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ある後継者の善意

 今から凡そ十万年前、この星には哺乳類型の知的生命体が存在していた。

 発掘作業により発見された数々の資料により、我々の祖先はその人類により知恵を与えられたと推測されている。これまでとは異なる理論により、更に高度な知能を身に付けようとした……その実験があと一歩早く実現していたなら、彼等は迫り来る破滅を免れていたかも知れない。

 しかしそれは間に合わなかった。

 哺乳類型知的生命体は自らの遺伝子操作を施した結果、ある種の気候変動に対し脆弱化。襲い掛かってきた変化に耐えられず絶滅したと考えられている。或いは、赤道直下の島に生息するケナシザルがその直系の子孫という可能性も示唆されているが、研究者により見識が分かれているところだ。

 なんにせよ哺乳類型知的生命体の文明は、自らの行った事により滅亡した訳だが……彼等を愚かだと言うのは、些か短絡的な思考である。

 発掘された遺品などを解読する限り、哺乳類型知的生命体の多くは、善意から遺伝子改変を施してきた。自分達の子供が食事に困らないように、不平等をなくすように、平和になるように……そうした善意によって人々は遺伝子改変を我が子に施したのだ。

 その中で、体質的な多様性が欠落しているとは考えずに。

 彼等は善意で生きていた。されどその善意の果てにあったのは、種族の滅亡という地獄だ。

 地獄への道は善意で舗装されている。

 発掘された哺乳類型知的生命体の遺物に記されていた、なんらかの比喩表現だ。その正確な意味は、思考体系が哺乳類とは異なる我々には理解出来ないものかも知れない。しかし私は、私個人の見解という前置きこそするが、こう考える。

 どれだけ善意があろうとも、その果てにあるものを深く考えなければ、地獄のような結果が待っている。

 無論哺乳類型知的生命体、そして我々は、世界の全てを知っている訳ではない。我々が認識する世界には限度があり、認識外で想定していない事態が起きれば結果は容易に想像を裏切る。

 我々の認識に限界がある以上、多様性の欠落は自滅に向かう一歩であり、同時に多様性の創出こそが本当に恐ろしい危機を切り抜ける方法なのだ。




 その上で、一つの提言を行う。




 ミジンコより派生した我々甲殻類型知的生命体は、哺乳類型知的生命体より多様性が乏しく、環境変化による絶滅が危惧される。

 そうした多様性の乏しさを補うためにも、遺伝子改変施術は極めて有効だと判断する。哺乳類型知的生命体の文明は認識の外にある事態により滅びたが、多様性の乏しい我々は認識外の事が多過ぎる。視野を広げ、異物と呼べる存在こそ増やさなければ、いずれ哺乳類型知的生命体と同じ運命を辿るだろう。

 無論研究者の中には、遺伝子改変が種族全体に広まれば哺乳類型知的生命体と同じ末路が待つと言う者もいる。しかし多様性を狭めていった彼等と、多様性が欲する我々とでは立場が違う。

 これは世界を良くする方法だ。勿論考えなしにやれば、待っているのは破滅という名の失敗だろうが……




 先人の失敗をよく研究した我々ならば、きっと上手くやれるだろう。




完結です。

デザイナーベイビーで一番怖い可能性は何か? それを考えたお話がこれです。枝葉は多種多様でも、根本が同じならこんな事もあるかも知れませんね。

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