わすられ者の経緯。
あなたは、人に忘れられたことがある?
「えー、ごめん、昔の顔が思い出せない!」
「名前……何でしたっけ」
そう言われたことくらいなら、あるんじゃないのかな?
そんな時、落ち込んだり、諦めたり。時には、忘れられないように努力すると思う。何回も忘れられた時には、あ、私って人に忘れられやすい人なのかな……と思う人もいるかもしれない。
でも、私、アンジュ・クレアーレの性質は度を超えている。
だって。
一日経ったら家族以外の誰もから忘れられるなんて、そんなこと中々ないでしょう?
母さんが言うには、何度出産の挨拶をしても「この子はどなたの子?」って言われて解ったらしい。生まれた時からずっとこうなの。笑っちゃうよね。
そんな私だから、普通の生活にはすごく憧れる。すごく。
例えば。
同年代の女の子と毎日遊んで、親密になったり。
「また明日!」と言ってみたり。
学校に行って、「毎日ちゃんとできて偉いな」と先生に褒められてみたり。
喧嘩をして、次の日に、「ごめん」と謝ったり。
家で友達とお菓子を作ってみたり。
友達に、「昨日の風邪、治った?」と言われてみたり。
剣の練習を皆としてみたり。
……してみたかったんだけど、なあ。
でも、無理だってことは、もう生きてきた16年で解ったつもり。それは諦めなければいけないこと。唯一の救いだった父さんも母さんも、もういない。本当の独りだ。これからは、私独りで生きていかなければ。
そう思って、私は半年ほど前に、知っているようで馴染みがなかった故郷を出た。
必要以上に人と関わらない為に。
孤独を、独りを、貫く為に。
そう思って生きてきたんだけれど、それでもたまに、厄介事に巻き込まれることがある。
例えば、そう。
「てめえ、生意気だな……!」
「ちょ、ちょっと、やめてください……」
今起こっている、こんな状態みたいな。