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1.幼馴染との別れ

興味を持っていただきありがとうございます。

普段見ている物語の主人公とヒロインを逆にしてみよ、と思って書いた作品です。

そして作者は寝取られ等はあまり書きたくないタイプです。

王都から遠く離れたズッカ村で平民である私、レイカは生まれた。

この村は沢山の花が生い茂ることで有名な以外はあまり発達もしていなく、住民も少ない。


そんな村で私は同い年であるタチという男の子と幼馴染だった。


タチは村で一番と言って良いほどかっこよかった。

小さい頃から歳が近い女子やいくつも年上の女の人から告白されたり、後に成長した時にはたまに来る女性の商人が一目見て求婚するなどなど。


それに対して私は何処にでもいるような普通の女の子。所謂モブ子、村人Aと言った感じである。


そんな私とタチは産まれた日が近く、親同士の仲が良かった為かすぐに仲良くなり、何をするにも常に一緒だった。

畑の手伝いや花の手入れ、互いの家でご飯を食べることなんて日常茶飯事で遊びに出掛けるのも二人そろって。


それ故に私はタチ以外に友達というものが出来ずにいた。他の女の子からは嫉妬や妬みで遠巻きにハブかれ、男の子達は何故か近づいて来なかった。女の子達に何か吹き込まれていたのかもしれない。


だが、最初はそれでいいと思った。タチさえそばにいてくれたら他の人達はいらない。両親とタチの家族とずっと仲良く出来ればそれでいいと。


そんな日々が続いたある日、互いに九歳の頃だった。

いつも通り二人で花畑で寝転んでいると、唐突にタチが求婚してきたのだ。



「レイカ。ぼ、僕とけっ、結婚してくれ!!」



私はあまりの嬉しさに返事をする前にタチに抱きついた。ずっと一緒に居たいと思っていたのは私だけではなかったのだとわかったからだ。タチも同じ気持ちだった。私達はこれからの人生もずっと一緒に居れるのだ。


「わ、私も、タチとずっと一緒に居たい! 結婚、しでぐだざいぃ!」


後半のセリフは涙声でひどいものだっただろう。タチはそっと私の涙を拭ってくれると、私の後ろに回していた腕により一層力を込めてくれた。

次の瞬間、強い風が吹き、私達の頬を撫でた。すると同時に周りの花びらがサッと宙に浮かび、やがて私とタチの周りに降り注ぐ。まるで私達の結婚を祝福しているようだ、と二人して笑顔になった。


帰ってから両親に報告するとどちらの家の親も大喜び。この国では16歳から結婚出来るため、今は恋人という形で付き合い、16歳になったらすぐに教会で式を挙げることを約束した。

私は昔から得意だった花遊びで身に付けた技術を使い、花の指輪をタチに渡した。萎れてボロボロになったらまたいつでも作ってあげるね、と言うとタチは涙ながらに、必ずレイカを幸せにする、と言って頬にキスをしてくれた。


私はこの時まで自分の将来は明るく幸せなものだと信じて疑わなかった。この幸せが何時までも続くと。


だが、現実はそれを許さない。


13歳になった頃に、戦争で住んでいた村がなくなった人達がこの村に移住してくることになったのだ。人数はこの村よりやや多い。住む家造りや食糧に関しては国の方でしばらく出すから、という事で村の人達が総出で受け入れの準備に取り掛かった。


その知らせから一週間後。新たな住民がやってきたが大半が女、子供に年寄りばかり。男は戦争に行ってしまったかからだ。


こうして私達の同世代の子供が一気に増えた。するとどうなったか。皆が皆、タチに惹かれ、逆に常に一緒にいる私には、いじめをするようになったのだ。

今までは子供が少なかったし、空いてる時間がズレていたため直接どうこうされることは無かったが、人が増えてからは遂に直接手を出されるようになった。


タチがいない時を狙って私の元に来ては、


「あんたなんかタチ君と釣り合うわけないでしょ!」

「何時までも幼馴染顔してるのよ!」

「ブスのくせに!」


そう言って殴る蹴るは当たり前、酷い時には馬に使う鞭で叩かれて血が出たこともあった。


その度に私を助けてくれたのはやはりタチだった。


「こらっ! いい加減にしろ!」


タチがそう言うといじめていた子達はすぐに逃げて行く。

私はいつも泣いていた。タチが来るまはいつも踞り、服がボロボロになり、体がアザや泥だらけになって、いつも涙を流していた。


タチはそんな私を強く抱き締めては、アイツらは絶対に許さない、と怒りで顔を歪めていた。

私はそれが嬉しかったのと同時に、


(私はタチと釣り合わない……)


と心の何処かで思うようになっていった。

しかしそんな事はないと自分で必死に否定し続けた。


両親にいじめを相談したところ、家の手伝いの時間をズラして前よりもタチが私と一緒に居られるようにしてくれた。

タチが居ないときはなるべく外に出ず、手伝いも両親と共に作業することに。


こうして何とかいじめも減ってきた15歳の年。

またもや私達の平穏が崩れる事となる。


結婚を翌年に控えた私達は村の端の小さな教会によく訪れるようになっていた。

二人で手を繋ぎながら、教会を行き来していたのだから他の村人も悟ったのだろう。私達が結婚する、と。

女の人からの目線が怖かったが、私にはタチが居るのだから、と将来の結婚生活に夢を膨らませ、タチの手を強く握る。するとタチもそれに気付いてさらに力を込めてくれた。


それだけで、何も怖くなくなった。




しかし、この一月後。私とタチは一緒に居られなくなった。



理由はある日朝起きると出来ていたタチの左手にある銀色に光る剣のようなアザのせいだ。

両親や私は、これはいったい? と悩んでいたがタチ本人は別に痛いわけでも何でもないから気にしないと言って変わらず日常生活を過ごした。


が、そのアザが出現してから一月後。この村には明らかに場違いな程豪華な馬車がやってきた。

その馬車から降りてきた高価な服を着た40歳代に見えるおじさんが声を張って言う。



「この村に剣聖の加護を持った人間が居るはずだ! 大司教様の御告げである!」



すると馬車から一本の剣が独りでに動き出し、タチの前に移動した。タチは驚き、恐る恐る手に取ってみると剣が銀色に輝き出したのだ。


「おぉ! 君か!」


そのおじさんは嬉しそうに笑うと言った。


「君には勇者様と共に魔王討伐に行って貰う」




その晩、タチの家で私の家族とタチの家族が集まり、話し合った。

内容は勿論タチの魔王討伐の旅について。

あの後、ダールと名乗る高価な服のおじさんが詳しく説明しだした。


百年に一度復活する魔王とその配下達。

それらに対抗するべく創世神たるセティミス様は人々を守るためにその力を四人の人間へと分け与えるそうだ。


それが勇者、賢者、聖女、そして剣聖。


その四人が力を合わせて魔王とその軍勢を倒す。

そうして今まで人々は今まで平和な世を繋いできたと。

平和になりすぎて今度は人間同士で戦争をし出す始末ではあるが。


だが、魔王との戦いは人間の戦争とは訳が違う。

基本的に魔素で出来ている魔物達には神の力が分け与えられた者の攻撃でしか倒せない。

魔王がその最たる例だ。

よってこの四人にしか魔王討伐は叶わない。


そして、一月ほど前に大陸の人々が寄りつかない場所で魔王の魔素が誕生したの確認したらしい。

その証拠に同時期に王都で賢者の紋章を持った貴族のご令嬢が発見された。

そこからの国の対応は迅速だった。

残りの三人を探すべく魔法使いや占い師、人捜しの魔法道具(マジックアイテム)、教会のお告げに神卸までしてようやく残りの三名の場所が判明。その一人がタチだったということだ。

左手の剣聖の紋章と歴代の剣聖が使ってきた剣が彼のそばで銀色に光っているのがその何よりの証拠だ。



「僕は絶対に行かないよ。レイカとずっと一緒に居るって約束したし」



明日の朝には村を出るのでそれまでに支度とお別れを、と王都から来たダールは馬車に戻っていった。

タチの家でどうするべきか誰も声を出さずにいると、タチが唐突にそう言った。


「だ、だがなぁ……」

「タチ、これは私達の問題ではすまないのよ?」


タチのその言葉にホッとしたのもつかの間、彼の両親はそのタチの意見に反対気味だった。

私達の家族は何も言えずに居た。私も何も発言していない。


タチの魔王討伐の旅についてどう思っているか。

無論、大反対だ。彼と離れたくない、彼に危ない目にあって欲しくない。他の人はどうでも良いから、魔王討伐は他の三人に任せてずっと私のそばに居て。

私は胸の中でそう必死に叫んでいた。しかし口には出さない。いや、出せない。

ここで子供のように泣きわめいてタチにお願いすればタチは絶対に村に居てくれるだろう。現に本人も行きたくないと言っているのだから。


しかしそれがどれだけ自分勝手でわがままな願いであるかと言うことは15歳の私の頭でも良く理解している。


彼が戦いに行かなければ他の人々が苦しむ。このままではいずれは魔王とその軍勢によって多くの人が殺され、故郷を滅ぼされ、幸せを失う。その牙はこの村にも及ぶかもしれない。


それをタチと含め神に選ばれた四人なら何とか出来るかもしれないのだ。

であるならば私の言うべき言葉は当然、魔王討伐に行った方がいい、だ。


「レイカちゃん、貴方からも何か言ってあげて?」

「タチとの結婚は魔王討伐後でも出来るから、な?」

「父さん!!」


タチの父の諭すような物言いにタチが大声を上げる。

チラっとタチの両親を見るとその表情はまるで何か期待するような表情。恐らくタチを旅に行かせるように言って欲しいのだろう。

自分の両親を見る。父も母も私を心配そうに見ていた。その顔は言いたいことを言いなさい、といっているようにも見えた。


「レイカ、思っていることを言って良いんだよ?」


そう言ってタチは私を真っ直ぐに見る。その蒼い目は小さな頃からずっと見ている目だ。あんなことを言われたのに、これから恐ろしい魔物達と命がけの殺し合いをしなければいけないのに、その目には怯えがや恐怖と言った感情が全く見られない。


改めて思った。彼と生きたいと。だから行かないで、私とずっとここに居て、と。


そう言った。――――心の中で。


「わ、たし、は……」


しかし心の中とは真逆に、頭の中では別の考えがグルグルと回る。



『私とタチでは釣り合わない』



それは今まで散々言われていたことだ。

その度にタチは否定してくれた。それが嬉しかった。

けどその都度自分に問う。――――それは本当のことでは無いか、と。

今まではその答えを無理やり否定した。

だが今回のこれは今までの問いとは意味が違う。彼はもうこの私達、人間の希望なのだ。


それを私のわがままでこの地に縛るのか? 自分だけが彼の恩恵を受けるのか?


そもそも彼とは別に永遠の別れをするわけではない。しばらく会えないだけ。ひょっとすると何年も会えなくなってしまうが、それでもタチの父が言ったように最終的には結婚するのは変わらない。


それならここは送り出すのが幼馴染であり、恋人であり、将来妻になる私の役目ではないか。


頭の中ではそんな考えが出来上がる。対して、心の声も必死に訴える。


彼と離れたくない! 数年も会えないなんて嫌だ! 毎日一緒に居たい! どこにも行かないで!


相反する二つの意見が私という一つの体の中でぶつかっていた。


「レイカ、無理しなくてもいいのよ?」


母の優しい声で我に返る。

皆が私の言葉を待っていたのだ。私は考えがまとまっていないまま口を開く。

何というのか、他の誰でもない私自身が一番気になった言葉が私の口から発せられた。









「タチ、は……まおぅ、とうばつ、に……いっ、たほう、いい、よ」


後になって両親はその時の私の顔はまるで罪を告発する罪人のような表情だった、と言った。


その次の日、タチは豪華な馬車に乗って、王都へと去った。


私は外に出ず、部屋に閉じこもったまま窓からその光景を眺めていた。


もし興味を持って頂けたら評価等、よろしくお願いします。

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