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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
深い森の古王国
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森の灯り祭り③

来ていただいてありがとうございます。

 祭りは夕方からだと言うのに、ハルカとリフィロが街を歩いているのには理由があった。ハルカに街や森を案内するためだった。途中で、準備が出来ている料理を分けてもらい、軽く昼食を済ませると、リフィロは街中をあちこち案内して回った。学校や雑貨店、金物店、人々の暮らす街を見て回るとハルカは皆から声を掛けられた。「ありがとう」と。その度に笑顔を返すが、心ではやはり自分は特に何もしていない、討伐部の人達の方がよほど頑張っているのに……と申し訳ない気持ちになった。そして自分は容姿も浮いているな、と感じた。自分は黒髪だが、この国の人々は大体金色や淡い色の髪だった。

 それでも、リフィロに案内されて近くの森の中を見せてもらうと、その美しさに心が沸き立った。チキの実のなる木々は秋という季節のためか葉が明るい朱色に色づいており、光に透けて空気まで温めているようだった。また、星の泉と呼ばれた大小の泉が木々の間にぽっかりと空いた場所に点在している場所では、

 「ここは夜になると星が映ってとてもきれいなんだ」

と、リフィロが説明してくれる。ハルカは昼間の今でも、とても美しい景色なのに夜はどんな風になるだろうと、絶対に見に来ようと心に決めた。その他にも精霊が好む実をつける木(不思議と一年中赤い透き通った実をつけ続けるらしい)、子どもたちは入っちゃいけないと教えられる暗闇の洞穴(迷いやすいから。実は貴重な鉱石が採れる)、精霊がたくさん生まれてくる虹色の沢、などなどハルカはリフィロの話を楽しく聞いた。残念ながら時間切れで森のすべてや精霊樹の方までは行くことが出来なかったが、それはまた次の機会にということになった。


 ハルカとリフィロが城の近くまで帰ってくると、もう夕方になっており、お祭りがほとんど始まっていた。というのも明確に開始の合図がある訳ではなく、すでに、そこここで食べたり飲んだり踊ったりが行われ、辺りが楽しい雰囲気に包まれていたのだ。ランタンの魔法の光と精霊石の飾りの光、そして精霊たちのゆらゆらと舞うような光、思い思いに楽器を奏でる人々、あちこちで供される様々な料理、晴れ着姿で手を取り合って踊る人々。そんな光景を見てハルカは思った。

 (あっちのお祭りとはやっぱり違うけど、みんな楽しそう)

 そこへ一人の若者が、リフィロの姿を見て走ってきた。その青年はリフィロに向かって慌てたように、だが小声で言った。

 「すみません、リフィロ様。少し手こずっているみたいで、一緒に来ていただけますか?」

 「わかった。すぐに向かおう」

リフィロはすぐに事態を理解したようで即答した。青年は安堵したように息をついた。

 「ハルカ、すまないが……」

 「魔物が出たんだね」

ハルカもリフィロも小さな声で会話する。祭りの雰囲気を壊したくなかったからだ。

 「ああ、ちょっと行ってくる。すぐに戻るから」

 「……うん。気を付けてね」

ハルカは笑って手を振った。ハルカの返事に少し間があったことが気になったが、リフィロは声を掛けてきた青年と共に討伐に向かった。


 ハルカは果実を絞った飲み物をもらうと祭りのメイン会場の広場から少し離れた木陰のベンチに座った。昼間歩き回ったのでのどが渇いていた。

 (そういえば、リフィロものどが渇いているかも……大丈夫かな)

ハルカは自分だけ安全な場所でのんびりしていることに罪悪感を覚えた。飲み物を脇へ置き、祭りに集まった人々を見るとはなしに見つめる。

 (フィリアも一緒だったら良かったな)

フィリアは祭りの舞い手ということで精進潔斎をするそうで、朝から誰とも会うことが出来なかった。ハルカは少し寂しいと思ったが、祭りの舞い手に選ばれるのはとても名誉なことだとエレに教えてもらっていた。

 (きれい……あ、本当に晴れ着の刺繍って家族ごとにちょっとずつ違うんだ!色も家族でおそろいにしてあるっぽい。発見、発見)

ハルカは祭りに来ている家族連れと思われる人々を見ながらそんなことを思った。

 (精霊石の飾りは色々な色があるみたい……?)

 ハルカはリフィロと一緒に作った精霊石の飾りを見た。首飾りにして付けているその飾りは薄い青色の組紐のような糸で編んだもので中に小さな精霊石が入れてある。ハルカがこの色の糸を選んだ時、リフィロが微妙に顔を赤らめていたが、ハルカは飾りを編むのに没頭してしまったのでそのことは頭の中から消え去ってしまっていた。だからハルカは知らなかった。飾りに使う糸の色は自分の色や家族、好きな人、恋人、パートナーの色を使ったりするということを。ちなみにリフィロの飾りはほぼ黒に近い紺色だった。

 

 太陽がすっかり沈んで暗闇が空の大半を占め始めたころ、祭りの賑わいは最高潮に達しているようだった。あちらこちらで家族や親せき、友人たちと思われる踊りの輪ができており皆楽しそうだった。割と激しめのその踊りをハルカも教えてもらってはいたが、元居た世界の盆踊りにもほとんど参加したことのないハルカには、とても踊りの輪に加わる気持ちにはなれなかった。ただ、ぼんやりと音楽を聞いていた。


 「ふぉれ、ひほりれ、どほひたふぉ?」

 「え?」

ハルカは軽い既視感を覚えて顔を上げた。そこには口いっぱいに焼き菓子を頬張ったフラムが立っていた。手にはたくさんの食べ物を持っている。フラムはこの国の第六王子だ。火の精霊魔法の使い手で契約精霊は山猫の姿をしている。ハルカが立ち上がろうとすると、手で制して自分もハルカの隣に座った。

 「精霊さんはいないんだ……」

ハルカがポソっと呟くと、フラムは口の中のものを飲み込み言った。

 「ああ、いるよ」

フラムはヒューっと口笛を吹くと、どこかからか翼の生えた夕焼け色の山猫が現れた。精霊はフラムの肩に乗るとハルカを見つめてきた。

 「わあっ、かわいいっ」

 「ところでリフィロは?あいつ今日は当番ないはずなのに」

 「えっと、魔物が出て、さっき呼ばれて」

 「そっか、僕に言ってくれたら良かったのに。ま、仕方ないか」

 フラムの髪は全体が淡い夕焼け色をしていて、暗くなってきた風景の中、温かく光っているように見えた。

 (精霊さんと同じ色……きれい……)

思わずハルカが見つめていると、フラムもハルカを見つめてきた。フラムはハルカにぐっと顔を近づけるとハルカの目を覗き込んだ。

 「え?」

ハルカが戸惑っていると、フラムは少し顔を戻して言った。

 「ふーん、不思議な力だね。いいの?そのままで」

そしてそのまま、また木の実を使ったらしい焼き菓子を食べ始めた。

 「あ、あのどういうことでしょうか、フラム様」

 「んー?あ、フラムで良いよ。敬語もいらない。言ったまま。そのまま精霊王様に力吸い取られるだけでいいの?結構強そうな力なのに。自分で力使えた方が楽しくない?」

フラムは山猫精霊にお菓子を分けてやりながら、ハルカにもひとつ渡してきた。ハルカはつい受け取ってしまい、慌ててお礼を言った。

 「あ、ありがとうご……ありがとう」

 「ん。美味しいよそれ。ステラルばあちゃんの自慢のやつだから」

 (あれ?向こうにも似たようなのがあったような……)

ハルカはもらったお菓子をかじりながらそんなことを考えた。しばらく二人と一体(?)でお菓子を食べる。

 「あの、私、自分に力があるってまだ良く分からなくて……。使うとかってどうしたらいいのか全然で……」

 「分からない……、あーそうか。ハルカは渡り人だったね。みんな普通に魔法使えるようになるんだよね。力の強い弱いはあるけど」

 「そうなんだ……」

ハルカは少しがっかりした。ハルカも魔法を使って見たかった。もうひとつ言うなら、魔物討伐の手伝いをして見たかった。フィリアやリフィロが危ない目にあっているのに、自分はここにいるだけなのはなんだか居心地が悪かった。

 「あー、ごめんごめん。んー、そうじゃなくて……。落ち込ませるつもりじゃなくて……。そう、楽しく生きられると良いよねって話」

 「?楽しく?」

 「ん。この国、てか森だけでも面白いものいっぱいあるでしょ?でもちょっと危ない世界でもある。守られてるだけじゃ、動きづらい。この国は精霊王様に守られてる。そして精霊王様は君に助けられてる。僕は君に感謝してる。だから君を助けたい。協力するよ、君の望みに」

フラムの肩の上で山猫の精霊がウンウンと頷いている。

 「私の望み……」

 「と、そろそろ当直だから、僕は行くね。あ、これもオススメ」

そう言うとフラムはハルカにもう一つ別の菓子を手渡して、ヒラヒラと手を振って歩き去っていった。

 



 (私の望むこと……私は、どうしたらいいんだろう、これから、この世界で)

ハルカは自分のいる場所が、そこだけが切り離されて別の光で照らされているように感じていた。  




ここまでお読みいただきありがとうございます。

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