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聖週間の少女たち  作者: 雲丹深淵
第四章 モモの審問
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二代目を追え!

 ドアを蹴破り、廊下へと飛び出す。相当の数の教戒師が来ているらしく、爆発の音は絶え間なく続いていた。塔全体が揺れ、天井の一部が落下を始めた。

 僕は一気に階段を駆け下りる。途中、扉から商兵たちが飛び出してくるが、問答無用で殴り飛ばす。倒れない者とは無理に戦わず、すり抜けた。


 すぐに二代目の背中が見えた。ぐんぐんと追いつき、その後ろ襟を掴もうとした――その瞬間。視界の端から鋭い一閃が僕を襲った。咄嗟に身を引き、何とかかわした。二代目が刀を構えていた。壁にかけられているものだろう。


「せいっ!」、二代目は刀を振るう。従士をしていただけあって、その剣筋はなかなかだった。僕の反撃が届かない絶妙な距離を保った深い打ち込み、動きを先読みした攻撃軌道は、がむしゃらに剣を振った時期が無ければできないことだろう。

 だが、僕の敵ではない。二代目の攻撃に合わせ、防御を無視して蹴りを放つ。刀は肩に当たったが、刃は立っていない。僕の蹴りをかわすのに必死で、攻撃を途中でやめてしまったからだ。


「ひぃっ!」

 二代目は情けない声を上げ、壁にもたれかかった。刀も床に落としてしまい、丸腰になる。


 確かに当たったと思ったが……。よく避けれたものだ。二代目の片目は赤い発光を続けている。ただ大聖堂に画を送っているだけと思っていたが、その眼は僕の動きを追っていたように見える。教戒師の眼が動体視力の補完をしているのかもしれない。


「お前はまだ何かを隠している。全部話してもらうぞ」


「そんなこと言われましてもねぇ。私の問いには満足に答えてくださらなかったのに」

 二代目はへらへらと笑いながら、じりじりと壁を横に移動する。そして、爆音を指すように指を上げた。「信じられますか。契約不履行ですよ。聖人様に仕える大聖堂ともあろう方々が! こんな酷い話がありますか」


「何のことはない。大掃除の対象に貴様らも入っていただけのことだ」


「まったくもう。嘘つきばかりで嫌になりますね」


「貴様が言うな」


 二代目は壁に手を当てる。押した部分がへこんだ。

 何だ――と、思った瞬間。


 足元から何かが僕の顔に向かって飛んできた。咄嗟に頭を逸らす。勢い余って、宙返りをしてしまう。天井を見ると、無数の矢が刺さっていた。床には射出口があったが、すぐに閉じてしまった。


「ハズレですか」


 二代目はくるりと背中を向けると、逃げ出した。


 僕もすぐに追いかける。しかし、数歩もいかずにガコンと階段を踏み抜いてしまった。すると今度は横の壁が開き、鉄球が振り下ろされた。衝撃を受け、僕は吹き飛ばされてしまう。壁を突き破り、そのまま外へと落ちかける。咄嗟に壁を掴み、何とか這い上がった。


 何だこの塔は。トラップだらけじゃないか。来るときにはこんなスイッチなどなかった。奴が作動させたのだろう。厄介どころの話ではない。


 二代目は逃げながらも、どんどんトラップを作動させていく。接近することだけに意識がいくと、トラップに襲われ、距離を稼がれる。しかしトラップを意識しすぎると、途端に壁の武器を手に取って強力な一閃を放ってくる。僕も武器を掴むが、しかし魔法陣の仕掛けがあり、二代目にしか壁から取り外せないようにされているらしかった。恐らく、奴の手袋に対の魔法陣が刻まれているのだろう。

 結果、微妙な膠着状態にあった。籠手があればトラップなど関係なく吹き飛ばすことができるのに……。


 すると、階下から赤い顔の男たちがすっと姿を現した。商館内部にまで教戒師が侵入したのだ。商館は陥落しようとしている。後はあの小男を捕らえるだけだ。


 前からは教戒師、後ろからは僕。二代目は袋の鼠だ。


「ははっ……ははははは……!」


 しかし二代目は笑っていた。いよいよ頭がおかしくなったのか。

 直後、壁から突き出した丸太に、教戒師たちは吹き飛ばされる。そのまま外へと落ちて行った。


 まずい。前がガラ空きだ。


 二代目は僕らが入ってきた二階部に到達した。扉は開けっ放しになっている。教戒師たちはここから侵入したのだろう。扉を出て、大倉庫へと飛び出した。てっきり一階の港に向かっているのだと思ったが……。奴は一体どこに行く気だ?


 大倉庫に出た途端、叫び声が耳に入ってきた。逃げ惑う商人たちの姿が目に入る。商品を床にぶちまけ、どこを目指せばいいのかもわからず、やみくもに走っている。そして手あたり次第に辺りを爆撃をする教戒師たち。めちゃくちゃだな。


 教戒師たちは二代目を目にすると、一斉に爆撃を開始する。まだ奴を死なせるわけにはいかない。


「やめろ!」と、僕は叫んだ。審問官の命令を教戒師は無視できない。しかし、教戒師たちはやめなかった。どうやら、僕の審問官特権は剥奪されているようだった。まあ、そうだろうな。


「うわっ……ひぃ……あはは……あははは……!」


 爆撃に晒されながらも、二代目は高笑いを続ける。


「これです。これ……従士の時に私が夢見ていたのはこれだ! 生死のかかったこのスリル! 一瞬の判断で四肢が吹き飛ぶこの緊張感!! ああ、なんて溜まらないんだ!!」


 変態が。


 恍惚状態の二代目は、その勢いのまま正面の教戒師を剣で殴りつけた。異常な高揚感が奴に実力以上のものを与えているのか?

 だが。

 そんな浮ついた気分で戦場を抜けられるものか。


 倒れ込んできた教戒師を受け止める。


「貸せ!」


 僕は教戒師の腕を構えると、掌を二代目へと向けさせる。


「今だ、撃て!」


 しかし撃たない。

 馬鹿が。僕は教戒師の頭を叩くと、もう一度叫ぶ。


「撃てッ!」


 教戒師の手から発射された爆破魔法は、二代目の肩を撃ち抜いた。


「うおおおおぅっ!!」


 二代目は前方へと吹き飛び、ゴロゴロと転がる。


 周囲の教戒師たちは一斉に掌を僕に向けた。僕は腕に抱えた教戒師を放り投げると、跳躍し、爆破を避ける。そのまま、手近な男を蹴りつける。爆撃が続く。歯牙にもかけていなかった奴らだが、歯向かってくるとなかなかに面倒だ。だが、赤い顔は遠くからでもよく目立った。掌の向きさえ注意を払えば、爆破魔法もそう脅威ではない。即座に全員を無力化させ、場を制した。


 床の一点に顔を向ける。そこには虫けらのようにもがく小男がいた。肩を負傷した痛みから、起き上がることもできないようだ。僕が近づくと、それでもなお地を這いずって逃げようとする。


 僕は二代目を追い越して、正面に立つ。


「正義が為されるところを見たいと言っていたな」


「ふふふ、ええ……その通りです……」と、二代目は力なく笑った。高揚感など既に消え失せ、そこには一種の虚脱があった。


 二代目の髪を掴み、顔を上げさせる。


「僕が見せてやる。せいぜい楽しめ」


 呼吸器を顔に当て、煙を吸わせた。



 さて。

 審問の時間だ。


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