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深い森の古王国  作者: ゆきあさ
深い森の古王国
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森の灯り祭り① 

来ていただいてありがとうございます。

 「お祭りがあるの?」

 「ああ、ずっとやれていなかったけど精霊王様がお目覚めになったし、ちょうどその時期だし、お祝いを兼ねてね」

 

 ハルカは今、リフィロからこの国の文字を教わっていた。ハルカが二週間ほどの眠りから目が覚めた後、国王の執務室に呼ばれて国王と王妃、第一王子を除く王子達に感謝を伝えられた。ハルカは自分は特になにもしていないと恐縮していると、国王は何か望むものはないかと尋ねてきた。断わりづらい雰囲気にハルカは困ったが、ひとつだけ咄嗟に思い付いて、文字を教えて欲しいとお願いしたのだ。国王と王妃は顔を見合せたが、国王はすぐに微笑んでリフィロに向かって言った。

 「では、リフィロ頼めるか?」

 「はい。承知いたしました。おまかせください」

国王はその返事を聞くとハルカに再び言った。

 「ただし、これはお礼にはならないからね。また改めて望むものを考えておくれ」

 「え?でも、……」

ハルカが戸惑っていると、

 「まあまあ、今日のところはもういいでしょう?さあみんなでお茶にしましょう」

王妃がにこやかに合図すると、部屋の扉が開かれハルカはお茶やお菓子が準備された応接室に通された。そしてハルカは前に王妃が言った通りに、主に王妃から質問責めにされたのだった。




 森の灯り祭り

毎年秋から冬に移る季節に、森と精霊に感謝して行うお祭り。各家では精霊にお供え物をしたり、玄関口に魔法の光を入れたランタンを吊り下げる。そして人々は晴れ着を着て精霊石を使った小さな飾りを身に付ける。そして夜中まで食べたり飲んだり、踊ったり歌ったりする。その年毎に選ばれた舞い手が精霊王に舞いを捧げ、精霊王が祝福の言葉をかける。その後人々がランタンの灯りを空に上げて幕を閉じる。

 

 ハルカはリフィロが持ってきてくれた本の中の記述を読んだ。ゆっくりではあったが確実に読めるようになってきた。

 「今年の舞い手はフィリアだ。今先代についてもらって特訓中だ」

 ハルカは納得した。ここ二日程フィリアが顔を見せないからだ。それまでは討伐に出ても必ず日に一度はハルカに会いに来てくれていたのに。

 「先代の舞い手はとても厳しい人で、今、フィリアは朝から晩まで一日中つきっきりで指導されている」

リフィロのひきつった表情を見て、ハルカも大変な事態なのだと思った。

 「そ、そのお祭りっていつなの?」

 「三日後の新月の日だよ。ハルカも僕と一緒に飾りを作ろう」

 「けっこう急なんだね」

 「そうなの!とっても急なのよ。だからわたくしの若い時の晴れ着をお貸しするわね」

 いきなり声が割り込んだ。二人が驚いて声の方へ向くと、開けられていた扉から王妃が入って来るところだった。

 「ああ、いいのよ。そのままで」

 礼をとろうとした二人を制して、王妃は二人が座っていたテーブルの近くの椅子に腰掛けた。

 「うふふ、仲良しでいいわね」

 「は、母上!ハルカの晴れ着とは?」

 「そうそう、ほら、急にお祭りの開催が決まったでしょう?新しく仕立てる時間もないし、わたくしのおさがりで悪いのだけれど、今回はそれを着てね」

王妃はポンと手を打って、とても嬉しそうに言った。

 「晴れ着ですか?」

ハルカが不思議そうに尋ねると、

 「さっき読んだ本にも書いてあったけど、お祭り用の衣装だよ。普段着るものとは違って、上質な生地で仕立ててあるんだ」

 「それに、特別な刺繍もしてあって、各家ごとに模様が違ったりするの。とても綺麗なのよ。来年はハルカさん用のを仕立てましょうね。楽しみだわ」

 「そうですね。来年はもっとたくさんの国民が戻って来ているでしょうから、以前のように盛大にお祭りができるでしょう」

 精霊王が目覚めた後、避難していた国民達が少しずつ戻ってきているようだった。他国に避難民の受け入れを要請に行っている第一王子も、もうすぐ戻って来るという。王妃もリフィロもとても嬉しそうでなんだかハルカも楽しみになってきた。

 (晴れ着って、夏祭りの浴衣みたいなものかな?盆踊りとか、屋台とか、なんだか懐かしいな。……あれ?ここに来てまだそんなに経ってないのに、懐かしいって……変なの)

 「ハルカ?どうかしたか?」

考え込んでいたハルカを心配して、リフィロが尋ねた。

 「あ、ううん、何でもないの」

ハルカは自分にもよく分からない感情にとらわれかけて、なんだかモヤモヤしたが、安心させるように笑った。

 「そうか、なら今日は勉強はここまでにしよう」

 「はい。先生、ありがとうございました」

ハルカがお辞儀をしながら言うと、リフィロは困ったように笑った。

 「だから、先生はやめようよ……」

 「ううん。先生は先生だから!おばあちゃんにケジメは大事って教わったの」

 そんな二人のやりとりを微笑ましそうに眺めていた王妃はそっと立ち上がると

 「では、少しハルカさんを借りるわねリフィロ。晴れ着を試着してもらいたいの」

そう言ってハルカを連れてにこやかに去っていった。

 一方一人部屋に残されたリフィロは

 (借りるって、別にハルカは僕のって訳では……)

などど、表情には出さないが内心少し焦っていた。





 その夜遅く、城内某所にて

 

 「これで、免許皆伝よ。よく頑張ったわね」

息を切らして、二十代後半位の長身の女性が額に浮かんだ汗を手で拭いながら言った。

 「し、師匠っ。ありがとうございましたっ」

感激したように、やはり息を切らして、こちらは滝のような汗と目には涙まで浮かべてフィリアが言う。

 お祭りの舞い手は、大体十代後半から二十代前半の女性の中から選ばれる。代々、前の年の舞い手がその年の舞い手に振り付けを教えることになっていた。フィリアの師匠は数年前に舞い手であった人で、途絶えてしまわないように一人で修練を積んできたのだった。


 「ふっ、飲みこみが早かったわ。本番が楽しみね。存分に舞いなさい。フィリア٠シロン!」

 「はいっ。精一杯努めさせていただきますっ」

師匠と呼ばれた女性と両手両膝をついていたフィリアは見つめあい、ガシッっと両手を握りあった。二人の汗が精霊石の光に反射してキラキラ光り、とても美しかった。

 

 フィリアを心配して様子を見に来たクレネスは、声を掛けることなくそっとその場を立ち去った。

 

 

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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