ファンタジーFX! ~僕と芽衣子様と段ボールハウス~
ファンタジーFX。略してFFX。
僕の幼馴染みに芽衣子という女の子がいる。
そうそう、そこの段ボールハウスで呻き声を上げている子だ。
「どうしたの? 隣のお爺ちゃんが脅えてるじゃないか」
「どーしたもこーしたも木下も松下もあるかー!! 有り金全てつぎ込んだのに、この様は一体何の仕打ちなのよー!!」
「家まで担保に入れちゃうから……」
段ボールハウスの壁を殴り、穴を開ける芽衣子。風通しが良くなって涼しそうだ。
「で!!」
「ん?」
「何の用なの!? 冷やかしなら結構よ!!」
「……僕の家に来ないかい?」
「…………え? ゴメン、良く聞こえなかった」
段ボールハウスに開けた穴をガムテープで塞ぐ芽衣子。そして、そそくさと荷物を纏め始めた。うん、バッチリ聞こえてたね。
「ほら、女の子が一人でキャンプするなんて心配だからさ」
「キャンプじゃなくて、ガチなの!! アイム、一円も、持ってませーん!!」
芽衣子は段ボールハウスのカギを閉め、アクビを一つすると、僕の肩をポンと叩いた。
「さ、行くわよ」
「え!? 段ボールハウスはこのままで良いの?」
「いいのよ、隣のお爺ちゃんの別荘だから……」
「あ、そう……」
芽衣子の言っている事は良く分からないが、とりあえず良しとしよう。深く知れば知るほど訳が分からなくなりそうだ……。
「ただいまー♪」
「うん、僕の家だね」
芽衣子は我が物顔で僕の家に上がり込むと、二階の僕の部屋へと入り、ノートパソコンを片手に押し入れを開けた。
「パソコン借りるわよ。それとお金も。良いわね?」
「どうせダメって言っても借りるんでしょ?」
「そうよ? 暫くFXモードに入るから絶対覗いちゃダメよ?」
そう言って、芽衣子は押し入れの中に引き籠もった。
「まるで鶴の恩返しみたいだ……」
「そうそう。私は金を生む鶴なの」
その日、芽衣子は押し入れから出て来なかった。
──翌日。
「芽衣子? ご飯とかトイレとかどうするの?」
「大丈夫! 押し入れの中をリフォームしてお風呂もトイレもキッチンもサウナもシアタールームも作ったから♪」
「うん。それもうリフォームってレベルじゃないね。って言うかスペース的にどうなってるの?」
「快適よ~♪」
「……まあ、芽衣子が快適なら別に良いんだけどさ」
「だから開けちゃダメだからねー?」
「はいはい」
僕の部屋の押し入れを魔改造するくらいだから、とりあえず儲けてはいるようだ。
しかし、いつもあっと言う間に大暴落して段ボールハウスに逆戻りのパターンがテッパンとなっているから、程々の所で止めるのが良さそうだ。
「僕買い物してくるから留守番宜しくねー」
「あ、ついでにマ〇ー買ってきて! 通帳にメタクソ振り込んどいたから店ごと買い占めてきなさいな」
「……はいよ」
帰ったら押し入れを開けて終わりにしよう。うん、そうしよう。既に勝ち組モードになってるから、絶対に明日までは持たないぞ……。
買い物前に銀行でお金を降ろす。通帳に記載された額がとんでもない事になっていて、軽く驚いてしまった。
「ケタが多すぎて軽く数字がバグってないか?」
数字以外の文字が並ぶ、壊れた通帳を鞄にしまい、近所のスーパーで今日の晩ご飯の食材を買う。勿論〇ミーも。忘れたら絶対殺される……。
家へと戻り、押し入れの前に立つ。
「帰ったよー」
「ご苦労さん。マミ〇はそこに置いときなさい。後でセバスチャンが取りに来るから」
芽衣子の話も半分に、押し入れの取っ手を掴む。ココで開ければ恩返しも終わりだ。
「芽衣子──そろそろ終わりに……」
押し入れの取っ手に力を入れるが、扉はビクともしない。
「あれれ、芽衣子? 押し入れが開かないんだけど……」
「覗かれないように電子ロックにしたわ。4桁の暗証番号を入れないと開かない仕組みよ」
押し入れの取っ手の隣に、謎のボタンが現れた。0~9の数字を四つ選ぶだけなのだが、総当たりで行くと10000回…………マズい。明日になってしまう。
適当に数字を入れている間、家の外にはリムジンと呼ばれてそうな胴の長い黒い車が何台も駐まり始めた。
「芽衣子ー、何だか沢山車が来たんだけど…………」
「適当に雇ったセバスチャンと執事と家政婦とお手伝いさんとヘルパーさんと山田さん」
(……山田さん?)
ぞろぞろと、僕の部屋に見知らぬ顔ぶれが入ってきて、〇ミーとお金の入ったスーツケースを持って何処かへと去って行った。
「人の使い方が雑すぎない? て言うか何処から芽衣子の居る所に行ったの?」
「へ? 別に来ないわよ?」
窓から外を覗くと、セバスチャンらしき髭の老人が、美味しそうにマ〇ーを飲んでいた。どうやらセバスチャン用のマミ〇らしい……。
「訳分からないから暗証番号に集中しよう…………」
手探りで暗証番号を入力するも、エラーばかり。総当たりで試すにはちょっと時間が足りない。
「芽衣子ー? そろそろFX終わりにしないと、いつものパターン入っちゃうぞー?」
「ホーッホッホッ!! この芽衣子様にかかればFXくらいどーって事は無いわ!! 止めたければその扉を開けてごらんなさーい?」
「あー、フラグだ。間違いなくフラグだ…………」
大至急総当たりで暗証番号を打ち込む。しかし幾らやっても当たりの気配が無い。
結局、扉は開けられないまま夜になった。
──カチッ!
「あ、開いた」
4124の番号でようやく開いた押し入れ。僕の高校の時の学生番号とか、僕ですら忘れてたよ……。
「芽衣子ー? 開けるよー?」
押し入れの中から返事が無いので、とりあえず扉を開けて中を覗いてみた。
すると、そこには狭い押し入れの中で、ノートパソコンに頭を突っ伏した芽衣子が居た。
「あれ? サウナとかジャグジーとかエアロビクスは?」
「……ないわい」
「……遅かったか」
慌てて家の郵便受けを開けると、ギュウギュウに詰められたハガキや封筒が大量に入っていた。
「うわぁ、全部督促状だ! しかも連帯保証人が僕の名前になってる!?」
駆け足で押し入れへと戻ると、芽衣子は荷物を纏めて部屋を出て行こうとしていた。
「じゃあね。私はいつもの段ボールハウスに戻るわ」
「待ってよ!? まさかと思うけど、僕の家担保に入れてないよね? ね!?」
「…………」
「終わった……」
僕も荷物を纏め、芽衣子と一緒に先日の段ボールハウスへと向かう。
「お爺ちゃんー。また別荘借りるわよー?」
「すみません。僕もお邪魔します」
鍵を開けて小さな扉をくぐり、段ボールハウスへと入ると、中には真新しいベッドと、その隣にはスーツケースが置いてあった。
「あれ? こんな物あったっけ?」
すると、隣の段ボールハウスから、お爺ちゃんの声がした。
「マ〇ーのお礼じゃよ」
「…………え?」
スーツケースの中にはお札が大量に入っており、これだけあれば借金が返せそうだ。
「後は若い者同士仲良くな…………ワシは暫く近くの婆さんとアバンチュールを満喫してくるわい」
そう言い残し、隣のお爺ちゃんは去って行った。
「……とりあえず、夜も遅いし寝ようか?」
「へ、変なことしないでよ?」
「いやぁ……しないかもしれないし、するかもしれない」
「ばか……」
その日、段ボールハウスはとても暖かかった。
読んで頂きましてありがとうございました!!
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