ああ、これは夢だから
「起きてください……目を覚ましてください」
覚醒しきっていない意識の中で微かに誰かの声が聞こえる。
「うぅ……もう朝かよ」
俺はまだ上手くあかない目をこすりながら、体を起こした。
「朝ではありません。よく状況を確認してください」
「ふあぁ…朝じゃないならまだ起こさないでくれよ。あれ? ……母ちゃんじゃない?」
なかなか起きてこない俺を心配した母ちゃんが起こしに来てくれたのかと思ったが、声のしたほうを見ると、派手な服を着た美少女と目が合った。
「目は覚めましたか? ようこそ神界へ。あなたは勇者に選ばれたのです。世界を救う英雄ですよ」
女の子が何か言っているような気がしたが、俺の耳にはまったく入ってこなかった。
寝起きでただでさえ頭が働いていないというのに、追い打ちをかけるかの如くわけのわからない女の子が目の前に?
一体どうなっているんだ? 俺はさっきまでいつも通り寝ていたはずだろ?
「もしもーし、聞こえていますか? 無視されるのは悲しいですよ」
「あ、ごめんなさい」
つい反射的に謝ってしまった。無視はよくないよな……いやいや、そんなこと言ってる考えてる場合じゃないだろ。ひとまず落ち着け俺。ここは深呼吸だ。
「すうぅーーー、はあぁぁーーー。よし」
深呼吸の効果か、頭にいつもの冴えが戻ってきた。
周囲を見ると、見覚えのある俺の部屋とは全く異なっており、どちらが上か下かもわからない不思議な空間がどこまでも広がっていた。
「少しは状況が把握できましたか?」
「ここはどこなんですか? あなたは一体誰ですか?」
現在俺がわかっていることといえばここが俺の部屋じゃないことくらいだ。それで何が把握できるって言いうんだよ。
「うーん、最初の質問ですが、ほんの何十秒か前に説明しましたよ。ここは神界です。とはいっても私たち神が住んでいる場所とは少し違う場所にはなりますね。いわばここは神界の入口です」
「神界? 神? 冗談だろ?」
「失礼ですね。戸惑うのも無理はないでしょうが、私は実に121の世界を管理する女神ですよ。あなたが今まで生活していた地球も私が管理しているのですからね」
「目が覚めたら、そこは神様が住んでる世界でしたって? ちょっと待ってくれ。突拍子がなさすぎるだろ。信じろっていうのは流石に無理だ」
話の展開についていけないとかそんな話ではない。今までごく普通の高校生として生きてきた俺にこんな話いくら何でもキャパオーバーだ。夢ですら見ないぞ、こんな………あ、そうかこれは夢だ。当然じゃないか、こんなことが現実に起こりえるわけないんだから。なんだよ、マジで焦っちゃったな。夢だと自覚できる夢ってなんだか珍しいもんだ。そうとわかればここは俺の頭の中の世界というわけだから何をやっても許されるってことか。
「何か証拠を見せてあげたいところですが、生憎ここでは私の力は使えません。ですので、これまでの話はひとまず信じていただいて本題に入りたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
この子最初から思ってたんだけど、とんでもない美少女だな。
どうせ夢だし、ちょっと抱きついてみたりしてもいいんじゃないか? いや悩む必要もないか。
俺は正面から女の子に抱きついた。
やけにリアルな感触で現実では女の子に触れた機会なんて体育祭のフォークダンスくらいの俺にしてはなかなかの再現だ。
すごく柔らかくて気持ちいい。これは夢が覚めても当分は忘れなさそうだ。
「え? きゃぁぁーーーー!!!! なにしてるんですかーー!!」
バチーーーーン
「ぐはっ」
女の子の悲鳴と同時に飛んできた平手打ちに俺はぶっ飛ばされた。
「前代未聞ですよ。女神である私になんてことを……」
イッテェ、おかしいさっきの感触といいこの痛みといいあまりにもリアルすぎる。女の子の顔を見ると少し赤くなって半泣きなのだが。
もしかしてこれ夢じゃない?
「すいませんでしたーー!! てっきり夢かと思って、せっかくならとつい魔が差してしまいました!!」
謝ることしかできず、誠意を見せるために俺は渾身の土下座で許しを乞うことにした。
「何度も説明してる通りここは神界で私は女神です。これは信じてもらえないと話が進みません」
「申し訳ありません。今この瞬間からすべて信じさせていただきます」
「少し腑に落ちませんが、信じてもらえて何よりです。もうそれはやめてください、そんな大勢では話ができませんから。あ、次はないですよ」
笑顔で言われると迫力がすごいな。これ次はマジで殺されそうだ。それくらいのオーラを感じる。
俺は女神さまの言う通り立ち上がった。
「それで俺が勇者っていうのはどういうことでしょうか」
「はい。安藤 正貴さん。あなたは私が管理してる世界の一つを救う勇者に選ばれたのです。厳正な審査の上で選ばれたのですから、ぜひ頑張ってくださいね」
「ええええぇぇぇぇーーーーー!!!!」
勇者っていうから何事かと思っていたら、どうやらとんでもないことに巻き込まれてしまったみたいだ。




