ワーミーでもシーカーでもどっちでもいいです
私たちは居間に腰を下ろし、輪になってスープを食べます。
「うめえ、うめえ! おかわり!」
手伝いもしないのにガツガツとスープをむさぼり、あまつさえお代わりを要求するこの恥知らずな男の人はディラン。仲間内で最も体格がよろしく、また年長者でもあるようです。私が注いだお代わりをぺろりと平らげると、意地汚い目を隣のお皿へと向けます。
「おい、エイブ! いらねえんなら俺が食っちまうぞ!」
ディランの隣で、この私が血を流してまで作った料理に手を付けずに魔導書を読み込んでいる失礼極まりない男の子が、エイブ。丸々と太っていて、何かに夢中になると他のことは目に入らなくなってしまう癖があります。頬が腫れていないところを見るに、プレシオーサに起こされる前から起きていたのでしょう。仲間内では比較的小食な方ですが、どうやって脂肪を蓄えているのか不思議でなりません。
「この島の反対側にさ、森があるんだよ。後で連れて行ってやるよ、メル」
「ごめーん。私いっぱい用事があるからパース」
「用事って何だよ?」
「えー何だろ。お花に水やりとか?」
エスメラルダに肩を寄せ、必死に逢引きに誘っているこの細い人はビート。彼女と話しながらも目は大きな胸にくぎ付けになっているのを見れば分かる通り、はっきりと仲間を卑しい目で見ています。率先して雑用を手伝ってくれるのはありがたいのですが、あまりにも下心が丸出しなので女子からは嫌われています。私も苦手です。
「チェッ、なんだよ。じゃあルージュ、一緒にどう?」
「え、わ、私ですか?」
突然水を向けられたものですから、危うくスープをこぼしてしまうところでした。
「この子は踊りの練習があるからダメ」と、プレシオーサが助け舟を出してくれました。
「あ、そう」
「あの子は暇みたいよ」
仲間たちの輪から外れ、一人でつまらなそうにスープを食べている女性を匙で差し、プレシオーサは言いました。
彼女はゼムフィーラ。占いが得意で、都市の各地でテントを使って占いをやっています。長い前髪を垂らし、野暮ったいローブを身にまとった前時代の魔術師のような恰好をしています。好きで着ているのなら何も言うことはないですが、そうではないなら今すぐにやめた方がいいと思います。困ったことにプレシオーサとは犬猿の仲で、いつも喧嘩ばかりしています。
「いや、ザラは……」
慌ててビートが否定の言葉を口にしようとしますが、
「なぁに、ビート」
と、ゼムフィーラがこちらを向きます。「私とデートしたいのぉ~?」
口元を緩ませ、クスクスと笑いました。
「い、いや……え? 一緒に行くか? マジ?」
予期せぬ反応に、ビートは期待で顔を明るくしました。
「ど~ぉして私がアンタなんかとデートしなくちゃいけないのぉ~? アンタ、一体何様なのぉ? 私の貴重な時間をわざわざ割いてあげるほど大物なのかしらぁ? 自分の姿、鏡で見たことあるぅ~? 今すぐ見て来て教えてくれな~い? 私にはアンタの魅力がさ~っぱり分かんないんだけどぉ。ちょっとぉ、いつまでこっち見てんのぉ? あっち向きなさいよぉ。あ~、気持ち悪ぅ~い!」
ゼムフィーラは執拗にビートを攻撃したあげく、あざ笑いました。心底彼を見下していると言っているようなものです。あまりにもひどい……。
哀れビートは口をパクパクとし、「そこまで言わなくてもいいじゃん……」と、呟くしかありませんでした。さすがに可哀想に思ったのか、エスメラルダが慰めてあげました。
「まだ足りないよなぁ。あと一つ二つ増やすべきだ」
「いやいや、これ以上は絶対バレちまうって。供給止められるのがオチさ」
「そこだよ。偽装を混ぜてさ、特定不可能にすれば奴らはどうするかな? 都市全体を停魔させたりすんじゃないか?」
「アハハ、そりゃ面白い!」
不穏なことを言っているこの眼鏡の人は、リーダーのクーバート。悪いこと、ろくでもないことを考えるのはいつもこの人です。仲間内でも強い魔力を持っているそうですが、特に慕われているということはなく、むしろぞんざいに扱われているところを何度か見かけました。
彼の隣で相槌を打っている人はシーク。良き声をしています。一団のまとめ役で、何かあればみんな彼に相談します。当然慕われてもいて、むしろこの人の方がリーダーにふさわしいのではと私のような部外者は思ってしまうのです。
二人は幼馴染らしく、いつも影のように一緒にいます。極悪コンビとはこの人たちのことを言うのです。
彼らはワーミーです。
そう、異教徒の代表格のあのワーミー。
アギオス教信者が接するのは厳禁で、仲良くしては破門されてしまうあのワーミーです。
そのワーミーと、オブライエン家の娘たる私がなぜ共同生活を送っているのか。誤解されては困るのですが、私は好き好んでこの状況に陥ったわけではないのです。強制的に、これはもう誘拐と呼んでも差支えはないと言えます。他人の所有物を気にせずに「拾った」と言って拝借してしまうのがワーミーですが、私もまた彼らに拾われてしまったのです。
彼らと生活を送るうち、これまでは噂程度にしか知り得なかったワーミーの実態を私は知ることができました。
私たちはワーミーと呼んでいますが、彼らは自分たちのことを「シーカー」と呼んでいます。
魔法の修行と称して放浪し、各地で悪行三昧に浸っているというのが一般的なワーミー評ですが、彼らは修行ではなく、この世の真理を探求し、世界の全てを知るために旅をしているのだそうです。そして万物の理解を深められれば深められるほど私たちカルムに住む者たちにも恩恵があるのだから、そのために自分たちに協力するのは当然のこと、物を借りたくらいで怒るんじゃねえというのが彼らの主張です。盗んだのではなく、あくまでも借りているつもりなのです。まるで稚児の屁理屈。文化が違えば、これほどまでに倫理観も異なるものなのですね。
ワーミーたちは大半が隠者達の隠れ里、「魔法郷」の出身者で構成されています。アギオス教を信仰してはいませんが、かといって特定の宗教を信じているわけではないようです。したがって、異教徒というのは我々の誤解なのでしょう。彼らが信奉するのはマギアトピアの魔法体系のみで、きっとこれをカルム人は教信だと勘違いしているのだと思われます。私には魔法の知識はございませんから、あくまでも一つの推論程度にとどめておいていただければ幸いです。
私たちカルムの人間は、古くからワーミーを弾圧して参りました。物を盗む彼らに対する戒めはもちろんですが、はるかに進んだ魔術を持つ彼らに対しての恐れがそのような形をとってしまったのでしょう。
ワーミーたちはこのカルムにおいて、生まれながらに平和喪失の宣言を受けています。要するに、救いがないということです。誰でも彼らを罰することができるし、場合によっては殺害してしまっても罪に問われることはありません。見つけ次第に殺しましょう――あなたが敬虔な信徒であるのなら。もっとも、ワーミーに対してそのような凶行に出る者は今ではほとんどいませんけれど。
ワーミーの優れた魔術は権力者にとっては喉から手が出るほどに魅力的なものなのです。彼らが領内に現れようものなら、お金に糸目をつけずに身柄の確保に動きます。そうして多額の報酬を条件に領内で魔法の研究をさせるのですが、定住を嫌うワーミーたちはお金だけ頂いてすぐに去ってしまいます。そもそも捕まること自体がめったにないことですから、その出没情報だけでもかなりの金銭が動くと言われています。聞くところによれば、ハニカム商会にもワーミーを捕獲するためだけの商兵団が存在するのだとか。
今現在、カルムで「魔法都市」として名をはせる都市たちは、そのほとんどが過去に定住したワーミーの力を借りて造られています。聖人の奇跡によるといわれる聖地創造も、恐らくは彼らの力を借りたのでしょう。
一説には百年以上も進んでいると言われているワーミーの魔法。たったの三日ですけれど、私も間近で浴びるほどに眺めて参りました。それまでの魔法に対する常識というものを根底から覆すほどの衝撃が、私を襲いました。魔法に明るくない私でさえこうなのですから、魔術師たちにとっては……語るまでもありません。




