それぞれの戦い リフィロ
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五年前、森を魔物が襲った。四つ首を持つ巨大な蛇の姿をした強い魔物が結界を破ろうとしたのだ。王妃は結界の魔法使いであったので、老人や子どもといった戦う力のない民が城へ急ぎ避難した。
当時十歳になろうとしていたリフィロはまだ一人で魔法を使うことを許されていなかった。しかし、彼はずっと独力で魔法の修行を行っていた。彼には契約精霊を持たずとも兄王子達に並ぶほどの才能があった。王族として、みんなを守りたいという思いも強かった。だから避難のために城に子供達や老人達が集められた時、姿の見えない友達を探しに王妃の結界の外へ出てしまった。足を挫いて動けなくなっていた友達を森の外れで見つけたが、結界の中に侵入した魔物に見つかってしまった。
その時助けに入ったのが、第二王子フォルアだった。彼は雷を扱うことのできる魔法使いで、戦闘能力も当時の王国では随一だった。その彼と森の精霊王の力を合わせてやっと魔物は倒したのだが、代償は大きかった。フォルアは命を落とし、精霊王は大きく力を失って眠りについた。
リフィロのせいではないだろう。精霊王ですら一人では及ばないほどの敵だったのだ。けれど彼の心には自責が生まれた。
(僕だって戦えると思ってた。でも体がすくんで何もできなかった。兄上が死んだのは僕のせいだ……)
それからのリフィロはただひたすらに魔法の修行に明け暮れた。自力で幻の道へ行き、精霊と契約した。誰よりも討伐に出て魔物を倒した。
(僕がやらなければ。森を皆を守るんだ。兄上の代わりに。たとえ命を落としたとしても)
その頃からリフィロはあまり笑わなくなった。家族の誰もが彼の心を解そうとしたが、叶わなかった。
幻の道を抜けるとそこには見たことの無い光景が広がっていた。無数の魔物達が結界を破ろうと群がっているのだ。
「何だこれは……」
リフィロや森の古王国の経験では、魔物が集団で動くという事例は過去に無かった。時には同じ種族同士が少数の群れをつくることはあったが、こんなに多種多様な魔物が同じ行動を取ることは無かった。
「まるで同じ意思で動いてるみたいだ」
その時、リフィロの思考を妨げるように結界が揺らいだ。リフィロの契約精霊の氷の鳥も慌てたように周りを飛び回る。
「っ、とにかく今は魔物を倒さなくては」
リフィロは魔力を高めて氷の刃を放った。
「キリがないっ」
リフィロは焦っていた。倒しても倒しても魔物が集まってくるのだ。疲労も蓄積している。
「兄上達や討伐部の皆と合流した方がいいか……」
今のところ、リフィロがいる場所には手に負えない魔物は現れていない。だが、浄化するものがいなければ不安だった。その時、すうっとリフィロの背に悪寒が走る。一匹の魔物がこちらを見ている。その魔物は大きなミミズのような姿をしていた。魔物はキヒイイイと神経にさわるような声をあげた。
「……っ」
思わず耳を手で塞ぐ。琥珀の砂の中から何匹もの同種と思われる魔物が飛び出してきた。次の瞬間それらはひとかたまりに集まって、毒々しい光を放つ。変化はあっという間で、リフィロの前には大きな二つ首の蛇が現れていた。蛇の魔物は周囲の魔物も取り込んでいった。
「あ、」
リフィロの体は縛り付けられたように動けない。魔物は四つの目でリフィロを見下ろすと襲いかかってきた。リフィロの契約精霊が氷のブレスを放ち、魔物を怯ませ、翼でリフィロの顔を打った。
「痛っ」
瞬間、精霊と目が合う。その目は怒っているようだった。
「ごめん。ありがとう」
リフィロは魔物から距離を取りながら魔力を高める。
(今度こそ、僕が守るんだ!)
魔力は徐々に高まる。魔物がさせじと襲いかかるが、リフィロは足元の砂原を凍りつかせ、滑るように距離を取る。魔物は氷の上ではやや動きが鈍るようだった。魔物がイライラしたようにしっぽを打ち付けた。リフィロは更に魔力を高める。ちなみに異なる魔法を同時に発動することは、誰にでも出来ることではない。
(死んでもいいと思ってた。むしろ森を守って死ぬべきだと。でも、死んだら妹が悲しむ……)
ハルカの泣き顔が浮かぶ。向かってくる魔物に氷の刃を放つ。
(ハルカだけじゃない。父上、母上、兄上達、みんなも……)
「だから、僕は生きて戦い続けるっ。力を貸してくれ!」
リフィロの魔力がかつてない程高まったその時、
「ピーリロロロロロ……」
精霊の高く澄んだ声が響いた。どこからともなくたくさんの淡い光が集まりリフィロの精霊を包んだ。氷の鳥は大きく成長し、リフィロの背を守り力を重ねる。その姿はまるでリフィロに大きな大きな翼が生えたようにも見えた。
「止まれ。……そして還れ」
リフィロが胸の前で一度合わせた両手を魔物に向ける。リフィロの髪が、瞳が青白く発光する。魔力の奔流が魔物に向かい、その体を完全に氷結させた。完全に凍りついた魔物は粉々に砕け散って消えていった。
「……っ!ハッ、ハアッ!」
琥珀の砂原はリフィロの周囲で凍り付いていた。今までに使ったことのない大きな力だった。氷の上で片膝をついたリフィロの前に大きく成長した氷の精霊鳥がそっと降り立った。
「リ、フィロ」
「……え?今、喋ったのは君か?」
氷の精霊鳥がこくりとうなずく。
「驚いたな……これはどういうことなんだ」
精霊鳥は小首をかしげる。その様を見て、ふうっと細く息を吐いたリフィロは
「今はとにかくみんなと合流するのが先か。できれば他の魔物も倒しておきたいが、きついかな」
やっと立ち上がったリフィロは結界の方を見た。
「え?」
結界に群がってた魔物達が弾き飛ばされ、消えていく。
「皆、よくぞ耐えた!」
高らかな声が響いた。 遥かな空の上に見知った姿があった。
「ハルカ?」
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