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ある政治家の善意

「賛成多数で本法案は可決されました」


 与党議員だけが居る国会で、議長のしわがれた声が響く。野党議員の姿は見えないが、元より全体の一割にも満たない。居たところで、与党議員全員が立っているこの場でその姿は見えやしないだろう。

 総理大臣となって六年。ようやくこの法案を通せた。

 医療保険制度改革……デザイナーベイビー施術に対し、補助金を出す法案だ。

 日本で産まれたデザイナーベイビーが、昨年一千万人を超えたという。これは累計であり、つまり日本人のうち一千万人以上がデザイナーベイビーという事だ。実際には、老衰などでそれなりの数が亡くなられているが。

 我が国でデザイナーベイビーが解禁されたのは、中国や米国に遅れてとはいえ、かれこれ百年ほどが経つ。むしろこれだけ時間が経てども、ようやく一千万人にしかならなかった、とも言える。

 原因は、端的に言えば日本人の気質だ。子供は天からの授かり物。親の都合で弄るなど罰当たり、というような。

 ……その結果が、ここ十年ほどの我が国の没落なのだが。

 十年前に開発された、人間の知能を著しく向上させる技術……ブラウン技法により、人類は新たな一歩を歩み出した。

 ブラウン技法を用いて産まれた子供達は、驚異的な知能を有していた。アインシュタインのような天才は、最早珍しいものではない。十歳未満で大学の主席になるような子が、世界中で何千人も産まれているという。スポーツ面でも効果的なトレーニングを考案する事で、屈強な肉体を得ているそうだ。全身が脳細胞のようなものだから技術習得も早く、卓越した職人が続々現れている。

 大昔は技術立国や職人の国と呼ばれた我が国は、今や凡人の集まりでしかない。

 海外から優秀な……否、超人的な人材が次々と押し寄せ、若者から職を奪っている。入国を制限し、移民を追い出す? 過激派の後先考えない妄言だ。経済的には最早彼等なしでは成り立たない。日本人が作った日本製品など、今では誰も見向きもしないのだから。

 かつて世界トップクラスの経済力を誇っていたこの国は、自国民のものでなくなろうとしている。しかしそれは移民が悪いのではない。我々に、母国を守ろうという気概が足りなかったのだ。

 取り戻すには力が必要だ。若く、時代の最先端を行く力が。

 そのためにもこの法案を通し、最新のデザイナーベイビー施術を一般に広める必要があった。先の選挙はその信を問うものであり、結果我が党は野党を圧倒したのだ。

 ……正直なところ、ここまで選挙で圧勝出来るとは思わなかったが。野党が医療保険制度改革を、『改造人間推進法』という暴言で例えてくれたのが幸いした。選挙権を持つ日本人の多くには、デザイナーベイビーの友人が居たのだ。

 最初の一歩は踏み出せた。だがこれはまだ始まったばかり。今回反対派は大敗したが、様々は方法で勢力の盛り返し……政権奪取と、法案の廃止を目論むだろう。

 それに党内にも不穏な動きがある。


「ひとまず、山場は一つ越えましたかな」


 例えば私の横に立ち、おべっかを使う副総理。

 非常に優秀な男だが、次期総裁を狙っている。党内選挙を念頭に、そろそろ自分の色を出してくるだろう。つまり、何時までも私のご機嫌取りをするとは限らない訳だ。


「次は憲法改正。野党が死んでいる今がチャンスです」


 その副総理の横に立つのは法務大臣。やや過激な思想寄りの支持者が多く、憲法改正を強く押してくる。憲法改正自体は私も否定はしないが、彼の提案するそれは、最早民主国家のそれではない。露見すれば、政党の支持率にも影響するだろう。

 他にも汚職に手を染めている者、女性蔑視をしている者、男性嫌悪の者……政権にダメージを与える者達は幾つか把握している。彼等の『活躍』次第では、私の通した法案の評価が大きく下がるかも知れない。

 敵は内外に多く、そして強い。しかし私は負けるつもりなどない。

 この国を偉大にしたい訳ではない。

 世界の覇権なんかにも興味はない。

 ただ、我々大人の都合で幼子がお腹を空かせ、なりたい職に就けない国にはしたくないのだから――――

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