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聖週間の少女たち  作者: 雲丹深淵
第二章 シュナの大火
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大火

 団員たちに見送られ、私は舞台に戻った。


 帰って来た。

 私はこの舞台の上に帰って来たんだ。


 誰も望んでいないことなのは分かってる。私さえ、望んでなんかいなかった。


 でも、私は今、ここに立っている。邪魔する者なんて誰もいない。観客たちの姿はもう目に入らない。王女も、貴族も、ヘクトルも、その母親も。この場においては、もうどうでもいいことなんだ。


 だって、私はミラだから。

 私こそが、ミラだから。



 ほうっと息を吐き、目をつむる。

 心の中の火が激しく燃える。


 胸に手を当て、私はゲブラーのもとへと歩く。


「ああ、今日は何て憂鬱な日なのでしょう。誰よりも嫌いなゲブラーにまた助けられてしまったなんて! 末代までの恥とはこのことです!」


「まったく、なんと可愛げのない女だろう! 目を涙で腫らし、地面に膝をつき礼を述べるのが筋だろうに。あんな女と夫婦になる男にオレは今から同情を禁じ得ない。王国に転がる死者の数だけ心の底から同情を送りたい!」


 私とゲブラーは舞台上で睨み合う。


「あなたのことが大嫌い。金輪際、私に話しかけてこないで」


「こちらのセリフだ、死にたがり。貴様を見ると気が滅入る」


「まあ、何と酷いことを!」


「貴様が先に言ったんだろう」


 喧嘩しながらも、二人は一緒に舞台袖に去って行く。



「ハハ、落ちついているな」


 観客からは見えない袖で、ゲブラーは言った。


「誰に言っているのかしら」と、私は答える。


「すっかりミラだ」


「あら。私は私よ、最初から」


 そう言うと、私は一人で舞台に戻った。



 荒涼な大地。風に巻き上げられた砂埃が目に入る。生きる者のいない死の世界。まさにミラの心みたい。独白の場にはふさわしい。


「ああ……」


 私は胸に手を当て、左手を空に向ける。


「私は禍を呼ぶ。昔からずっとそうだった。私がいると喜びは嘆きに、祝いは呪いに、幸福は破滅に。世界から色が消えて行く。呪われた子は嫌われて、迫害されて殺される。そういう風に決まってる。でも私は生き延びた。誰かが命がけで護ってくれた。それが母親であれば、私は嬉しい。生まれてきてよかったのだと思えるから」


 ミラの頭の中には死ぬこと以外ない。そんな悲しい子だ。生きていても仕方がないと思っている。人を不幸にしてしまうから。自分のせいで傷つく人たちをこれ以上見たくないから。だから死ななければならない。そんなある種の自己犠牲的な精神から来る自殺願望を抱えている。なんと健気で、哀れな子なんだろう……。


 なんて。

 本当は違うんでしょ、ミラ?


 みんなは騙されてるけど、私には分かってるよ。


 本当は……未来に絶望してるだけなんでしょ? 自分のような子が大人になっても何かになれるなんて思えないから。それなのに、これ以上辛い思いをしてまで生きていくのが面倒だから死にたいだけなんでしょ? 私には分かるよ。自分を虐める周囲の事なんか気にするわけないもんね。むしろみんな傷つけばいいんだ。呪われてしまえばいいんだって思うよね。


 アテナには分からないだろうなぁ。自分に絶望できるなんて、多分知らないんじゃないかな。



 死を望むミラをゲブラーは何度でも救う。ミラはゲブラーを憎み、ゲブラーはミラを嫌う。反発し合う二人だけれど、やがてはそれが転じて……。この第二幕では後の十聖人と呼ばれる者たちが集結し、ゲブラーとミラは恋仲となる。ゲブラーの武勇がこれでもかと語られる第四幕と並び、人気のある幕だ。



 心の火は燃えている。


 一瞬一瞬がまるで永遠のように感じた。私の中のミラは、言葉を発するたび、挙動のたびに大きくなっていく。もう止まらない。伸ばした指の先まで私はミラだ。舞台の上で生きる私を、素晴らしい魔法の数々が引き立たせてくれる。観客たちの興奮が心を熱した。今この場こそが、私の全部。そうだ、これこそが私が生きている理由。


 ああ、また始まった。


 私がどんどん大きくなっていく錯覚――。

 汗や空気の震え、観客たちの拍手にまで私は入り込んでいる。

 この劇場の全てが、もはや私の中にある。

 それが分かった。


 どうして私はここを離れてしまったのだろう?

 遠回りをしてしまったのだろう?

 こんなに素晴らしい世界を私は知っていたのに……。

 こんなに凄い世界が私のために開かれていたのに!

 誰に何を言われても、嫌われても、死ぬ気でとどまっているべきだった!

 人のことなんてもう知らない!

 自分の望むままでいい!

 私はここにいたい!

 いなくちゃいけない!!


 今この瞬間こそが、私のいるべき世界なんだ! 



 大火はあらゆる物を飲み込んでいく。

 もう誰にも止められない。



 劇は終盤。

 ケテル一行に最大の受難が訪れる。


 ミラが呪われし少女であるという事実が広まる。ケテルは呪われた少女を利用し、各地に災いをもたらしている。それを自ら解決してみせ、さも奇跡のように嘯いているのだと事実無根の噂が広がり、一行は迫害を受けることになる。

 しかしそれで彼らがミラを責めることはない。むしろより優しく、彼女を精一杯の愛情で包み込む。それがミラには辛かった。


「私のせいだ。全部、全部、私のせい……。私のせいでケテル様が、みんなが、彼が酷い目に遭ってしまう……。嫌だ。これ以上、大切な人たちが傷つくのを見たくない……。そうだ……。やっと来たんだ。みんなのためにこの命を使える機会が……! 死ぬには良い日が、やっと来たんだ!」


 私は自らケテル様のもとを離れる。


 そして、捕らえられてしまう。

 大衆の面前に引きずり出され、磔にされる。ケテル様たちをおびき寄せる罠だ。遠き山々の尾根を越え、月がその姿を見せるまでにケテル様が現れなければ、私は焼き殺される。


 日が沈む。処刑の刻限が迫る。


「ケテル様は来ません。あなたたちの思惑通りにはならない。彼らには為すべきことがある。それは私一人の犠牲など及ばないほどに大切な使命なのです」


 私は大衆に向け、叫んだ。


「あなたたちの誰にも分からないでしょう! 私は今、嬉しいのです! 私の生がどれだけの苦痛と共にあったのか。あなた方は想像すらできないでしょう! 私は死を抱擁します! これでもう誰も不幸にすることもない! 誰も傷つくこともない! この世の不幸を私が背負い、炎と共に消えて行きます!」


 そして、月が昇った。


「ああ、さようならこの世界! 私のせいで汚してしまってごめんなさい! でもそれも今宵でおしまい。明日からは素晴らしい日が待っているはずだから……」



 それでもやっぱり。

 彼はやって来てしまう。



 火が上がる。

 周囲からは、悲鳴、悲鳴、悲鳴。

 赤い仮面を被ったその人は、無数の兵隊を蹴散らし、処刑場へと近づいて来る。


 激しい戦いが始まった。


 舞台上を幻影の兵たちが埋め尽くす。舞台袖からも人が現れ、赤く輝く剣をゲブラーめがけて振り回す。爆発が起きた。「死ねぇ!」、「危なっ!」、「誰か止めろぉ!」、なんという熱演だろう。本気で殺そうとしているみたい。


 もはや、どれが現実で、どれが虚構かも分からない。辺りには霧が漂う。

 炎が走り、爆発が起き、無数の剣が宙を飛び交い、床を突き破って木々が生える。

 眩い光が辺りを包んだ。

 その直後、どたどたと走る音がしたかと思うと、後には何も聞こえなくなった。



 悲壮な音楽が流れ、誰の心にも注がれていく。


 千人斬りを終えたゲブラーは、足を引きずりながら近づいて来る。駆け寄ろうとするが、鎖が伸び切り、膝を突いてしまう。それでも一秒でも早く近づこうと、腕を伸ばした。ゲブラーは私に手を伸ばす――も、目前で態勢を崩してしまう。剣を支えに膝を突き、首を垂れるゲブラーに私の手は届かない。


 広場は死者たちの生み出す沈黙が充満していた。


「どうして私を放っておいてくれなかったの、ゲブラー。あなたの全身は灼かれたように赤い。あなたを朱に染め上げるこの血よりも、私は尊いと言うの? いいえ、違う! 断じて違う! この血の一滴と、私の血は等価であるはず。私は今日、命を失うべきだった……」


 ゲブラーは何も言わない。

 仮面の下から、ジッと私を見つめている。


 ふと、違和感に気づいた。

 何だろう……この人。さっきまでと何か――。


 ああ、そういうこと……。


 思わず笑ってしまいそうになる。



 いいよ、やろうぜ。手加減しないよ。



 私は手で顔を覆うと、震える声で言った。


「私を殺して、ゲブラー。私はもう、生きていたくない。これから一生、地面を這いずり回ることしかできない人間で……。生きていたって楽しくないから……」


 ゲブラーは立ち上がり、私を鎖から解放した。


「お前がいない世界こそ、俺には不幸そのものだ」と、彼は言う。「お前を失えば、俺はもう――」



「あなたに何が分かるの!」


 私は癇癪を爆発させた。

 心の抑えが効かなかった。まずい。これでは全てが台無しに――。


 いや、もういい。もうそれでいい。

 私の火はさらに勢いを増して燃え続けている。

 ならば。


 いっそのこと、焼き尽くしてやれ!


「分からないの? あなたがいると、私は辛いの! あなたには分からない! 同じ人間が、同じ子供が! どうしてこんなに違うの? あなたばかり、どうして与えられるの? あなたが望めば手に入らない物はない! お金も、名声も、愛情も! 人から殺されそうになったことある? 死ぬほどに殴られたことある? どうしてあなただけが……。私だって、あなたよりも上手にできることはある! なのに……どうしてあなただけが褒められるの? どうしてみんな私をちゃんと見てくれないの?」


 私は髪をかき乱し、額を地面につける。そして、「ぁあああああっ!」と叫んだ。


「別れたくなかった! 聖人様たちとだって、本当は別れたくなかったの! ずっと彼らのもとにいたかった! 楽しかったから! あそこだけが、私に本当の楽しさを教えてくれたから! 生まれてきて良かったって心の底から思えたの! でも、仕方ないじゃない! 壊しちゃったんだもん! 呪いが! どうしようもなかったんだもん! これ以上迷惑かけられないから……出て行ったの! せっかく諦めてたのに! なのに……どうして来たの? どうして私を影の中から連れ戻したの!? まだ分からないの? 私たちは一緒にいちゃいけないんだよ! だって、私はずっとあなたのことが大嫌いだったから!」


 ゲブラーは明らかに虚を突かれたみたいだった。仮面のせいで顔は見えないが、きっと目を丸くしていることだろう。それでも、すぐに対応した。


「そんなこと……今さら言われるまでもない。俺たちはずっと嫌い合って――」


「大っ嫌いだったの!」


 私は叫ぶと、ゲブラーを指した。


「恨まなかった日があると思う? 憎まなかった日があると思う? 私はいつだって辛い思いをしてるのに……あなたはいつも笑ってて! 平気で手を差し伸べようとする! それがどんなに惨めなことか、分からないでしょう? 何度殴ってしまおうと思ったか……。助けてだなんて、誰が言った? ねえ、どうして? 生まれた場所が違うから……? あなたの方が綺麗な顔をしているから? 同じ人間なのに、どうして私だけがこんなに辛い目に遭わなければならないの? 死にたいなんて思わなくちゃいけないの? どうしてよ!」


 世界は静まり返っていた。誰もが次の言葉を待っているのだと、分かった。


 ゲブラーは一瞬うつむいたものの、スッと顔を上げ、私を見る。何かを覚悟したように。


「言わせておけば……」


 そう言うと、ゲブラーは一歩足を踏み出す。


「このわがまま女。いつもそうだ。お前は心の内まで人を踏み入れさせない! 他人の優しさで勝手に傷つき、目を離せばいつも深い闇の底に沈み込む! お前が苦しむその呪い、分かち合えるものならいつだって分かち合いたかった! だがお前はそれを拒絶する! 俺から見えないようにして、一人で苦しむ! かっこいいつもりだったのか? だったら悪い、俺には馬鹿にしか見えなかった! 笑って手を差し伸べようとする? そんなの当たり前のことだろう! 誰だってそうする! それなのにずっと嫌いだっただと? 俺のセリフだこの死にたがり!」


 ゲブラーは私の肩を掴むと、グッと顔を寄せて来た。


「初めてお前と会った時……こんな哀れな人間が存在するのかと思ったよ。教育も受けられず、口の利き方も知らず、粗暴で、愚かで、みっともない。本当の歓びを知ることもなく、小さな喜びを絶対な物だと錯覚し、何も知らない内に死に至るようなつまらない人生を送るのだろうと」


「なんと酷いことを……」


「だから、俺が救ってやらなければならないと……そう思った! お前をまともな人間にしてやろう、と……」


 私は肩に置かれたゲブラーの手を払いのけ、立ち上がる。


「そんなこと思ってたくせに、よくも平気な顔で私と接することができたものね! 呪いも知らない恵まれた人間が! 救ってやる? あなたは傲慢なのよ! 根本では人を見下し、自分の価値観を押し付ける! それがあなたの本質よ!」


 ゲブラーの肩が一瞬震えた。


「私に庇護を与える優しい自分に酔っているだけじゃないの? 自分がいかに恵まれているかを確認するために私を傍に置いていたんじゃないの? 私のことを本当に友達として見たことがあるの? 口では何だって言えるわ!」


 私はゲブラーの胸を強く押す。

 ゲブラーは後ろによろめいた。足に力が入っていないのか、膝から崩れそうになる。しかし、何とか態勢を立て直すと、私を見据える。


「そうだ……傲慢こそがこの俺だ。お前を自分のために利用していた。俺の心には……ぽっかりと大きな穴がある。お前を傍に置けば、その穴が埋まると思った。だから、お前を変える必要があった。俺にふさわしい人物に……。呪いに苦しむお前の姿を哀れに思い、歓びに浸らせて苦痛を取り除こうともした。そうすればお前の哀れが和らぐと信じて。だが、結局は余計にお前を苦しませてしまった。そしてお前は俺の前から去った。自分の愚かしさは自分で一番分かってる」


「苦しかった! とても苦しかったわ!」


 私は叫んだ。声で相手をぶん殴れると信じて。それは声を張るというよりは、もはや絶叫に近かった。


「あなたと過ごした時間は、蜜でもあり、毒だったのよ! 一瞬の幸福が何倍の呪いとなって私の身体を蝕んだ! あなたともういられないと……思ってしまった……! あなたの傍にいると、自分まで立派な人になれたような気がした……! 呪いを忘れることもできた……! まともな人間になれると、期待してしまった……! でも、そんなわけなかったの。私の幸せを呪いは許さない。私の呪いを人々は許さない。この残酷な世界の中で、私は何にもなれない……。どこにも行けない……。そんなこと、とっくに分かっていたはずなのに……。もう嫌なの……自分に絶望するのは……!」


 私はがくりと膝を突く。 


「幸せになりたかった……!」 

 絞り出すように、そう言った。「私だけじゃない……。みんなにも……母にだって……幸せになってほしかったのに……。私がみんなの邪魔をする……みんなが私の邪魔をする……。だからもう、生きていたくない――」



 肩を強く掴まれた。


「大丈夫だから、ミラ……。全部、大丈夫……!」


 ゲブラーはそう言うと、自分の胸を叩いた。


「お前の呪いなど、俺が全て受け入れてやる。そうすればお前にも分かるさ。何も大したことじゃないんだと! どこかに行くんだ。誰も知らないどこかに、二人で! そこで幸せになろう、二人で……!」


 ゲブラーの声は、震えていた。まるで涙を堪えているかのように。感情の爆発のようだった。


「あふっ……」


 嗚咽を漏らす。

 私は口元を押さえ、涙に濡れた目をゲブラーに向ける。

 ゲブラーは私を掴んでいた手を放し、一歩後退した。


「どうして……? こんなに憎み合っているのに……どうして私は……こんなにも……。いえ、分かってる。もう分かってしまった……。ゲブラー……あなたは私に違う世界を見せてくれた人で……。生きていてもいいんだって、教えてくれた人……。初めて私を好きって言ってくれた人……だから……。どんなに救われたか……。あなたが傍にいてくれて……どんなに……。嫌いだけど、憎んでいるけど……その何倍も……私はあなたが……あなたのことが――」


 私は片目を瞬いた。瞬間、ゲブラーは私を抱き締めた。とても強く。体が壊れてしまうくらい。


「お前がいない世界こそ、俺には不幸だ」

 静かに、ゲブラーは言う。「お前を失えば、俺はもう生きてはいけない。血塗られた俺とともに、温かな血を流してほしい」


「ずっと言いたかったことがある」


 私は仮面を見つめる。その奥にある目をしっかり見据え、言った。「あなたのことが大好き」


 ゲブラーは答える。「知ってるよ」



 はい、終わり~。


 第二幕はこれにて終幕。


 いやー、よかったよかった。

 本当にどうなることかと思ったぁ。

 いぇい、いぇーい。

 ピース、ピース。


 観客たちの割れんばかりの拍手が心地よかった。私はゲブラーと一緒に拍手に応えようとした。


 その時だった。

 ゲブラーは仮面を上げ、口元を露わにした。


 そして。


 私と唇を合わせた。


 咄嗟の事だったので、反応できなかった。抱き締める力が強くなる。息ができない……。


 拍手がやんだ。観客たちは戸惑っているようだった。それ以上に私の方が戸惑っているけれど。とにかく、劇を台無しにするわけにはいかない。これも演出だと思わさなければ。終盤に散々アドリブをぶち込んで、もはや原形を留めていないので、これだって受け入れてもらえるはずだ……。



 やがて、ゲブラーは私から離れる。


 その直後、花火が舞い上がった。

 今度こそ、本当に終幕。それを察したのか、劇場は爆発のごとき歓声に包まれた。役者たちが集まって来て、拍手に応える。


 驚いたことに、観客たちの目は全部私に向いているようだった。一体何事かと戸惑う私の背中を、団員たちが押した。私が前に出ると、さらに大きな拍手が起きる。私は何度も何度も頭を下げ、拍手に応えた。


 ようやく、理解した。


 彼らは私の演技を絶賛してくれているのだ。

 私が素晴らしかったと言ってくれているのだ。

 私は人々に感動を与えることができたのだ。


 そう、あの日のコーデリア様のミラのように!


 振り返ってゲブラーを見る。これは私だけの評価じゃない。ゲブラーがいたからこそ、私は自分の全てを出すことができた。ゲブラーも一緒に受けるべきだ……。しかし、舞台上のどこにもゲブラーの姿はなかった。


 いつの間にか、赤い仮面は姿を消していた。


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