森の灯り祭り②
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その日は朝から良い天気で、少し冷たい空気が森を覆っていた。城の前の広場では、ハルカが起きる前から人々が集まり祭りの準備を行っていた。祭りでふるまわれる料理の良い匂いがしており、子どもたちの歓声や走り回る音が聞こえてきた。
ハルカは晴れ着を着るのをエレに手伝ってもらった。そしてリフィロと一緒に作った精霊石の飾りを身に付けた。ちなみにハルカは王妃の若い頃より少し背が低かった為、丈を短くしてもらった。王妃の晴れ着は極薄い空色で、ほぼ白に近かった。王妃の実家に代々伝わる紋の刺繍がしてあった。とても美しい服で、初めて見た時ハルカはどこかの民族衣装みたいだと思った。お祭りの喧騒と相まって、ハルカのテンションも上がっていった。
「とてもお似合いですよ」
エレはハルカの髪を念入りにとかして、晴れ着と同じ色の髪飾りを着けてくれた。
「ありがとうございます。エレさんはこれから着替えるの?」
「うーん、私は今日は裏方に回ります」
「え?そうなんですか?残念です……」
「お祭りの躍りはちょっと激しいから、身重の私には危ないのです」
「え?赤ちゃん?わあっ、おめでとうございます」
「うふふ、ありがとうございます。ハルカ様のお陰で、安心して子育てできそうです」
「そんなことは……」
何とエレは結婚しており、子を宿していることが判明した。ハルカはとても驚いたがとても嬉しいことだと思った。
そうこうしていると扉がノックされ、リフィロが入ってきた。
「ああ、着替え終わっ……」
「?リフィロ?どうしたの?」
「ふふっ、ハルカ様お綺麗ですよねえ」
「……あ、ああ」
「あ、ありがとう。リフィロもカッコいいね」
リフィロは男性用の晴れ着を身に付けていた。リフィロの服はハルカのよりもやや青みの強い色でハルカには分からなかったが王家の紋様が刺繍されている。ハルカはなんだかお揃いみたいで少し気恥ずかしかった。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
ハルカはリフィロといっしょに街へ出た。
実際に祭りが始まるのは夕方からなのだが、昼頃には街の中はもうお祭りムード一色だった。軒先や森の木々にもランタンが吊るされ、花やさまざまな飾りがあちこちに飾られていた。精霊達も今日はどことなく楽しそうに飛んでるようにハルカには感じられた。人々は晴れ着に着替えて談笑したり、精霊の好む果実などを準備したりと、とても楽しそうだった。中にはお酒を酌み交わす老人達もいて、リフィロが「早いな」と少し呆れていた。
「ふぉお、ふぇっほうひあふぇんふぃあん」
「?」
突然かけられた意味不明な声にハルカとリフィロが振り向くと、串焼きの肉を口いっぱい頬張ったクローがいた。手には食べ物をたくさん持っている。クローはこの国の第五王子であり風の精霊魔法の使い手だ。今日は祭りだからだろうか、頭に契約精霊である蜻蛉の姿をした精霊を乗せている。ただ、彼は祭りの晴れ着を着てはなかった。精霊はクローからほいっと赤い果実のようなものを受け取るとクローの頭につかまりながら器用に食べていた。
「兄上、食べるか話すかどちらかにしてください」
「悪い、悪い。俺はこれから見張りだから、ちょっと先に腹ごしらえしててさ。」
「見張りですか?」
「ああ、祭りの間も交代でな」
ハルカの問いに、口の中の食べ物を飲み込んで次はどれを食べようかと手に持った食べ物を見ながらクローは答えた。
「大変なんですね。なんか、私、何も出来なくてごめんなさい」
「何言ってんだよ。ハルカが精霊様と契約してくれたから、こうやって祭りまで出来てるんじゃないか。変なやつだな」
クローは小さな揚げ菓子を口にほおりこんで続けた。
「そういや、俺はハルカに謝らないとだな」
「?」
「最初は、渡り人なんて胡散臭いって思ってたから。悪かったな。ごめん」
クローは深々と頭を下げた。王族がそんなに簡単に頭を下げていいのかとハルカは慌てて止めた。
「やめてくださいっ。胡散臭いって言うか、怪しく思って当たり前だと思います」
「ふーん、良い奴だな、ハルカって」
頭を上げてハルカをじっと見つめてクローはニッと笑った。と、同時に蜻蛉の精霊もニッと笑った、ように見えた。
(え?精霊さんが笑った?気のせい?)
「んじゃ、俺そろそろ行くわ。あ、さっきも言ったけどソレけっこう似合ってるな」
言いながら、クローは手を振って走り去っていった。途中で声を掛けられ、食べ物の調理中の女性から何かを受け取り
「ありがとなー」
とお礼を言いつつ笑っていた。どうやらクローは王族の中でも特に気さくな人柄で、国民に人気があるようだ。
「ごめんハルカ、なんか慌ただしくて。クロー兄上はいつもあんな感じなんだ」
リフィロはため息をついた。
「ううん。ちょっと驚いたけど、風みたいな人だね。精霊さんも綺麗だったな」
ハルカの返事に、リフィロは安心したように微かに笑った。
「それじゃ、行こう」
「うん」
二人はまた歩き始めた。
「笑った……」
「うん、笑ってた」
「なんて珍しい……」
「あの、リフィロ様が……」
ハルカとリフィロが立ち去った後、周りで三人の様子を見ていた人々が口々に言いあっていたことを、二人は知る由もなかった。
「あの方が、渡り人の……」
ハルカは精霊王を目覚めさせた人として、すでに皆に知れ渡っていたが、また、別の偉業でも噂されることとなった。
「リフィロ様の氷も溶かしちゃったんだな」
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