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毎度バカバカしい転生を一席  作者: 日立かぐ市
徂徠豆腐における新しいサゲの発明
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 ホストが迷い込んだのは落語国でございます。

 江戸時代のようだが、江戸時代とは微妙に違う。歴史考証などはなく、架空ではあるが、まるで確かにあったと知ったような顔で語られる場所が落語国。

 ホストも気がついているが、この落語国で始まったのは徂徠豆腐そらいどうふ

 徂徠豆腐、もとは落語ではなく講談の演目でございます。

 物語を先に進める前に、徂徠豆腐がどんなお話かざっくりと申し上げておきましょう。

 貧乏で食べるものもの金もないが、働かずに勉強だけしている荻生徂徠おぎゅうそらい。親切な豆腐屋におからを貰って食いつなぐ。おからばっかり食べていたから、おから先生だ。

 ある日、豆腐屋が病気で数日寝込んでしまう。体も良くなると、おから先生が死んでやしないか心配で見に行くと、長屋には誰もいない。

 死んじまったかと思い、長屋の大家に聞けば急に引っ越したという。それを聞いて安心した豆腐屋だが、今度は豆腐屋が火事を貰って焼け出されてしまう。

 そこに現れたのが荻生徂徠。聞くと、豆腐屋が寝込んでいた時に声をかけられ幕府に召し抱えられたと話す。

 おからのお礼をしたいと、出世した荻生徂徠が焼けた豆腐屋を建て直す。荻生徂徠を育てた豆腐を食べると出世する、そんな評判を呼び豆腐屋は繁盛したそうな。

 『徂徠豆腐』とは、こんなお話でございます。 

 講談でございますと最後は「芝三縁山増上寺の向かいに店を構え、箸を使わずに食べると出世する徂徠豆腐、その由来にまつわる一席でございます」この様に締めくくるのですが、落語の場合は最後にオチを入れたい。

 落語の場合オチのことをサゲと言いますが、サゲは「豆腐屋殿、そなたとは昔からきらずの縁ではないか」この様になります。

 どうしてこれがサゲになるのかわからないでしょう。

 ”きらずの縁”これは一つに荻生徂徠と豆腐屋は”切っても切れない縁”という意味でございますが、その意味だけではオチていない。これじゃあ、ただのイイ話だ。

 オチていないのだからサゲにはなりません。サゲにするなら、もう一つ別の意味を理解出来なきゃいけない。

 それには”きらず”の意味を知っておく必要がございます。

 おからの事を関西や東北の一部では”きらず”と呼んでおりました。

 ですから、”きらずの縁”とは”おからの縁”というダブルミーニングになっているのでございますが、しかしこれが現代ではわかりにくい。

 ”きらずの縁”とは”切っても切れない仲”に加え、豆腐屋から貰った”おからの縁”でもあり、ダブルミーニングとして成立するのですが、現代人はおからの異名なぞ知りません。

 知らなければサゲの意味が通じない。つまり、昔のサゲは今ではサゲでなくなってしまった。

 落語というのは昔から同じ内容を話していると思われがちですが、そうじゃない。噺家によって違うし、時代時代に合わせて少しずつ内容も変わっております。

 わかりやすいもので言えば、下ネタはほとんど省かれるようになってございます。

 当然、徂徠豆腐のサゲも現代人でも理解しやすいサゲに工夫をする落語家が現れた。

 「先生はあっしのために自腹を切ってくださった」というものでございます。先程までの”きらず”から一転、今度は切るという。発言も荻生徂徠から豆腐屋に入れ替わっている。

 現代でも通じる、上手くサゲへと続けるため、途中からガラッと話を変えたわけでございます。

 この自腹を切る、現代でも使われる言葉でございます。おから先生こと出世した荻生徂徠が代わりに焼けた豆腐屋を再建したため「自腹を切ってくださった」となる。

 サゲでございますから、当然もう一つの意味がある。それは赤穂浪士の討ち入りと四十七士の切腹を絡めているのでございます。

 そんなサゲに変えた。

 どうして赤穂浪士、忠臣蔵でございますが、そんなのが突然登場するのかと申しますと、おから先生こと荻生徂徠は赤穂浪士の沙汰、処遇に関係していたのででございます。

 荻生徂徠が赤穂浪士の処遇に関係していたのは史実であり、また荻生徂徠が豆腐屋から貰ったおからで食いつないだのもまた史実でございます。

 そんな史実に絡めたサゲが生まれ、今はこちらの方が多いでしょうか。

 さて、火事で焼け出されて仮住まいだという豆腐屋の住む長屋へ行くと、豆腐作りの道具で部屋の中は一杯だ。

 火事で持ち出せるものは持ち出して、誰もが家財道具を持って逃げるものだから全部とはいかないが、なんとか豆腐作りが出来る程度には持ち出せたという。

 落語国は実在なのか夢の中なのかはわかりませんが、どうやら腹はしっかりと空くようで、余っているおからを茶碗に一杯貰うとホストは無心で一気にかきこんだ。

「マジ助かったす、マジで。おからがこんなに美味しいなんて、おから最高。マジ最高」

 ホストクラブのナンバーワンでございます、新宿でおからなんて食べる機会もなかったが、食べてみると空腹のおかげでこれが美味い。

「へへ、おから先生と変わらねえくらい美味そうに食いやがるな。気に入ったぜ、食うのに困った時はいつでも来なよ。おからでよければ食わせてやるからよ。おからなんてどうせ売れねえんだ、銭がなくたって、ただで食ったって盗人じゃねえ。遠慮なんていらねえ」

(おから貰っちゃって嬉しいけど、もしかして俺が荻生徂徠になっちゃったとか?じゃあじゃあ俺が恩返しに豆腐屋建てたらいいのか?イヤイヤイヤ、それはないでしょ。徂徠豆腐が翔豆腐になっちゃうし)

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