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ある作業員の善意

 この百年で、世界は大きく変わったものだ。

 第二世代施術と呼ばれる、知能が大きく向上するデザイナーベイビー施術が開発され、歴史に名を残す天才達をも超える『凡人』が大勢生まれた。

 そうした天才児達は、次々と新たな発明をした……私もその一人だ。まぁ、天才とはいうが、私が受けた初期の第二世代施術と、現代の第二世代施術は全くの別物である。十年もすれば私も発想力に乏しい凡夫となり、二十年も経てば耄碌した年寄りの仲間入りだ。つまりはそれぐらい、日々技術が進歩している。

 それでも、まさか生きている間にこれを見られるとは思わなかったが。


「ついに完成しましたね、主任」


 部下である若い男に言われ、私はこくりと頷いた。

 私の目の前には、三十年の期間を経て建設された『塔』がある。

 塔の高さは、ざっと百メートル。これだけなら大したものではないが……その塔の先端から伸びている『ワイヤー』は三万六千キロ先まで伸びている。ワイヤーは二本あり、一方は登り、一方は下がるように動いていた。

 軌道エレベータ。宇宙にまで伸びる、巨大基地だ。

 このプロジェクトに私が参加したのは五年前の事。完成が見えてきた頃だけに、色々と多忙だったが……面白い日々だった。理解の早い若者に負けないよう、夜遅くまで必死に勉強したものである。

 そうしてついに完成したそれが、今日、初めて稼働する。

 私の目の前で。


「……私が子供の頃、軌道エレベータなんてのはフィクションだけの代物だったんだ。技術的にも難しいのもあるが、何より利権がネックだった」


「何処の国が予算を持つのか、その後得られる利益をどう分配するのか、という点ですね」


「ああ。けれども、若い奴らはそのわだかまりをすっかり解決した。全く、どんな知略を巡らせたのやら」


 私には政治の世界というものは、よく分からない。しかしきっとたくさんの思惑や理念のぶつかり合いがあり、その中でより良い世界を目指そうとした筈だ。

 結果的に、軌道エレベータの使用は全ての国に平等に認められる事となった。どの国であっても、この軌道エレベータを用い、宇宙開発に参加出来るのだ。

 ……このプロジェクトが始まる五年前に核兵器の全廃が成し遂げられたのも大きい。宇宙開発に欠かせないロケットの開発は、弾道ミサイルの開発と等しい行いだ。だから核兵器製造の疑いのある国家が宇宙開発に参加するのは、安全保障上絶対に認められる事ではなかった。

 しかし核兵器が無力化された事で、今や弾道ミサイル開発は大した脅威ではない。このため各国の調整が容易となり、今回の軌道エレベータ建造が可能となったのだ。

 軌道エレベータがあれば、コスト面から宇宙開発が容易になる。これまで貧困からプロジェクトに参加出来なかった国も仲間入りし、様々な人材が意見を交わせるようになるだろう。そうなれば、開発は飛躍的に進歩する筈だ。

 それは勿論喜ばしい事だ。だけど私にとって、一番喜ばしいのは……


「……孫に、人類の偉大な功績を見せられる事だな」


 私がぽつりと独りごちた言葉に、部下は無言のままこくりと頷くのだった。

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