記憶
来ていただいてありがとうございます。
穴が開いているのだ。この世界には。
いつの頃からか、気が付いた時には。
一粒の砂が入ってきた。後から後から次々に砂が入り込んで来る。そして最初の魔物がやって来た。魔物と呼び始めたのはいつからか。一体、二体、三体……。あっという間にそれらは増えていく。やがて我の森を脅かすようになった。
異変はそれだけにとどまらなかった。砂や魔物には我らにとって毒となりうるもの、邪気や瘴気と呼ばれるものが付いてきた。もしくは砂や魔物がそれらでつくられているのかもしれない。我は森を、同胞達を、我らを慕う人間達を守るために結界を張った。だが、汚れた気はこの世界の大気から力を奪っていく。我の源となる力も少しずつ削ぎ落とされていく。我の元に集っていた大精霊達は我に力を与えるため、一人また一人と我に同化していった。
そして、あの時が来た。あの巨大な魔物。結界を破り、我が友フォルアを奪い去っていった。我にはわずかな力しか残っていない。精霊達、人の長である国王には伝えた。
「森を出るように」
と。この大陸のほぼ中央を南北に走る険しい山脈。その西側の魔術王国へ。あるいは南方の島国へ。海や山脈に隔てられて、瘴気や邪気、魔物の影響を受けづらい場所へ。そうして我は眠りについた。
夢をみていた。結界を張りながら。弱まっていく力を感じながら。
(ああ、このまま終わるのか……)
そして「彼女」がやって来た。突然この世界に現れた、清浄な気を纏う少女。「森陽花」ハルカは不思議な力を持っていた。まるで太古の昔、大気が力で満ちていた頃の気を持っていた。それどころか、瘴気を取り込んで清浄な気に、力ある気に換えることができる能力。稀有な力。ハルカがここに来たことは正に運命だった。我は少女に手を伸ばした。
豊かな緑。年を重ねた木々が並ぶ森の中にひときわ大きな木があった。
「おおきいきだね。おばあちゃん!」
「そうね。これはご神木なの。」
「ごしんぼく?」
「そう、ご神木。ずっと、ずっと昔からここで見守ってくださっているのよ。ここには龍神様がいらっしゃるの。きっと陽花ちゃんのことも見守ってくださるわ」
「りゅうじんさま?」
「さあ、ごあいさつしたら、帰って朝ごはんにしましょうね」
「うんっ」
陽花は大きな木と厳かなお社、祖母の温かな笑顔、その後ろの青空に真っ白な龍の姿を見ていた。陽花の心には恐怖は無く、あったかいような優しく包まれているような心地がしていた。
毎朝、祖母とともに近所にある神社に散歩に行くのが幼い陽花の楽しみだった。陽花は祖母に手を引かれて祖母の家に帰る。
「またあしたね」
お社と大きな木と白い龍に手をふって。
ここまでお読みいただきありがとうございます。




