それぞれの戦い ハルカ
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三話目です
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息が苦しい。足が重い。一歩踏み出す度に何か大きな塊を押し退けているようだ。
(何でこんなに苦しいの?ただ歩いてるだけなのに……)
目の前には真っ暗な世界に無数の淡い大小の光が浮かぶ。数体の精霊がハルカの周りを飛び回っているが、ハルカにはそれに目をやる余裕もない。ただ、細く長く前方に伸びる光る蔓を恨めしげに見つめる。そしてとうとう足が止まってしまった。ハルカはその場に座り込んで荒い呼吸を繰り返した。
(もう少しで着くと思ったのに……。頑張るって言ったのにぜんぜんダメじゃない私……。
苦しいよ、おばあちゃん。中学校の持久走より。もっと頑張っておけば良かったかな……。このままここで死んでしまったら、おばあちゃんのとこに行ける?それとも異世界だとダメ?)
ハルカの脳裏に数ヵ月前の祖母の葬儀の様が浮かぶ。皆が真っ黒な喪服の中、棺に眠る祖母の白い顔が忘れられなかった。忙しい両親の代わりにずっとそばにいてくれた祖母が病に倒れた時、ハルカは毎日病院へ通った。ハルカが顔を見せると祖母はとても喜んで話を聞いてくれた。でもハルカには、日々衰えていく姿を見守ることしかできなかった。
(なにも、何もできなかった……おばあちゃん……)
ハルカの目に涙が滲む。
「口惜しい……」
その時、微かな声と共に映像が浮かんだ。
「我の愛するものを奪おうとする……何故……」
王国の皆がクレネスや王子達が、フィリアがリフィロが魔物と戦っている。もうみんなボロボロだ。森を守る光の膜のようなものが所々薄くなっていっているように見える。
ハルカは息を深く吸い込むと、立ち上がってまた足を動かし始めた。嫌になるくらいにその歩みは遅い。ハルカは重い腕を必死で伸ばした。淡く光る蔓を掴むと、手繰りながら前へ前へ進んだ。
(みんな死んじゃうかもしれない。そんなの嫌だ。私、また何もできない。そんなの絶対に嫌だ!)
どのくらい歩いただろうか、知らず瞑っていた目を開けると、そこにはまたあの夢の中の白い空間が広がっていた。ただ、以前とは異なり、見上げるほどの大きな木がはらはらと葉を散らしていた。その木の根元にもたれかかるように眠る精霊王の姿があった。彼はゆっくりと目を開いた。
「ハルカ、よく来てくれた。そなたは我との契約を望むか?」
「……!それでみんなが助かるなら!」
「約束はできぬ。だが、我は愛するものたちを守りたい。我からこれ以上奪うことは許さない。」
「うん。私ももう誰かがいなくなるのは嫌だ」
精霊王はハルカにそっと手を伸ばす。ハルカはその手を取った。その瞬間、まばゆい光が迸り契約が結ばれた。
「私の力が役に立つなら使って」
「我はそなたを守ろう、我の全力を持って」
(そういえばこの世界も空は空色だ)
ハルカは空に浮かんでいた。足の下には大きな木、そして美しい森が広がっている。ハルカの後ろ側には海も見える。大きな湖だろうか?
「皆、よくぞ耐えた!」
自分とは違う高らかな声が響いた。
(ん?声が変)
喉に手を当てようとするが体が動かない。腕を組んだまま、空に立っている。
(……なんか偉そう)
「偉そうとは何だ!我は本当に偉いのだ。王なのだから」
(ええと、精霊王様、だよね?どこにいるの?)
「何を言っておる!そなたに取り憑いておるのだ!」
(ええっ!嫌だ!何で!?)
「だから、嫌とか言うな!そなたは力の使い方が分かっておらぬゆえ、今はこれしか無かったのだ。体は楽になっておるだろう?」
(あっ、そういえば……ぜんぜん苦しくない)
ハルカがこの世界に来てからの体の不調はきれいに消えていた。
「そなたの力、使わせてもらっておる。とても素晴らしい!力が漲ってくる!」
(それなんか悪役のセリフみたい)
「大変失礼だっ。結界も強化したのだぞっ」
(あ、ほんとだ。すごい。ピカピカだ)
見れば、結界の光が強まっている。魔物が結界にふれることもできずに跳ね返されている。力の弱い魔物などは消し飛んでいく。精霊王はふふんと得意気だ。ただし偉そうなのも涙目になるのも、得意気な表情をするのも全てハルカの顔である。なんだか一人芝居をしているようだった。
「ほう!フィリアはどうやら何段階か上の力を手に入れたようだな!良し良し。」
見れば、フィリアの周りには魔物の姿が無く、琥珀の砂原の上に白い光がキラキラとダイヤモンドダストのように散っていた。当のフィリアはクレネスに抱き抱えられている。
(フィリア!大丈夫なの?)
ハルカは不安になるが、
「気を失っているだけだろう」
という精霊王の言葉にホッとした。
(良かった……。あっリフィロは?)
「問題無しだ!あそこにいる。ほうほう、これはこれは!精霊合体か!なかなかやるな!」
(リフィロ!良かった!無事みたい。……ん?精霊合体って……?)
ハルカはロボットアニメを思い出す。見たことは無いが知識はあった。
「契約精霊に他の精霊たちが力を貸したのだ。」
(じゃああの大きな鳥はリフィロの精霊さんなんだ)
ハルカが安心したり、感心したりしていると、精霊王が表情をひきしめた。
「さて、もう好きにはさせぬぞ。返してもらう」
精霊王は更なる力を振るった。
「うおお、しまった!ついやりすぎた。ハルカッ、大丈夫かっ?ハルカッハルカッ…………」
結界の周囲に残っていた魔物は一掃され、ハルカの意識は暗闇に落ちていった。
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