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狐神かーにばりゅッ!!  作者: 月野輝夜
1/1

ここは異世界ですか?いいえ日本です。

初めまして月野輝夜ツキノカグヤです。

異世界転生とか流行っているのかな?って思い、ネトフリで転生作品を見てまして、思い付きで書き始めてみました。

ただ、普通に人間を転生しても面白くないなぁて思い、んじゃー、神様でも転生するか?って思いネタをコネてコネてこね過ぎたら、別に異世界じゃなくてもいいんじゃない?

元々神様なんだから、別の種族に転生させる必要ないよね?って事になり、書いてみたらこうなりました。

素人が何となく書いているのでヘタッピではあるのですが、もし楽しんで頂けたら幸いであります。

最後まで書き終える事を目指して、執筆して行こうと思います。

 ここは天界【高天原】――

 葦原中国(あしはらのなかつくに)――【日本】の桜前線が始まった頃、この高天原では年に一度の花見が始まろうとしていた。

 場所は高天原の各地で行わられるのだが、最初に行われるのは天照大神の神殿である。

 それは神殿の庭にある巨大樹【西行桜】が一番につぼみが顔を出し、花が咲くからだ。

 また、高天原の桜は下界の桜が北に上がって各地を咲いていくのと違い、西行桜が最初に咲いて、そこから広がるように各地の桜が咲いて行き、散る時は西行桜に向かうかのように散っていくのだ。この散る時期が下界で言うと、北海道の桜が散る時である。

 とても期間が長く、宴会や酒好きな八百万の神々は毎年、この桜を眺めに神殿に集まり連日、宴会を開いているのであった。

 本日はその宴の初日である……

 

「これはこれは珠藻(たまも)殿。本日は静葉殿の付き添いですかな?」

 メタボのお腹と、クルンっと跳ね上がったちょび髭、まるで髭の生えた豚が狩衣を着ているかの様な小柄の中年の男性が、紅白の巫女服を着た少女に話し掛けた。

 少女は雪な様に長い白髪をふわりと揺らし、その男性の方を振り向くと、両手を前で組み頭を少し下げた。

 そしてゆっくり頭を上げると、白髪によく馴染む白毛の狐耳と尻尾をゆらりと揺らし、涼やかに微笑む。

「お久しゅうございます。小納言殿。本日は、母【静葉(しずは)】の名代で御招きさせて頂いております」

「成る程、代理ですか……まぁ、静葉殿は太政大臣であられますからなぁ。この宴会が始まる時期、公務をお暇して、宴会に顔を出すなんて至難の事ですからねぇ。仕方がないですなぁ」

「態々母に挨拶に声を掛けて頂いたと思いますが、大変に申し訳ございません」

「イヤイヤ珠藻殿。頭をお上げ下され。確かに本日お会い出ないのは残念ではあるが、公務なら仕方がなかろう。それに今宵は花見の初日じゃ。このような宴の日に謝罪は無粋じゃよ。今宵は無礼講で行きませう」

 小納言は腰に差していた扇を手に取り、パンっと音を鳴らし広げるとスッと口元を隠し「ホホホ」っと上品に笑うのであった。

 一見人柄の良さそうなこの少納言。口では「よいよい」と朗らかに言うが、腹の中は黒かった。

 口元を扇で隠し笑ってはいるが、目は少女の珠藻を下から上に吟味するようにヤラシク見つめていた。

 ほう……あの女狐に負けず劣らずの上玉の娘じゃ……

 今宵はこの娘を酔わせて、ワシの寝屋で辱めて、娘の落ち度をネタにあの女狐を太政大臣の地位から引きずり落としてくれるわ。

 しかし、見れば見る程上玉じゃ。この娘がどのように乱れ、どのように鳴くか……今宵は本当に楽しみじゃの~。

 そのような事を考えている少納言だったが、その心は既に珠藻に読まれていた。

 しかし珠藻は、それが分かっていても、顔色一つ変えず対応した。

 そもそも高天原は八百万の神々の政権争いがあった。

 天照大神や大国主命、月夜見など古くから現在まで多くの人に信仰されている神々は地位を確立されているが、珠藻の様な幻獣神や、信仰が新しかったり知名度が低い神々は、水面下での権力争いが絶えず続いている。

 少しの落ち度があれば、それをネタに足を引っ張ったり蹴落としたり、それは当の本人の落ち度だけではなく、周りの取り巻きや親族まで粗探しの様に見張られ巻き込まれるのであった。

 出世を望む取り巻きならその覚悟はあるが、珠藻の様な親の跡を継ぐ気のない親族は大変に迷惑をしていた。

 だが、珠藻はこの様な時の為に、対象方法を幾つか知っており慣れていた。

「そうですね。今宵は年に一度のお花見初日ですから、私も盛大に楽しませて頂きます」

 珠藻はそう言うと、袖で口元隠し「ふふふ」と上品に笑うのであった。

 

 そして日も落ち、空が暗くなり月が出ると神殿の庭は無数の提灯が屋根伝いに設置され火が入った。

 提灯は仄かに妖艶の様な桃色の明かりを照らし、より一層に西行桜の魅力を引き立たせるのであった。

 西行桜の周りは樹木を中心に円状に多くの朱色のゴザが敷かれ、身分問わず多くの神々が集まり宴会が始まった。

 ある者は酒樽を湯舟の様に入って酒を呑んでいたり、ある者は山の様な料理を自分の周りに並べて、只管食べていたり、ある者は琵琶を片手に、スタンドマイクを準備して歌を歌ったり……

 ここぞとばかり、多くの神々が羽目を外し騒いで楽しんでいた。

 そして珠藻の方はと言うと……

「さーさー少納言殿呑めッ!私の酒を……呑めッ!」

「か、勘弁して下され……珠藻殿。ワシはもう……うっ……おえぇ……」

 開始して早々にも関わらず、少納言は珠藻に勧められた酒に酔って潰れ始めていた。

 それもその筈、珠藻が少納言に勧めたお酒はあの八岐大蛇も酔いつぶれた神酒【八塩折之酒(やしおりのさけ)】を呑ませたのだ。どんな蟒蛇でもこの伝説の神酒に酔い潰れないで呑み続けられる者はあの酒呑童子が三輪明神。はたまた製造した本人の木花之佐久夜毘売(このはなのさくやひめ)ぐらいだろう。

 酒を用意したのは珠藻。少納言の様な者がいるだろうと予測していた珠藻は、事前にこの酒を木花之佐久夜毘売にお願いして貰っていた。

 勧め酒として八塩折之酒を隠し持ち、自分が飲む時は別の酒を飲む。

 どんなに自分が呑んでも蟒蛇でもある珠藻は通常の酒なら、滅多に酔い潰れる事はない。

 つまり少納言はミイラ取りがミイラになってしまったのだ。

「ダメですよ!こんな楽しい宴の日にパーッと騒がないとッ!神様がバーっと騒がないと下界の景気なんて上がらない事もあるんですから、バーっと呑んでバーっと騒ぎましょうよッ!」

 また酒の席と言うのも利用して、珠藻は逃げようとする少納言の襟を掴み、八塩折之酒の入った瓢箪を無理やり口に押し当て呑ませるのであった。

「やめ……うぐぐぐ……やめて……」

 小娘に無理やり呑まされるおっさんの光景は、この宴会の席では好評であり周りはゲラゲラと笑い楽しんで止める者は誰もいなかった。

 通常ならこのような行為、例え太政大臣の娘である珠藻でも、許される行為ではないが、花見という長期にわたるこの大宴会では、無礼講という言葉で全てが見過ごされるのであった。

 それ故に、この花見は宴会と言う名目での下剋上の戦場でもあった。

 ここぞとばかりに身分の高い者に仕返しする者も多く、しっぺ返しを喰らう者も多いのである。

 このように少納言の様に早々に酔い潰れてしまうと……

「あらら……少納言殿、白目向いちゃって気絶してら……」

 珠藻はパッと遊び飽きた子供の様に少納言の襟を放し放置すると、どこから沸いて出たのか少納言に恨みを持つ者が群がり、顔に落書きを始めたり、服を脱がせて更に落書きし始めた。中には面白半分でそれに参加する者もいた。

 そんな哀れな少納言を横目に酒を呑む珠藻。

 毎年毎年……こんな奴ばっかり近寄るよなぁ。太政大臣の娘だから仕方がないのかもしれないけど、母上の代理で参加しているが、毎度毎度こんな役回りばっかで詰まらんの……

 そんな事思いながら、ぶるるっと身体が震える。

 ちょっと飲み過ぎたかな?早々に本来の目的の天照大神様に挨拶して帰ろう。

 席を立ち上がり、珠藻は神殿の天照大神がいる神殿へ足を運んだ。

「天照様への拝謁をお願い致します。太政大臣の名代、白雪静葉の娘、珠藻です」

 天照大神の女官にそう伝えると「少々お待ちください」とその場に待たさせるのであった。

 この宴会多くの神々が集まるなか、天照大神や月夜見、須佐之男命、大国主命……神話より信仰が続いている神々は、神殿の平屋にて花見を楽しんでいた。

 珠藻の母、静葉の様に太政大臣や関白、左大臣、右大臣と高い地位がある者なら、この神話の神々達の中に入る事も可能であるが、例え名代であっても、同じ場に居るのは無理な事であった。

 それは、高天原の神々も神話の神々に信仰しており、敬意を払い、特別視をしているのである。

「お待たせしました。どうぞ庭の方から進み、ご挨拶をお願いします」

 女官に案内さて、白洲の庭ジャリジャリと踏み締め天照大神の前に来ると、膝を地面に付け、深々と頭を下げた。

「太政大臣の名代、白雪静葉の娘、珠藻です。本日、お招き頂き誠に有り難う御座います」

「大義であります珠藻。近年貴方の母には、この高天原の政務に御足労掛けて、本当に感謝をしております」

「あり難きお言葉痛み入ります。母も励みになるでしょう」

「珠藻。花見の方は楽しんで頂けましたか?」

「それはもう……」

 天照大神の返答に珠藻は言葉に詰まった。

 二度目の身体の震え……

 やっぱり少し飲み過ぎたか。こんな時に……

 そう思いながら、珠藻は我慢をしながら、膝をモジモジと動き始めた。

 つまり厠に行きたいのだ。

 そんな珠藻の動きを見て、悟った天照大神は微笑した。

「ふふふ。その様子だと、随分楽しんだみたいですね。この先に時見の井戸があります。その井戸を過ぎると厠があるので、そこで用を足し、そのまま帰って頂いても構いませんよ。名代のご挨拶、毎年御足労掛けます」

「た、大変申し訳ありません。それでは失礼致します」

 顔を真っ赤にし、下げている頭を更に少しだけ頭を下げた。そしてスッと素早く頭を上げて、急いで立ち上がり、早歩きでその場から立ち去り、曲がり角になった途端に駆け足で教えて頂いた厠へ向かう珠藻であった。

 そんな珠藻をその場にいた神々は、笑いながら見送るのであった。


 失態だわ……まぁ、間に合ったから大惨事にならなかったからいいけど、この失態は近いうちに母上の耳に入るわね。

 笑われるか……それか怒られるか……。どっちにしても五月蠅い事言われるわ……

 まぁ、いいわ。兎に角、挨拶も済ませたし、帰るとしますか。

 厠でそう考えながら、珠藻は袴を履き直し、手を洗おうと洗い場に向かった。

 しかし個室の戸を開け、厠の中を見渡すが洗い場が見当たらない。

 庭に設置してある厠だから、外にあるのかな?そう思い厠から出て、周りで洗い場を探して見るが、見つからない。

 実はこの厠、洗い場がないのだ。

 それは本来、珠藻の様な身分が低い者が使用する為に設計されておらず、身分高き者が用を足した後、従者等が水が入った桶を持って待っているのを想定して設計しているのだ。

 どんなに探しても見つかる訳がないのだ。

 しゃーない。ここに来る途中で井戸があったから、そこから水を汲んで洗うか。

 先程通った井戸まで戻り、滑車の縄に手を掛ける珠藻だったが、滑車が動かない。

 どんなに強く引いても一向に滑車が動く気配すら無い。

 あれ?なんか引っかかっている?それとも掴んでいる縄間違えてるのかな?

 そう思い縄の先を確かめる様に井戸の底を覗くが、月明かりを底の水が僅かに反射する光しか見えず、こんな真夜中に井戸の底を見ても暗くてよく分からない。

 それでも珠藻は井戸の底を確かめようと前のめりに上半身を井戸の中に入れて底を見る。

 しかし、井戸の中に入り過ぎて、掴んでいた縄が手を滑って放してしまった。

 慌てて握り直そうと、珠藻はもう一度縄を掴むが、今度は滑車が動きカラカラと甲高い音を鳴らし井戸の底に引き寄せられる様に真っ逆さまに落ちて行くのであった。

「ひょえほえぇぇぇぇぇっ!!!??」

 珠藻が叫んだ時には既に遅く、ぼっしゃーんと水しぶきの音を鳴らし井戸の底に転落するのであった。


 光を感じる……その光は暖かく、太陽の光だと分かった。

 次に声が聞こえた。

 最初はぼやけて聞き取れないが、暫くすると段々とハッキリと聞こえる様になってくる。

 声の質から男性だ。それも若い声、青年の声だ。

「もし……もし……大丈夫ですか?もしもし?僕の声聞こえますか?」

 誰だろ?私の知り合いにこの青年の様な声音を持つ者は記憶にない。誰だ?

 そう考えていると、次にトントンと肩を軽く叩かれる感覚を珠藻は感じた。

 そしてゆっくりと目を開き、青い空を見る。

「あー良かった。気付いた様ですね。大丈夫ですか?」

 珠藻はゆっくりと目を動かし、先程から聞こえる声の主の方に目を向けた。

 犬……いや狼?……声の主を見て珠藻はそう思った。

 童顔でややハンサム顔、髪は逆立っており、流行ぽい髪型をしているが、漆黒の黒髪から茶色の獣耳が見えた。

 少し力を込めて珠藻は上半身を起こすのだが、次に後頭部から激痛が走った。

「痛っ……」

「大丈夫ですか?」

 珠藻が頭を抑えると狼の青年は心配をする。

 井戸に落ちた時、頭を強く打ったみたいね……

「頭が痛いのですか?見た処……怪我はしてないようですが……ちょっと冷やせる物を持ってきますね。ここで動かず待ってて下さい」

 そう言うと狼の青年は駆け足で何処かへ行ってしまった。

 珠藻は後頭部の頭痛に耐えながらも、現在の状況を確認した。

 どうやら井戸に落ちて頭を強く打ち気絶したんだろう。そして暫く時が経ち漸くあの狼の青年に助けられた。そんな処ではないだろうか?そう考えながら辺りを見渡す珠藻だったが、改めて周りを見渡すと、いま自分が置かれている状況に異変を感じた。

 何処だここは?高天原ではないのか?

 ビルの瓦礫が散乱しており、珠藻はその瓦礫の上にいた。更に遠くを見渡すと破損しているビルが多くあったり、今にも崩れそうな半壊したビルがあったりするのが見えた。

 明らかに高天原ではない事に混乱する珠藻だったが、突然ブロロロっとエンジンの音が聞こえ、音が鳴った方向に振り向くと自動車が軽快に走っているのが見えた。

 次に驚いたのが、空からギュイーンっと音が聞こえ目を向けると、見た事もない小型のジェット飛行機が空をホバーリングして破損しているビルの屋上に着地を行っているのが目に入った。

「すいませーん。お待たせしました」

 珠藻が状況に理解できず放心していると、犬がボールと取って帰ってきたかの様に狼の青年は、手に大きなビニール袋を持って戻ってきた。

「近くのコンビニで冷やせそうな物を探してみたんですが、応急処置に使えるかな?って思い購入してきました。取り合ずこれで頭を冷やして下さい」

 そう言うと、青年はビニールの袋からカチ割り氷を取り出し、珠藻に渡した。

「外傷とか無かったですよね?一応ガーゼや包帯とか買っては来たんですが――」

「ここは何処?」

 青年の言葉を遮り唐突に珠藻は尋ねた。

「え?何処って……ここは名古屋ですけど……」

 珠藻は青年の返答に瞳孔を開いて驚いた。

 名古屋……だと?

 改めて珠藻は再び周りを見直す。

 名古屋のソウルフード、ラーメン屋『スガキヤ』の看板に『きしめん』と書かれた暖簾、手羽先屋で有名な居酒屋の『世界の山ちゃん』の看板

 店の殆どが露店に近い飲食店だが、よく見れば確かに知っているお店ばかりだ。

 ここは日本の愛知県名古屋だ……

 下界に落ちて来たのか?と思う珠藻だったが、確信が持てなかった。

 珠藻は天界『高天原』で暮らしてはいるが、人が住む下界の事を知らない訳ではない。

 趣味のゲームや漫画・家電等、時々こっそり降臨しては買っては天界に持ち帰ったりしてて、下界の様子を伺ったりしていたのだ。

 あの伝説の迷言『物売るっていうレベルじゃねーぞっ!』で有名なPS3の発売日には、東京の有楽町ビックカメラ前に群がる人の中に紛れPS3を購入する程、雑誌やネットを使いチェックをしてはチョクチョクと降臨をする稲荷神だった。

 何よりもこの名古屋は、珠藻の母『静葉』が祀られた稲荷神社がある。

 その神社を拠点としてブラブラしている事が多いので、寧ろホームグラウンドと言っても過言ではなかった。

 だが今は違う。

 ここは知っていて、知らない土地だ。

「大丈夫ですか?もしかして記憶喪失って感じですか?」

 狼の青年は心配そうに珠藻を覗いた。

 珠藻はふーっと深い溜め息を吐き、青年に渡された氷を後頭部に押し当てる。

「尋ねてもいいですか?」

「あ、はい」

 少し冷静さを取り戻した珠藻は、青年の顔を見つめた。

「貴方は狼男なんですか?それとも犬神?」

「ワーウルフです」

「なるほど、狼男の方ですか……」

「いいえ【ワーウルフ】です」

「…………」

 何が違う?そういう目で珠藻は狼の青年を見るが、青年は誇らしげに親指を立てワーウルフを主張した。

「申し遅れました。僕は【真田 和彦(さなだかずひこ)】。見ての通り、種族はワーウルフです」

 そう言って和彦は左手を珠藻の前に差し出す。その差し出された手を掴み珠藻は立ち上がった。

「私は珠藻。白雪珠藻よ。介抱してくれた見たいでありがとうね」

「いえいえ。仕事の関係でここに立ち寄ったら偶然、瓦礫の中に珠藻さんが倒れていたのを見掛けたので、ほっとけなかっただけですよ」

「そりゃどーも……」

「僕も尋ねたいんですけど、珠藻さんは姿やお召し物から判断すると稲荷伸ですか?」

「そうね……稲荷神よ」

「やっぱし。けど、こんな所でなんで倒れていたんですか?」

「なんでって……それが分かれば苦労しないわ」

「え?……やっぱり記憶喪失ですか?」

「それは違うと思うわ」

「それはどうしてですか?」

 あれ?最初に質問していたのは私じゃなかったけ?って思いつつも、珠藻は和彦の問いに答える事にした。

「ここに倒れている前は高天原にいたの私。間抜けな話だけど手を滑らせて、井戸に落っこちてしまったのね。そして目が覚めたら、この場所で倒れていたのよね」

「なるほど……高天原ってこの国の八百万の神々が多く暮らしている所ですよね?」

「そうよ。天照大神様を主宰神とした神様の達の住む土地よ」

「その高天原にある井戸から落ちて、この場所で倒れていたと……」

 和彦は顎に手を添え、珠藻の話を聞いて不思議そうな顔をした。

「そ、そうね……私もまだ尋ねたい事があるんだけどいいかな?」

「はい。なんでしょう?」

「貴方はここを名古屋と言ったわけど、本当にここは葦原中国……日本の都市、名古屋なの?」

「そうですよ?」

 珠藻は和彦の瞳をじーっと見つめ微動だに見つめ返す真っすぐな瞳を確認すると、そっと視線を逸らした。

「……嘘じゃないみたいね。本当に名古屋なんだ」

「どうかしましたか?」

「私が知っている街の姿と全然違うのよ」

 珠藻は頭に押し付けていた氷を押し付けるのを辞め、周りを今一度見渡した。

 ここが名古屋であるなら……この異変で考えられる事と言えばもうアレしかない。

「和彦さんだっけ?今西暦何年?」

「はい。えーっと1853年です」

「そんな幕末の時代なわけねーだろう。今から黒船でも来航するのか?」

 すかさず珠藻がツッコミをいれると、和彦は怪訝な表情をして見つめ返した。

「幕末ってなんですか?」

「……え?」

「……え?」

 二人は互いに腑に落ちない様子で見つめていた。

 暫く見つめていると、和彦は「あー」っと何か思い出した声を上げた。そして地面に西暦って文字を書き始めた。

「もしかして珠藻さんが言う『せいれき』って『東西南北』の西って言う文字を当てた、こちらの西暦ですか?」

「それ以外の西暦ってないでしょう?」

「やっぱりそうか。いや、今は『せいれき』は『せいれき』でも聖なる暦と書いて聖暦っていっているです。西暦は旧時代の話ですね」

 和彦は西暦の文字にバッテンをすると隣に聖暦という文字を書きマルで囲むのであった。

 その説明を聞いた珠藻は、目を大きく開き驚いた。

 もしかして未来にタイムスリップしちゃったかな?なんて思っていたけど、タイムスリップし過ぎじゃねぇ?なんだよ聖暦って…西暦いつ終わったんだよ?

 どーすんだよ?これ……元の時代に帰りたいなぁなんて思っていたけど、帰れるのか?

 あーやばい。落ち着いて状況整理して考えていた事がまたグチャクチャになってきた。

 そう思いながら珠藻は手に持っていた氷を再び頭に押し付けるが、後頭部ではなく頭の上に押し付けるのだった。

「えーっと……なんか益々混乱させるような事を僕言ってしまった見たいですね」

「あーうー……」

 珠藻は混乱し、まともに返事が出来ない。押し当てている氷も凄い速さで溶け始めている。

「ああ……もし良かったですが、どこか落ち着いた場所に行きませんか?もしかすると良き考えが浮かぶかもしれませんよ?」

 和彦の提案に珠藻はコクコクっと無言で頷くのであった。

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