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アルナは洗面台の鏡の前で、ギュッと両手を握りしめていた。何かを吐露したそうな表情を浮かべている。
「アルナさん!」
鷺宮が声を掛けると、アルナは曖昧な微笑みを作った。その笑顔も、どこか後ろめたさが垣間見える。
「鷺宮さん、どうしたのですか?」
「……アルナさん。私たちの助っ人として試合に出てくれて、本当にありがとうございます」
突然の感謝に驚いたアルナだったが、すぐに「いえ」と言葉を返した。
「この世界の皆さんのお役に立つことが、私の使命ですから」
彼女は伏し目にこう答える。
「死んだ仲間のためにも、私が頑張らなくてはいけないので……」
アルナの真っ直ぐな思いが、逆に彼女を苦しめているのではないか。鷺宮は薄々気がついていた。
「……ですが、やはり上手くいきませんね。先ほどの射も、一本外してしまいました。しかも、最後の最後に……」
……彼女の瞳に、透明な涙がじわりと浮かんだ。
「元の世界でも、いつもそうでした。大事な場面で、決まって失敗してしまうのです。死んだときだって、私が矢を放っていれば――」
「アルナさん!!」
――突如、鷺宮がアルナの肩をガシッと掴んだ。トイレの中に、彼女の声が響き渡る。
「大丈夫です!! さっきの矢、アルナさんが外した分は、私が中てましたから!!」
自分でも何を言っているのかよく分からなかったが、鷺宮は必死に言葉を続けた。
「私が外した分は、アルナさんが全部中ててくれました!! だから、自分が失敗したときは、きっと仲間の出番なんです!!」
「え……?」
アルナは目を見開いて、彼女の顔をじっと見つめた。彼女の瞳は、真剣に何かを伝えようとしている。
「つまり、えーっと……。とにかく、自分を責めないでください!! この大会で負けても、絶対に死なないので!!」
鷺宮は「言い切ったぞ!」という風に笑顔を浮かべ、アルナの肩を二回叩いた。そのまま踵を返して、トイレを後にする。
「自分が失敗したときは、仲間の出番……?」
彼女が出ていった後、アルナは鏡の前で言葉を反芻した。かつての仲間を思い浮かべながら、小さな声で、何度も自分に問い掛けた。




