力はあるらしいのだがその使い方が全く分からなかった。森の古王国の周囲には魔物が数多く出現する砂原があり、人々は魔物との戦いを強いられている。それは王族も例外ではなく、むしろ先頭に立って、討伐に出ているのだ。ハルカは自分も役に立ちたかった。無力なら仕方ない。けれど使える力が自分にも眠っているのだ。ハルカは胸の前で拳を握った。
三人は橋を渡り石造りの頑丈な門の前に立った。
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